2020年05月20日

新型コロナによる家計消費の変化-世帯属性別に見た消費支出の違い

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~3月の二人以上世帯の消費支出は前年同月比▲6.0%、世帯属性によって違いも?

総務省「家計調査」によると、2020年3月の二人以上世帯の消費支出は前年同月と比べて実質6.0%減少した。新型コロナウィルスの感染拡大による外出自粛などの影響で、おおむねどのような世帯でも消費支出の減少が予想されるが、例えば、子育て世帯なのか、高齢世帯なのかといった属性によって、その程度には違いもあるだろう。

また、「新型コロナで増えた消費、減った消費1で見たように、外食や旅行・レジャー、ファッションなどの外出型の消費は減る一方、「巣ごもり需要」や「デジタル需要」は増すなど、消費領域によって明暗が分かれていた。これらの状況にも、世帯属性による違いがあるのかもしれない。

本稿では、新型コロナによる家計消費の変化について世帯属性による違いを捉える。
 
1 久我尚子「新型コロナで増えた消費、減った消費」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レター(2020/5/13)
 

2――二人以上世帯の概観

2――二人以上世帯の概観~教養娯楽や被服及び履物、外食などが減少、設備修繕・維持はやや増加

まず、二人以上世帯の状況を概観したい。2020年3月の二人以上世帯の消費支出は前年同月比▲17,060円、実質増減率▲6.0%である(図表1)。内訳を見ると、「教養娯楽」(▲5,520円、実質▲19.9%)や「被服及び履物」(▲3,238円、▲26.3%)、「教育」(▲3,313円、▲17.4%)での減少が目立つ。

「教養娯楽」については、前稿1でも述べた通り、ゲームや書籍などの室内で楽しめる娯楽需要は増す一方、外出自粛などの影響で春休みの旅行・レジャーなどが控えられたことで、パック旅行費や宿泊料が減少している。その結果、「教養娯楽」全体では2割程度の減少となっている。

「被服及び履物」については、巣ごもり生活では洋服を新調する必要性が薄れるとともに、卒入学式の中止や規模縮小の影響もあり、婦人服をはじめ全体的に支出額が減少している。

「教育」については、休校による自宅での学習需要が増すことで、小中学生などの補習教育や学習参考教材の支出額が増えているが1、「教育」の約7割を占める私立校などの授業料等(▲3,159円、▲23.3%)が減少したことで、「教育」全体では2割程度の減少となっている。

なお、「その他の消費支出」(▲6,547円、▲10.8%)の減少も目立つが、これは主に交際費(▲6,214円、▲27.2%)の減少によるものだ。

「食料」(+657円、▲0.5%)はおおむね同様だが、内訳には巣ごもり生活の影響が表れており、各種食材や調味料の支出額が増加する一方、食費の約2割を占める外食(▲4,010円、▲32.1%)が減少している。なお、「食料」の支出額は変わらない一方、「教養娯楽」など他の消費内訳で支出額が大幅に減少したものがあるために、エンゲル係数は24.4%から26.1%(+1.7%)へと上昇している。

「住居」(+725円、+3.8%)がやや増加しているが、これは主に設備修繕・維持(+500円、+1.2%)の増加によるものである。
図表1 二人以上世帯の消費支出の内訳の変化

3――世帯属性別の消費支出

3――世帯属性別の消費支出~現役(勤労者)世帯で家族が多い世帯、家計収入が不安定な世帯で減少

図表2 世帯属性別に見た消費支出の実質増減率の前年同月比(2020年3月) 次に、世帯属性別の状況を見るために、消費支出の実質増減率の前年同月比を見ると、就労状況別には、無職世帯<勤労者世帯、共働き世帯<専業主婦世帯、共働き世帯では妻がフルタイム<妻がパートタイムというように、減少幅が大きくなっている(図表2)。

なお、勤労者世帯の可処分所得は、専業主婦世帯<共働き世帯、共働き世帯では妻がパートタイム<妻がフルタイムの方が多い。

また、家族類型別には、単身世帯<二人以上世帯、子のいない世帯<子のいる世帯、子が一人の世帯<子が二人の世帯というように、減少幅が大きくなっている。

つまり、勤労者世帯で可処分所得が比較的少なく、家族の人数が多い世帯ほど、新型コロナの影響で消費が減っている。無職世帯より勤労者世帯で消費が減っている理由は、勤労者世帯の多くは現役世帯であるため、外出自粛などによる影響が大きいためだろう。また、家族が多いほど、一人一人の消費行動が変わることで、世帯全体の変化も大きくなる。

