2020年06月10日

緊急事態宣言で経済活動はどれだけ落ち込んだのか~ニッセイ月次GDPを用いた試算~

経済研究部 経済調査部長   斎藤 太郎

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1――自粛要請、緊急事態宣言で急速に落ち込んだ日本経済

日本経済は、2019年10月の消費税率引き上げによって大きく落ち込んだ後、徐々に持ち直していた。しかし、新型コロナウィルスの感染拡大を受けた2020年2月末の安倍首相による自粛要請によって3月に大きく落ち込んだ後、4/7の緊急事態宣言の発令を受けて落ち込み幅がさらに拡大した。

この間、多くの調査機関、エコノミストによって、自粛要請、緊急事態宣言による経済への影響が試算されてきたが、そのほとんどは外出自粛、休業要請に伴う個人消費の落ち込みを中心としたものだった。しかし、経済活動制限の影響は個人消費に限らず、住宅投資、設備投資など幅広い分野に及んだとみられる。緊急事態宣言が発令された2020年4月の経済指標がほぼ出揃ったこのタイミングで、自粛要請、緊急事態宣言によって日本のGDPがどれだけ落ち込んだのかを試算する。試算にあたっては、当研究所が作成している月次GDPを用いた。
 

2――月次GDPの概要

2――月次GDPの概要

当研究所が作成している月次GDPは、四半期統計であるGDPを月次化することにより、景気の動きをより迅速に捉えることを目的のひとつとしている。当研究所の月次GDPの作成方法は基本的には内閣府の四半期別GDP速報の推計方法に従っている。たとえば、民間最終消費支出であれば、「家計調査」、「家計消費状況調査」等から推計した需要側推計値、「生産動態統計」、「サービス産業動向調査」等から推計した供給側推計値、家賃等の共通推計項目(推計値)の3つを統合することによって推計している。この際、GDPの推計と同様に、家計調査の消費支出からSNA上は消費支出とみなされない「寄付金」、「仕送り金」などを控除する、世帯人員の調整をする、といった概念調整を施す。このような推計を需要項目毎(民間消費、設備投資、公的固定資本形成、輸出入等)に行い、それを積み上げたものが月次GDPとなる。

月次GDPは公式統計として存在するわけではなく、あくまでも独自の推計値である。とはいえ、月次GDPが内閣府の公表するGDPとかけ離れたものになっては意味がない。そこで、当研究所の月次GDPはその3ヵ月合計(季節調整値は3ヵ月平均)が内閣府の四半期GDPと一致するように調整をしている。そのため、月次GDPが3ヵ月分揃った段階で、これはそのままGDP速報(QE)の予測値として使うことができる。月次GDPのもうひとつの目的は、内閣府が公表するGDP速報(QE)をより正確に予測することである。
図表1 月次GDPの長期推移 月次GDPは当該月終了後約1ヵ月で作成でき、景気の方向、その強さを毎月判断することができる。バブル期までの日本経済は、景気拡張期だけでなく景気後退期でもプラス成長ということが多く、GDPの動きによって景気の局面を判断することは難しかった。しかし、バブル崩壊後は景気拡張期にはプラス成長、後退期にはマイナス成長という傾向が強くなっているので、GDP統計を景気指標としてみる意味合いは強くなっている。実際、景気の転換点と月次GDPのピーク、ボトムは概ね一致している(図表1)。
 

3――最近の月次GDPの動向

3――最近の月次GDPの動向

図表2 最近の月次GDPの動き 最近の月次GDPの動向を確認すると、消費税率が引き上げられた2019年10月に前月比▲3.1%の大幅減少となった後、11月以降は緩やかな持ち直しが続いていたが、自粛要請、緊急事態宣言を受けて、2020年3月が同▲4.4%、4月が同▲5.8%と2ヵ月で約10%の急激な落ち込みを記録した(図表2)。2020年4月の減少幅は東日本大震災が発生した2011年3月の前月比▲4.9%を上回った。

需要項目別には、外出自粛の影響で民間消費が大幅に減少(3月:前月比▲4.0%、4月:同▲6.1%)したことに加え、海外の主要国でロックダウン(都市封鎖)や入国制限が実施されたことから、財貨・サービスの輸出が急速に落ち込んだ(3月:前月比▲7.3%、4月:同▲10.2%)。
このように、新型コロナウィルスの感染拡大とそれに伴う自粛要請、緊急事態宣言によって、日本の経済活動は急速に落ち込んだが、その影響を定量的に試算するためには、基準となる平常時のGDPを決めることが必要となる。実質GDPの直近のピークは2019年7-9月期だが、これを基準として2020年3月、4月のGDPを比較すると、2019年10月の消費税率引き上げによる落ち込み分が含まれてしまう。

