2020年06月15日

欧州経済見通し-ロックダウンの影響はどれほどか

経済研究部 研究理事   伊藤 さゆり
経済研究部 准主任研究員   高山 武士

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次にもうひとつの「封じ込め政策に伴う一時的影響/行動様式の変化による恒久的影響」について考察する。前者の「一時的な影響」は、封じ込め政策を緩和したらもとに戻る経済活動、後者の「恒久的な影響」は(強固な)封じ込め政策を撤廃してももとに戻らない経済活動を指している。

すでに政府主導の封じ込め政策は緩和されつつあるが、新型コロナウイルスの感染リスクが残るなかでの活動再開であるため、社会的距離(ソーシャルディスタンス)の確保が引き続き要請されているほか、自発的な感染回避行動(個人が海外旅行や外食を避けるなど)が経済活動の迅速な回復を阻害している。厳格度指数は低下しても、封じ込め政策がすべて撤廃されることは難しく、ウィズコロナ下で感染予防対策をしつつ経済活動を再開する以上、コロナ前と同じ状況には戻らないといえる9

前者の「一時的な影響」は、前節で述べた4月の活動水準の低下(小売売上で約▲20%、鉱工業生産で▲30%弱)が目安であり、すでにいくつかの経済統計が公表されている。
(図表19)ユーロ圏の景況感(Markit PMI) こうした「一時的な影響」から「恒久的な影響」が生じている部分を定量的に把握することは難しいが、景況感の悪さは封じ込め政策の緩和後も続いている。Markit社の景況感指数(PMI)は基準である50を大きく割った状況が続いており、少なくとも企業の感覚では5月の景況感は4月から改善していない10(図表19)。5月は封じ込め政策の緩和を模索していた時期であるため、封じ込め政策の影響による部分(「一時的な影響」で経済活動できない面)は大きいと見られるが、コロナ前のように経済活動が戻らない部分(「恒久的な影響」で経済活動が回復しない面)を感じている企業も出てきている可能性がある。欧州委員会が実施している景況感調査(ESI:経済センチメント指数)もすべての国で低下しており、特にサービス業において景況感の悪化が続いている11(図表20・21)。

短期的には政府の雇用維持政策や所得補償策、中央銀行も含む資金繰り支援策で解雇や倒産を一時的に避けられていた企業でも、感染予防行動が一定期間持続すれば中長期的には経営が悪化してしまう。
(図表20)ユーロ圏の景況感(欧州委員会サーベイ、ESI)/(図表21)2020/4 2020/5
例えば、雇用維持制度の活用は、フランスで40%近くの雇用者が申請しているほか、各国で利用が進んでおり、相当数の雇用維持に貢献していると見られるものの(図表22)、「恒久的な影響」により、経済回復が進まない業種などは、いずれ雇用調整せざるを得ない状況がおとずれてしまう。また、失業には至らずとも補助金で所得を維持している状況は、将来に対する所得水準維持・改善への不安を招くことから、個人消費改善の重しになりやすい。
(図表22)ユーロ圏主要国の雇用維持制度への申請件数 企業としては、後述するECBのコロナ禍対策の資産購入策(PEPP)では企業の社債・CPを発行・流通市場の双方から購入しているが、5月29日までで約460億ユーロの利用が進み、企業の資金調達ニーズが大きいことを示している。しかし、「恒久的な影響」が生じる企業では、将来の返済原資をこれまでの事業から得られるとは限らない。

前述の観光関連産業など、ウィズコロナ後を見据えた収益源を獲得しないと先行きは暗く、今年後半から失業率の上昇や倒産等が一定発生すると考えられる。政府にも、中長期的にはコロナ禍前の産業を復興させるだけでなく、産業転換を促進する政策が求められる。
 
なお、先行きの経済動向は、新型コロナウイルスが収束するか、再拡大するかといった感染状況や封じ込め政策(自発的な封じ込め政策も含む)に依存する部分が大きい。そしてこうした感染状況は突然変異による再拡大というマイナス要素から抗ウイルス薬の開発などのプラス要素まで幅広くあり、実現可能性の高いシナリオを提示するのは難しい。

本稿では、極端な要因は排除し、新型コロナウイルスの感染者は一定発生するものの、第一波の4月に講じてきた封じ込め政策よりも厳しい政策が実施されることはないと仮定している。当然ながら、第二波の到来とそれに伴う封じ込め政策の再強化等があれば経済活動を抑制されるため、これらはリスクシナリオとなり、現環境下では先行きの不確実性は相応に高い12
 