なお、2020年3月では、本稿の分析対象とした世帯で可処分所得が大きく減少した世帯はない(最も減少幅が大きい単身勤労者世帯で▲4,420円、▲2.4%:後述の図表4)。よって、この時点では、必ずしも可処分所得の減少が消費支出の減少に直結しているわけではないようだ。むしろ可処分所得が増えていても消費支出は減っているという状況だ。

一方で、可処分所得の増加に対して、消費支出の減少幅が大きな世帯の傾向を見ると、専業主婦世帯など稼ぎ手が一人であったり、共働き世帯でも妻がパートタイムで働いているなど、家計収入が比較的不安定な世帯ほど、今後の先行き不安から消費を控える傾向はあるようだ。
 

4――世帯属性別の消費内訳

4――世帯属性別の消費内訳~高齢者はリスク回避、現役世帯は春休み需要減少のほか暮らし方の違いも

消費支出の減少幅には無職世帯か勤労者世帯か、すなわち高齢世帯か現役世帯かで違いが見られたため、両者を分けて見ていきたい。
1高齢無職世帯の状況~感染による重症化リスクから旅行や人との接触を控える傾向がより強い
高齢無職世帯の消費内訳の実質増減率を見ると、二人以上世帯と同様に「教養娯楽」や「被服及び履物」が減少しているほか、「住居」や「家具・家事用品」も減少している(図表3)。一方で「交通・通信」や「保健医療」は増加している。
図表3 二人以上世帯と無職世帯の消費支出の実質増減率(%)の比較
「教養娯楽」の減少幅は二人以上世帯と比べて大きいが、これは主にパック旅行費の減少によるものだ。二人以上世帯では約8割の減少だが、高齢無職世帯では9割前後も減少している。高齢者は新型コロナの感染による重症化リスクが高いため、旅行を控える傾向がより顕著に表れたのだろう。

「住居」の減少は主に設備修繕・維持によるものだが、二人以上世帯ではやや増加していたため、対照的な結果とも言える。高齢者世帯では、修繕作業に伴う人の出入りや買い物などを避ける一方、現役世帯では時間の余裕ができたために、むしろ積極的に修繕作業等を行った可能性もある。

「家具・家事用品」の減少は、主に冷暖房器具などの家庭用耐久財の減少によるものであり、暖冬の影響もあるだろう。

「交通・通信」の増加は、自動車関係費(+4割前後)と通信(+約25%)の増加によるものであり、交通(▲6割前後)は減少している。非接触志向の高まりから、自家用車の利用が増え、自宅ではインターネット通販などのデジタル消費が増えている様子がうかがえる。

「保健医療」の増加は、主にマスクなどの保健医療用品・器具や医薬品の増加によるものである。二人以上世帯でもこれらの需要は増しているが、診療代などの保健医療サービスが減少したために「保健医療」全体では減少している。一方で、高齢世帯ではマスクや医薬品の需要が増すとともに、診療代も減っていないために「保健医療」全体で増加している。

なお、「食料」では二人以上世帯と同様、全体では大きくは変わらないが、外食が減る一方、各種食材の支出額は増えるなど、内訳には変化がある。また、「食料」以外では支出額が大幅に減少した項目があることで、エンゲル係数は二人以上世帯と同様に上昇している(+2%弱、変化率で+6%前後)。
2現役(勤労者)世帯の状況~教養娯楽や外食の減少など共通点もあれば、暮らし方で異なる面も
現役(勤労者)世帯の消費内訳の実質増減率を見ると、二人以上世帯や高齢無職世帯と同様に「教養娯楽」や「被服及び履物」が減少している(図表4)。
図表4 二人以上世帯と現役(勤労者)世帯の消費支出の実質増減率(%)の比較
「教養娯楽」では旅行関連の支出に加えて、遊園地や映画館の入場料などが含まれる他の教養娯楽サービスも減っており、新型コロナによって多方面から春休み需要が奪われた様子がうかがえる。

「交通・通信」の減少幅が大きな世帯が多いが、これは主に交通や自動車関係費の減少によるものだ2。なお、通信の支出額は共働き世帯で増加傾向が強いため、テレワークによる影響が考えられる。

