2020年06月05日

新型コロナ 見えない先行き-どうなれば「小康状態」や「終息」といえるのか?

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.279]

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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新型コロナウイルスの感染拡大は、先が見通せない。どうなれば小康状態に至り終息宣言が出せるのか、考えてみたい。

感染防止のカギは「潜在的な感染者」

現在の拡大防止策は、集団感染の防止を重視している。これは、医療施設で受診する患者以外に、発症前感染者、不顕性感染者、軽症感染者がいることを想定したものだ。こうした潜在的な感染者も、感染力を持つとみられている。最近の感染症の事例を、少しみてみよう。
 
まず、2002~03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)では、患者が本格的な感染力を持つのは、発症して肺炎に至る約5日後からといわれる。発症前感染者や発症初期患者の隔離により、感染拡大を防いだ結果、早期に終息に至った。
 
いっぽう、2012年流行開始のMERS(中東呼吸器症候群)は、重症化しにくく、不顕性感染者や軽症感染者がいた。不顕性感染者の感染力は不明だが、隔離は必要とされてきた。これら潜在的な感染者からの感染が、いまも続いているようだ。
 
インフルエンザの場合も、潜在的な感染者が問題となる。発症しても、通常の風邪と見分けがつきにくい。受診せずに、無理をして会社や学校に来てしまい、その結果、感染が拡大するといわれている。
 
では、今回の新型コロナはどうか。不顕性感染者や軽症感染者がいるとみる研究者が多い。そこで、潜在的な感染者を念頭に置いた拡大防止策がとられている。
 

小康期に入るための数値基準はない

拡大防止策により、感染症が終息(患者が1人もいない状態)すれば理想的だ。しかし、専門家の多くは、新型コロナがエンデミック(風土病として、感染症が地域に一定の割合で発生し続けること)として定着するとみているようだ。
 
たとえば、ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授は、こう予測している。
 
〈来年までに、世界の40~70%の人々が、新型コロナに感染するだろう。ただし、感染者がすべて重症となるわけではない。多くは軽症か不顕性感染となるだろう。〉(The Atlantic誌2020.2.24)
 
政府は2013年に、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」を公表している。そこでは、感染症拡大をいくつかの時期に分けて、対策をとることとしている。
 
海外で感染が発生する「海外発生期」、国内で初の患者が出る「国内発生早期」を経て、国内で初めて接触歴が追えない患者が出る「国内感染期」に入る。新型コロナは現在、国内感染期とみられる。
 
その後、患者の発生が減少し、低水準でとどまる「小康期」に入れば一段落。ただし、その数値基準は示されていない。
 

過去の感染症でみる「小康状態」

過去の感染症の小康状態をみてみよう。
 
【SARS】2002年11月、中国広東省で流行開始。WHO(世界保健機関)には、中国語のレポートが届いたが翻訳されず、対応が遅れた。当時は、英語とフランス語だけがレポートに用いられていたためだ。(※現在は、中国語、アラビア語、スペイン語、ロシア語も用いられている。)
 
その後、感染が拡大し、2003 年3月、WHOは「世界規模の健康上の脅威」と宣言した。感染地域では、徹底した患者の隔離等が行われた。その結果、感染は5月にピークを迎え6月に抑制された。
 
【韓国でのMERS】2015年5月中旬に、感染した患者が出た。感染していた中東地域からの帰国者が、いくつかの医療機関を受診したことで、二次感染が発生した。韓国では、38人の死亡者が発生した。
 
感染者の隔離を徹底した結果、6月に感染は失速した。感染が医療施設内にとどまったことも、封じ込めに寄与した模様。
 
【新型インフルエンザ】2009年4月に、アメリカやメキシコで、ブタ由来のウイルスが、人から人に感染する例が発生。感染は若年層、特に子どもに拡大した。WHOは、警戒フェーズを引き上げ、6月12日よりパンデミック移行を宣言した。
 
その後、北中米、南米を中心に、感染拡大が続いた。秋には感染者数の把握が困難となり、WHOは12月に感染者数の公表をやめ、死亡者数のみの集計とした。2010年に入ると、流行は通常の季節性インフルエンザと変わらなくなった。8月10日、WHOはパンデミックを解除した。

コロナで「終息宣言」を出す条件

SARSは2003年7月5日にWHOより終息宣言が出された。これは、2~10日間とされる潜伏期間の2倍の日数が経過しても、新たに患者が出なかったことによる。
 
韓国でのMERSでは、韓国政府が2015年12月24日をもって終息宣言を発表した。2~14日間とされる潜伏期間の2倍の日数を経ても、新規患者がなかったためだ。新型コロナでは、WHOは潜伏期間を1~14日としている。28日間、新規患者が出ないことが終息宣言の条件と考えられる。
 
新型コロナは、現段階では終息が見通せない。政府の防止策とともに、一人ひとりの予防策の実施が重要と考えられる。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2020年06月05日「基礎研マンスリー」)

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