9 もちろん、教育活動など封じ込め政策(学校休校の有無)に大きく影響する活動がある一方で、スポーツ・演劇など社会的距離の確保が活動水準に大きく影響する(人が集められなければ収入が減ってしまう)産業や、観光など個人が感染リスク回避的な行動をとることで需要が戻らない産業は少なくないと考えられる。
10 方向性を示すいわゆるDI(diffusion index)。前月より良くなったか(上昇・増加・改善)、あるいは悪くなったか(低下・減少・悪化)を回答する。50を超えると過半数が改善したと回答したことを意味するアンケート調査であり、経済活動が回復していても活動水準が低いことから、「悪くなった」と回答する可能性もある。
11 ESIもDIであり、総合指数のESIは100を超えると過半数が改善したと回答したことを意味する(各業種の指数は0を超えると過半数が改善したと回答したことを意味する)。ただし、ESIの質問は、過去3か月の需要変化・今後3か月の需要予想(サービス業)、将来1年間の財政状況・失業見通し(消費者調査)などから構成されており、単純に前月と比較した景況感の方向性が示されているわけではない。
12 例えば、ECBが2020年6月に提示したスタッフ予測では、ベースラインの他に楽観シナリオ(mild scenario:ウイルスの封じ込めに成功)と悲観シナリオ(severe scenario:第二波と封じ込め政策の再強化)を提示している。この予測では実質GDP成長率はベースラインで2020年▲8.7%→21年5.2%、楽観シナリオで20年▲5.9%→21年6.8%、悲観シナリオで20年▲12.6%→21年3.3%であり、今年の成長率でも▲5.9~▲12.6%と6.7%ポイントもの幅を持って見ている。
( 見通し:ポイント )
以上の議論を踏まえて、ユーロ圏の経済見通しは以下の通りとした(表紙図表1、図表23)。
 

・封じ込め政策による「一時的な影響」で生産活動はコロナ禍前と比べ14%程度落ち込む
-4月に最も経済活動が落ち込んだのち、5月以降はゆっくりと回復する
-瞬間風速は2020年4-6月期で前期比年率▲37.4%、7-9月期以降は前期比プラスとなる
-2020年暦年で見ると成長率は▲8.0%に下落、21年も5.1%の回復にとどまる。

・ウィズコロナ下での経済活動再開となるため、「恒久的な影響」が避けられず回復力は弱い
-GDP水準が元の水準に戻るまでには、数年を要する(見通し期間中には回復しない)
-企業収益の低下による雇用調整により、失業率はラグをもって年後半にかけて上昇する
-失業率は2020年10-12月期に10.3%まで上昇し、その後の改善ペースは遅い

・新型コロナウイルス感染拡大の第二波など不確実性は高く、ダウンサイドリスクも大きい

(図表23)ユーロ圏の経済見通し

2.物価・金融政策・長期金利の見通し

2.物価・金融政策・長期金利の見通し

( 見通し:物価は低インフレ、金融緩和的な状況が続く )
物価の見通しについては、足もとは原油価格の下落を主因として低下しており、2020年5月は前年同期比+0.1%となった。今後、原油価格の下げ止まりのために上昇に転じると見るが、コロナ禍による需要回復の遅さが要因となるため、低めでの推移が続くだろう。HICP上昇率は2020年で0.5%、21年も1.2%の伸び率にとどまると見ている(図表23、表紙図表2)。

ECBはコロナ禍の拡大を受け、大規模な流動性供給と量的緩和・信用緩和手段を投入してきた(図表25)13。3月12日の定例理事会で、従来の資産購入策(APP)の拡大(1200億ユーロの規模)と6月に予定されている貸出条件付資金供給オペ(TLTROIII)の拡充、それまでのつなぎ融資策(LTRO)の実施を決定、18日には臨時理事会を開催してコロナ対策に特化したPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)を導入、CPの購入要件も緩和した。その後も、4月には担保の格付要件等を緩和したほか、コロナ対策用の資金供給策であるPELTRO(パンデミック緊急長期リファイナンスオペ)も導入した。6月4日にはPEPPの規模拡大も決定し、現在は2021年6月まで総額1兆3500億ユーロの規模の購入枠を設定している。
(図表24)ECBの資産残高 ECBは将来の購入について具体的な方針を示していないが、2021年のインフレ率でも目標の2%より低位推移すると見られることから、資産購入量は縮小しても購入プログラムは継続され、ECBの保有資産は拡大基調は維持すると見られる(図表24)。

こうした状況を受けて、長期金利の上昇はゆっくりとしたものになるだろう。景気回復と財政拡大によって金利には上昇圧力が強まり、緩和的な金融政策との綱引きとなるだろう。コロナ対応としての緊急的な緩和策の終了が視野に入るにつれ金利も上昇すると想定しているが、そのペースはゆっくりで、ドイツ10年債金利は2020年平均で▲0.4%、21年は▲0.3%(図表23、表紙図表2)を想定している。
(図表25)ECBによるコロナ対応の主要金融政策ツール
 
13 金融政策のほか、金融機関監督者としての立場か自己資本比率要件を緩和なども実施している。具体的には、3月12日に第2の柱ガイダンス(P2G)に基づく資本・流動性要件(ストレス時でも十分な資本を維持するための水準)、資本保全バッファー(CCB:ストレス時の損失吸収バッファー)、流動性カバレッジ比率(LCR:流動性資産の保有要件)を下回ることを許容した。加えて、ドイツなど各国金融機関当局においてカウンターシクリカル資本バッファー(CCyB:景気変動の損失吸収バッファー)の緩和などを追加的に実施した国もある。
 
 

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経済研究部

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

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経済研究部

高山 武士 (たかやま たけし)

(2020年06月15日「Weekly エコノミスト・レター」)

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