2020年05月12日

新型コロナへの生活者の不安ー全国6千名の定量調査から見えること、不安を軽減させるには

基礎研REPORT(冊子版)5月号[vol.278]

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1―はじめに

ニッセイ基礎研究所では、3月1日からの全国一斉休校という政府要請の直後、全国の20~50歳代の男女、約6千名に対して「暮らしに関する調査」を実施した。本稿では、そこで見えた新型コロナへの不安が強い生活者の特徴を捉える。

2―新型コロナへの不安

1|性年代別
 
「新型コロナウィルス関連肺炎に対して、どの程度不安に感じるか」についてたずねたところ、全体では「非常に不安」(38.6%)と「やや不安」(35.1%)をあわせた不安層が73.7%であった[図表1]。
コロナへの不安
不安層は年齢とともに増え、いずれの年代でも女性が男性を上回り、今回の調査では最も年齢階級の高い50歳代の女性では82.2%であった。これは、女性の方が男性より、休校や日用品の買い出しをはじめ、新型コロナによる暮らしの混乱の影響を受けやすいことに加えて、不安を感じやすいという性差の影響もあるのだろう。
 
2|職業別
 
職業別に見ると、男性では不安層は「公務員( 管理職以上)」(75.3%)で最も多く、次いで僅差で「正社員・正職員(管理職以上)」(72.4%)、「公務員(一般)」(72.2%)、「正社員・正職員( 一般)」(69.4%)「、経営者・役員(」68.4%)と続く。
 
男性では、出社制限やテレワークへの切り替え指示といった現場のマネジメントを担う管理職層では、負担感が強いために不安が強い様子がうかがえる。
 
一方、女性では不安層は「専業主婦」(84.8%)で最も多く、次いで僅差で「自営業・自由業」(81.0%)、「嘱託・派遣社員・契約社員」(79.6%)、「パート・アルバイト」(78.1%)、「正社員・正職員(一般)」(74.3%)と続く。
 
女性では、子の休校による負担が大きな層ほど不安が強い様子がうかがえる。負担には家庭で子の世話をすることのほか、就業者ではフリーランスや非正規雇用者などの不安定な立場で働く者は、休業が収入減少に直結するという金銭面の問題もある。
 
3|家族の状況別
 
家族の状況別に見ると、未婚者より既婚者(配偶者あり)で、子がいないよりいる方が、単身世帯より同居家族の人数が多い方が不安層は多い。家族の人数が多いと自分だけでなく家族の心配がある上、自宅での罹患リスクが高まる懸念があるのだろう。
 
なお、男性と比べて休校の影響を受けやすい女性について、就業状態別・子の有無別に見ると、就業者では子の有無によらず、自営業・自由業>非正規雇用者>正規雇用者の順に不安層が多いが、いずれも子のいる女性が子のいない女性を上回る[図表2]。また、子のいる女性では、自営業・自由業の不安層は専業主婦を上回る。
女性の不安層
4|日頃の行動・価値観別
 
このほか、新型コロナに関係がありそうな日頃の行動や価値観別に見ると、「情報は自分で検索して手に入れたい」や「情報取得に時間をかけている」などの情報収集に積極的な層のほか、「SNSを使う人は多いが、結局、マスメディアの影響が最も大きいと思う」というマスメディア志向の強い層で不安層が多い傾向がある。
 
これらより、増え行く感染者数や食料・日用品の買い占め騒動といった不安を増すような情報に対して、他者と比べて多く接することで、自ら不安を高めている様子がうかがえる。

3―新型コロナによる外出抑制~

「新型コロナの発生によって外出を控えるようになったか(通勤・通学を除く)」についてたずねると、全体では「控えるようになった」(30.0%)と「やや控えるようになった」(33.9%)をあわせた外出抑制層は63.9%であった。
 
新型コロナへの不安別に見ると、外出抑制層は、「非常に不安」と「やや不安」をあわせた不安層では74.9%、「全く不安でない」と「あまり不安でない」をあわせた非不安層では20.9%であった。
 
なお、外出抑制層は不安層が多い属性とおおむね合致しており、男性より女性で、年齢は高いほど、未婚者より既婚者で、子がいないよりいる方が、男性は管理職層で、女性は専業主婦のほか、自営業・自由業>非正規雇用者>正規雇用者の順に多い。
 
地域別には、当調査の実施直前に、知事から外出自粛要請が出た北海道で、最も不安層が多く、外出抑制層も多い。

4―外出抑制で増えた行動


「外出を控えて、どのような行動が増えたか(複数選択)」についてたずねると、全体では「テレビの視聴」(51.4%)が最も多く、次いで「ネットサーフィン」(43.8%)、「動画配信サービスの視聴」(27.5%)、「睡眠」(22.6%)、「インターネットショッピング」(20.9%)と続く。また、「その他」の自由記述では、「ゲーム」が比較的多いほか、「裁縫」や「除菌」といった項目もあがっている。
 
外出抑制で増えた行動について、不安層・非不安層別に見ると、不安層ではいずれの項目も選択割合が高い傾向があるが、特に「テレビの視聴」( 非不安層より+18.8%pt)や「ネットサーフィン」( +13.9%pt)、「インターネットショッピング」(+10.8%pt)で非不安層との差がひらく[図表3]。
 
外出抑制で増えた行動
つまり、不安が強く外出を控えている者ほど、家でテレビを見たり、ネットで情報収集をしている。日頃から情報収集に積極的な層やマスメディア志向の強い層で不安層が多いことを踏まえると、外出を抑制している者ほど、テレビやネット検索によって新型コロナの情報に多く触れており、負のスパイラルに陥っているようだ。
 
つまり、マスメディア志向や情報収集志向が高い者ほど不安が強く、不安が強いために外出を抑制し、自宅でテレビ視聴やネット検索をすることで新型コロナ関連の情報に接触することで、ますます不安を強めている[図表4]。
 
新型コロナへの不安
このほか、外出抑制で増えた行動については、20~30歳代で「動画配信サービスの視聴」や「SNSの投稿や閲覧」、「メールやLINEによるコミュニケーション」が、30~40歳代の男性で「ネットサーフィン」が、30~40歳代の女性で「掃除」や「料理」が多い。
 

5―おわりに

新型コロナの終息が見えずに、誰しもが不安を抱えている。世界各国で爆発的に感染が拡大する中で、不安を感じるのは自然なことだ。一方で、当調査の結果から、生活者自らが不安のスパイラルに陥っている様子も見えた。
 
未知の感染症との闘いにおいては、まだ不確かな情報も少なくない。このような中では、時には、ある程度、意識的に情報を遮断する時間を作ることも必要ではないか。
 
さらに、終息には数年を要するという見方もある。今、個人ができることは、自分の生活をしっかりと守ることだ。政府の経済支援策を十分に活用する一方で、不安感を不要に高めるような情報を自ら探しにいくのではなく、日々の健康管理など、すべきことをしっかりとやっていくことが精神の健康にもつながるだろう。
 
また、情報を出すメディア側には、感染者だけでなく退院者の状況など俯瞰した情報提供を求めたい。負の情報だけでなく、正の情報もあわせて見ることで、生活者は現状をより冷静に捉えられるのではないか。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

(2020年05月12日「基礎研マンスリー」)

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