2020年05月14日

新型コロナでREIT市場は急落。不動産市場は曲がり角に直面-不動産クォータリー・レビュー2020年第1四半期

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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(2) 賃貸マンション
東京23区のマンション賃料は上昇基調にある。三井住友トラスト基礎研究所・アットホームによると、2019年第4四半期は前年比でシングルタイプが4.2%、コンパクトタイプが4.5%、ファミリータイプが6.0%上昇した(図表-11)。住宅系REITの運用実績をみても都心エリアに近い住居ほど賃料の上昇率が高い傾向が見られる5。また、高級賃貸マンションの空室率(2020年3月末)は前年比▲0.6%低下の4.6%、賃料は前年比▲0.8%の17,656円/月坪となった(図表-12)。
図表-11 東京23 区のマンション賃料
図表-12 高級賃貸マンションの賃料と空室率
 
5 日本アコモデーションファンド投資法人(2020年2月期)によると、テナント入替時の賃料変動率は+7.0%に拡大した。また、更新時の賃料変動率も緩やかに上昇している。
(3) 商業施設・ホテル・物流施設
商業・ホテルセクターでは、既に新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なダメージをもたらしている。商業動態統計などによると、2020年1-3月の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲15.3%、スーパーが+1.6%、コンビニエンスストアが▲1.1%となった(図表-13)。新型コロナウイルスの影響から、スーパーが飲食料品の売上が好調であったのに対して、外出自粛を受けて百貨店の売上が大幅な悪化を示し、コンビニエンスストアも来店客数が減少し販売額はマイナスとなった。
図表-13 百貨店・スーパー・コンビニエンスストアの月次販売額(既存店、前年比)
2020年3月の訪日外国人客数は前年同月比▲93.0%、1-3月累計では前年同期比▲51.1%の約394万人と急減した。また、宿泊旅行統計調査によると、2020年1-3月の延べ宿泊者数は前年同期比▲17.3%減少し、このうち外国人が▲36.6%、日本人が▲12.6%となった(図表-14)。STR社によると、全国のホテル稼働率(3月)は32.5%(昨年3月84.7%)、平均客室単価(ADR)は前年同月比で▲28.5%下落した。
図表-14 延べ宿泊者数の推移(月次、前年比)
シービーアールイー(CBRE)の調査によると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2020年3月末)は前期末比▲0.6%低下の0.5%となり過去最低水準を更新した(図表-15)。Eコマース市場の拡大などを背景に先進的物流施設への需要は強く、3,000坪以上の空室のある物件は首都圏全体で新築の1棟のみとのことである。近畿圏の空室率も改善傾向が続いており前期比▲0.3%低下の3.7%となった。

また、一五不動産情報サービスによると、2020年1月の東京圏の募集賃料は前期比2.1%上昇し4,370円/月坪となった6
図表-15 大型マルチテナント型物流施設の空室率
 
6 J-REITが所有する物流施設の賃料も堅調である。GLP投資法人(2020年2月期)の賃料増額改定率はプラス4.4%、日本プロロジスリート投資法人(2019年11月期)の改定賃料変動率はプラス1.6%であった。
 

4. J -REIT(不動産投信)市場

4. J -REIT(不動産投信)市場

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大はJリート市場にも多大な影響を及ぼしている。2020年3月末の東証REIT指数(配当除き)は昨年末比▲25.6%下落し、四半期ベースでは過去最大の下落率を記録した。セクター別では、商業・物流等が▲28.4%、オフィスが▲26.0%、住宅が▲15.8%下落した(図表-16)。3月末時点のバリュエーションは、純資産10.3兆円に保有物件の含み益3.8兆円を加えた14.1兆円に対して時価総額は12.4兆円でP/NAV倍率7は0.9倍、分配金利回りは4.8%、10年国債利回りに対するスプレッドは4.8%となっている。
図表-16 東証REIT 指数の推移(2019 年12 月末=100)
Jリートによる第1四半期の物件取得額(引渡しベース)は4,740億円(前年同期比+7%)となり昨年同期を上回った(図表-17)。アセットタイプ別の取得割合は、物流施設(35%)・オフィス(30%)・住宅(12%)・商業施設(10%)・ホテル(9%)・底地ほか(5%)の順であった。今後については、Jリート市場の下落によってエクイティ資金の調達コストが上昇していることに加えて、不動産取引においても売り買い双方の価格目線が合わず様子見の姿勢が強まることが予想され、物件取得額は減少に向かうと考えられる。
図表-17 J-REIT による物件取得額(四半期毎)
今年に入ってからしばらくは、Jリート市場は昨年末比プラス圏で推移しコロナ禍とは遠く離れた立ち位置にあった。しかし、金融市場がひとたび強烈なショック安に見舞われると、上場金融商品であるJリート市場もその影響を免れなかった。東証REIT指数は2月第4週以降急落し、直近高値からの下落率は一時▲49%に達した(3/19時点)。その後は反発に転じたものの、東証REIT指数は2015年9月以来の水準まで落ち込んでいる。

今回の急落要因としては、(1)投資家があらゆるリスク性資産を売却し現金化を急ぐ「需給要因」、(2)日増しに悪化するパンデミックへの不安感といった「心理要因」のほか、(3)将来の不動産価格の下落を見据えた「ファンダメンタタルズ要因」が挙げられる。このうち、(3)ファンダメンタルズ要因についてみると、市場全体のP/NAV倍率が0.9倍と1倍を下回っており、今後の不動産価格の下落を織り込む水準となっている。そこで、各社の開示資料(P/NAV倍率、負債比率、アセットタイプ別保有比率)をもとに、価格下落リスクをどの程度織り込んでいるかアセットタイプ別に確認すると、大きい順に、ホテル(▲34%)<商業施設(▲20%)<市場全体(▲8%)<オフィス(▲6%)<住宅(▲1%)<物流施設(+5%)となった(図表-18)。つまり、Jリート市場はコロナ禍のダメージはホテルや商業施設で大きくなる一方で、住宅や物流施設では相対的に小さいと評価しているようだ。

いずれにしても、不動産市場の先行きは、新型コロナウイルスの終息時期や各国の金融・財政対応、今後の景気回復状況によるところが大きい。感染拡大に衰えがみえず厳しい状況が続くが、この危機を克服し社会に日常が戻るよう、各国間のさらなる連帯を願いたい。
図表-18 Jリート市場が織り込む不動産価格の下落率(アセットタイプ別、3 月末時点)
 
7 P/NAV倍率とは、市場時価総額がリートの解散価値(NAV:Net Asset Value)の何倍で評価されているかを表わす指標。
 
 

(ご注意)本稿記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本稿は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものでもありません。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2020年05月14日「不動産投資レポート」)

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