そこで、新型コロナウィルス感染拡大の影響がほとんど見られなかった2020年2月までのデータを基にトレンド部分を抽出した上で、2020年3月、4月の月次GDPがそれを下回った部分を自粛要請、緊急事態宣言による下押し幅とみなした。試算は月次GDPとその需要項目である月次民間消費、月次住宅投資、月次設備投資、月次輸出、月次輸入について行った。輸出入の落ち込みは日本国内の経済活動の制限に加えて、海外のロックダウンなどの影響が含まれるが、これも新型コロナウィルスの影響ということで試算に加えた。一方、公的部門(政府消費、公的固定資本形成)は新型コロナウィルスの影響が小さいと考えられるため、試算を行っていない。

月次GDP、月次民間消費、月次住宅投資、月次設備投資、月次輸出、月次輸入の動きとトレンドからの乖離率は図表3-1~6のとおりである。
図表3-1 月次GDPの推移/図表3-2 月次民間消費の推移
図表3-3 月次住宅投資の推移/図表3-4 月次設備投資の推移
図表3-5 月次輸出の推移/図表3-6 月次輸入の推移
月次GDPのトレンドからの乖離率は、消費税率引き上げ後の2019年10月に▲1.8%とマイナスに転じた後、縮小傾向が続き2020年2月にはほぼゼロ%となったが、3月に▲4.6%、4月に▲10.1%までマイナス幅が拡大した。2020年4月時点の乖離率を需要項目別にみると、輸出が▲19.4%と最も大きく、それに続くのが、民間消費(▲11.0%)、住宅投資(▲5.3%)、設備投資(▲5.1%)、輸入(▲3.4%)となっている。輸入は2020年2月には中国工場の操業停止の影響で急激に落ち込んだことから、乖離率のマイナス幅が▲8.9%まで拡大したが、中国の経済活動再開に伴い、3月、4月と持ち直している。
 

4――2020年3月、4月の経済損失額の試算

4――2020年3月、4月の経済損失額の試算

前節では、月次GDPと各需要項目について、実質・季節調整済・年率換算値のトレンドからの乖離率を求めた。これを名目・原数値(月次)に換算することにより、金額ベースの経済損失額を試算した。
図表4 2020年3月、4月の経済損失額 月次GDPから試算される経済損失額は、2020年3月が▲2.2兆円、4月が▲4.7兆円、合計▲6.9兆円となった。需要項目別には、外出自粛の影響を強く受けた民間消費が最も大きく、3月が▲1.4兆円、4月が▲2.8兆円、合計▲4.2兆円となり、GDP全体の落ち込みの約6割を占めた(図表4)。

当初、5/6までとされていた緊急事態宣言の期間延長により、5月の経済活動も極めて低い水準にとどまったとみられる。その後、緊急事態宣言は、5/14に39県、5/21に3府県(大阪、京都、兵庫)、5/25に全国で解除されたため、経済活動の水準は4、5月が底となり、6月以降は上向くことが見込まれる。

月次GDPを推計する際に用いる月次経済指標のほとんどは2020年4月分までしか公表されていない。そこで、5月、6月の主要経済指標を予測した上で月次GDPを試算すると、2020年5月に前月比▲0.3%と小幅ながら3ヵ月連続で減少した後、6月には同5.2%の高い伸びとなった。しかし、3月、4月の落ち込みがあまりに大きかったため、4-6月期の月次GDPの水準は1-3月期を大きく下回る。現時点では、2020年4-6月期の実質GDPは、前期比▲6.7%(前期比年率▲24.4%)の大幅マイナス成長を予想している。この予想に基づけば、4-6月期の経済損失額は▲12.2兆円(うち民間消費▲7.5兆円、住宅投資▲0.3兆円、設備投資▲1.3兆円、純輸出▲3.2兆円)となる。

緊急事態宣言が再び発令されることがないことを条件として、7-9月期以降は高めの成長が期待できる。しかし、「新しい生活様式」の実践が、旅行、外食などのサービス支出の抑制につながることなどから、今後の経済活動の回復ペースは、急激な落ち込みの後としては緩やかなものにとどまる可能性が高い。現時点では、実質GDPがコロナ前の水準に戻るのは2022年度以降になると予想している。
 
 

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斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

(2020年06月10日「基礎研レター」)

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