2020年06月25日

資金循環統計(20年1-3月期)~個人金融資産はコロナショックの影響で昨年末比61兆円減と急減、企業の現預金は過去最高を更新

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(20年3月末):前年比でも10兆円減

2020年3月末の個人金融資産残高は、前年比10兆円減(0.5%減)の1845兆円となった1。年間で資金の純流入が19兆円あったが、株価の下落(TOPIXは年間11.8%下落)などによって、時価変動2の影響がマイナス29兆円(うち株式等がマイナス22兆円、投資信託がマイナス7兆円)発生したことで、残高が目減りした。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(12月末)比で61兆円減と大幅に減少した。減少幅は現行基準で遡れる2005年以降最大となっている。例年、1-3月期は一般的な賞与支給月を含まないことから資金の純流出となり、今回も12兆円の純流出となった。また、2月以降に新型コロナ拡大に伴う世界経済の減速を受けて株価が急落したことで、時価変動の影響がマイナス49兆円(うち株式等がマイナス36兆円、投資信託がマイナス11兆円)発生し、資産残高を押し下げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と為替の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり1-3月期に61兆円減少したが、この間に金融負債が3兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は64兆円減の1514兆円となった(図表5)。

ちなみに、4月以降、欧米などでの新型コロナ拡大ペースの鈍化と経済活動の再開を受けて株価が持ち直している(TOPIXは3月末から1割強上昇)ほか、経済対策に伴う給付金の支給や外出自粛に伴う消費の抑制もあり、現時点の個人金融資産残高は3月末から持ち直していると推察される。
 
1 2019年10-12月期の数値は確報化に伴って改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細:「貯蓄から投資へ」の動きは進まず

1-3月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となった。内訳も、例年同様、現金と定期性預金で純流出が目立つ一方、流動性預金(普通預金など)からの純流出はわずかに留まった(図表7)。

なお、定期性預金からの純流出は17四半期連続となっており、この間の累計流出額は47兆円に達している。一方で、この間の流動性預金への資金流入は107兆円に達している。1-3月期は小幅な純流出となったものの、流動性預金の3月末残高(485兆円)は前年比で約7%高い水準にある。株や投資信託の目減りもあって、流動性預金が個人金融資産に占める割合は26.3%と過去最高を更新している(図表8)。
(図表6)家計資産のフロー(各年1-3月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年1-3月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)・国債のフロー
各種預金金利がほぼゼロに貼りつく中、引き出し制限などで使い勝手が劣る定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ414兆円もあるため、今後も大幅な資金流出が避けられない情勢にある。これまで受け皿となってきたのは主に流動性預金だが、今後、定期性預金の資金の行く先に変化が出てくるかが注目される。
 
なお、リスク性資産への投資については、代表格である株式等が1.6兆円の純流入となった。純流入の規模は2010年4-6月期(2.4兆円)以来の高水準にあたる。個人投資家は基本的に逆張りスタンスであるため、株価急落局面で押し目買いが活発化したと推察される。一方で、投資信託は0.4兆円の純流出と2四半期ぶりに純流出に転じた(図表6)。

また、その他リスク性資産では、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託は堅調な資金流入が続いているものの、近年増勢が続いてきた外貨預金が純流出に転じる(海外金利低下の影響とみられる)など、リスク性資産への投資状況はまちまちだ(図表9)。既述のとおり、流動性預金に対する選好が続いているほか国債への資金流入が拡大していることもあり(図表9)、全体として「貯蓄から投資へ」の動きが活発化しているとは言えない。

3.その他注目点:企業の現預金が過去最高を更新、公的年金の対外証券投資が拡大

(図表10)部門別資金過不足(季節調整値) 1-3月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、企業部門の資金余剰がやや拡大(3.9兆円→5.3兆円)する一方、家計部門の資金余剰が大幅に縮小(9.2兆円→2.6兆円)した。2019年10-12月期には、消費増税後の駆け込み需要の反動減と消費マインド低迷によって消費が大幅に減少し、家計が大幅な資金余剰となっていたが、反動減の緩和が資金余剰額の縮小という形で表れたとみられる。
3月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は428兆円と昨年末から6兆円増加し、企業債務の増加基調が続いている(図表11)。一方で、現預金残高は283兆円と昨年末から14兆円増加。過去最高であった昨年9月末(272兆円)を大きく上回り、過去最高を更新している。例年年度末にあたる3月末にかけて、企業は現預金を積み増す傾向があるが、今回の増加額は例年よりもやや大きい。新型コロナ拡大に伴う経済活動の停滞を受けて、企業の間で手元資金を積み増す動きが生じた可能性がある。
 
なお、1-3月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は3.9兆円と、昨年10-12月期の5.1兆円をやや下回ったものの、近年の平均レベルであり、堅調を維持している3(図表12)。また、対外証券投資もプラスとなっており、1-3月期についてはコロナ禍という非常事態にもかかわらず、企業の海外投資に対する積極姿勢に変化は見られない。

ただし、4月以降はコロナ拡大によって内外経済がさらに鈍化し、企業収益も悪化していることから、企業の海外投資スタンスに変化が現れるかが注目される。
(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高/(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー)
国庫短期証券を含む国債の3月末残高は1131兆円で、昨年末から1兆円減少した。主な経済主体の保有状況を見ると(図表13)、預金取扱機関(銀行ほか)の保有高が147兆円(昨年末比2兆円減、シェアは0.2%低下)、海外部門の保有高が146兆円(同0.5兆円減、シェアは0.03%低下)と、それぞれわずかに減少した。海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いてきたため、マイナス金利の日本国債へ投資してもトータルでプラス利回りが確保できていた。このことが、従来、海外勢による積極的な日本国債投資を促してきたわけだが、2月にかけて、この上乗せ金利が低迷したことが海外勢による日本国債投資を抑制したと考えられる。

なお、日銀の国債保有高は499兆円と昨年末から5兆円増加し、全体に占めるシェアも44.2%(昨年末は43.7%)へとやや上昇した。日銀は新型コロナ拡大に伴って、3月に積極的な国債買入れ方針を表明していることから、今後もシェアの上昇が予想される。
(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア/(図表14)公的年金の株・対外証券・国債投資(資金フロー)
なお、GPIFなどの公的年金は、1-3月期に対外証券を3.0兆円買い越した。3.0兆円という買い越し額は10-12月期の2.5兆円を上回り、15年7-9月期以来の高水準となる。1-3月にはたびたび巨額の対外証券投資が確認されており、公的年金が動いたとの憶測が出ていたが、裏付けられた形だ。公的年金による多額の対外投資が円高進行の歯止めとして寄与した可能性がある。
 
3 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.2兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年06月25日「経済・金融フラッシュ」)

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