また、子のいる世帯では「教育」の減少幅が大きな世帯が多いが、これは主に私立校などの授業料の減少によるものだ3。なお、休校を背景に、学習塾などの補習教育の支出額はおおむね増えている。

「保健医療」の増減については、主に診療代などが含まれる保健医療サービスの支出額の増減による影響である。

「住居」が増加している世帯が多いが、主に設備修繕・維持によるものであり、現役世帯では時間の余裕ができたために、修繕等の作業に取り組んだ世帯も多い可能性もある。

「家具・家事用品」の増減については、主に家庭用耐久財の支出額の増減による影響である。家庭用耐久財の増減は世帯によってそれぞれだが、全ての世帯で共通している点は、トイレットペーパーなどが含まれる家事用消耗品が増えていることである(高齢無職世帯も同様)。

なお、「食料」では二人以上世帯や高齢無職世帯と同様、外食が減り、各種食材が増えた結果、「食料」全体では大きくは変わらない世帯が多い。減少幅の大きな夫婦二人世帯のうち専業主婦世帯と単身勤労者世帯では、酒類や菓子類などの嗜好品の減少幅が大きい傾向がある4。なお、他の世帯では酒類はむしろ増えており、外で飲めないために「家飲み」へと移っている様子がうかがえる。

「食料」の支出額はいずれも変わらないが、特に子のいる世帯では旅行関連をはじめ、多方面の支出額がしたことで、エンゲル係数の上昇幅が大きい傾向がある(夫婦と子二人世帯で+3~4%程度、変化率で+1~2割)。

以上より、現役世帯では、新型コロナによる消費の増減には教養娯楽面などの共通点もあれば、異なる部分もある。背景には、家族の年齢や勤務状況(例えば、同じように在宅勤務と言っても、日中はテレビ会議に追われるような状況もあれば、時間に余裕のできる状況もある)に加えて、今後の家計収入の見通しの違いなどがあるのだろう。いずれにしろ、図表4を見ると、およそ7割のセルで±5%以上の増減が見られたように、新型コロナによって多方面の消費行動が影響を受けている。
 
2 「交通・通信」が唯一増加している夫婦と子一人世帯のうち共働き世帯では、自動車関係費(自動車等購入)が増えているが、今後の結果もあわせて考察したい。
3 「教育」が唯一増加している共働き世帯のうち妻がフルタイムの世帯では、授業等料が増えている。
4 この背景としては、夫婦二人世帯のうち専業主婦世帯の世帯主の平均年齢は他世帯より高いこと(49.7歳、他の二人以上勤労者世帯はいずれも45歳以下。最も低いのは41.7歳で夫婦と子二人世帯のうち専業主婦世帯)なども影響して、例えば、感染リスクを意識して免疫力を高めるなど、健康志向の高まりなども考えられる。
 

5――おわりに

5――おわりに~今後の変化要因は(1)緊急事態宣言の解除、(2)一律10万円給付、(3)雇用環境の悪化

今後の家計消費の変化要因には、(1)緊急事態宣言の解除(2)経済支援策である一律10万円給付、(3)雇用環境の悪化(家計収入の減少)などがあげられる。

(1)は外食などの外出型の消費を増やす効果があるが、感染症との戦いは依然として続いている。よって、しばらくは巣ごもり型を軸とした消費行動が続き、即、消費が戻るとは考えにくい。

(2)によっては単純に可処分所得が増えるために消費増に期待をしたいところだ。しかし、特に現役世帯では先行き不安((3))から、給付金は可処分所得が減った世帯での食費などの必需的消費への補填にとどまり、可処分所得が減っていない世帯では事態の収束が見えるまでは、ひとまず貯蓄に回し手元にとどめる傾向が強いのではないか。

(3)は長期的に大きな影響を及ぼす深刻な問題だ。一方で、企業活動への新型コロナによる打撃は甚大であり、雇用環境の悪化は避けられない。すでに新型コロナとの戦いは長期戦へと突入しており、生活困窮世帯をいかに支援し続けるかが課題だ。必要な世帯には給付金の追加など更なる支援策を講じるとともに、雇用維持を図る助成金の拡充や一部の自治体で見られるような雇用機会の提供(例えば、アルバイト先の休業などで経済的に困窮した学生に対する雇用機会の提供)など、多方面から継続して生活支援策を講じていく必要がある。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2020年05月20日「基礎研レター」)

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