2020年04月03日

もし日本で感染爆発が起きたら、円相場はどう動く?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(3月):コロナへの対応で追加緩和

(日銀)追加緩和
2月下旬に新型コロナウイルス拡大の影響で市場の混乱が拡大し、FRBが緊急声明で早期利下げを示唆したことを受けて、日銀は3月2日に急遽総裁談話を公表した。その中では、「今後の動向を注視しつつ、適切な金融市場調節や資産買入れの実施を通じて、潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく」との方針が示された。
 
その後、3月に入っても新型コロナの影響が拡大、市場の混乱や企業の資金繰り悪化がますます懸念される状況になったことを受けて、日銀は、もともと18日~19日に予定されていた会合を16日に前倒しして開催した。直前にFRBが当月2回目となる緊急利下げと量的緩和を決定したことも前倒し開催に影響した可能性がある。会合では、(1)CP・社債の買い入れ増額(計2兆円の追加買入枠設定)、(2)ETF(当面、従来の倍である年12兆円増のペースを上限)・J-REITの積極的な買入れ、(3)企業金融支援特別オペの導入などを内容とする追加緩和を決定した。一方で、マイナス金利の深堀りは回避した。
 
会合後の会見で、黒田総裁は今回の追加緩和の狙いとして、「企業金融の円滑確保に万全を期すとともに、金融市場の安定を維持し、企業や家計のコンフィデンス悪化を防止する」ことを挙げた。一方、マイナス金利の深掘りについては、「限界でこれ以上できないということはない」とし、「必要であれば行う」と表明した。また、仮に大幅な円高になったときには、「それなりに対応しないといけない」とも言及した。世界経済の行方に関しては、「一定期間、低成長が続く惧れがある」としつつ、「リーマンショックのときのような非常に大きな実体経済の落ち込みになるかといわれると、現時点では、そのようには誰もみていない」との見解を示した。
(今後の予想)
日銀の追加緩和余地は乏しいだけに、基本的に当面は新型コロナの動向と影響ならびに追加緩和後の政策効果を見極める姿勢を維持するとみられるが、企業の資金繰り不安が高まれば、不安を抑制すべくCP・社債の買入枠を拡大する可能性がある。また、基本的には慎重スタンスながら、今後大幅な円高が進行する場合には、日銀が「イチかバチか」で0.1~0.2%のマイナス金利深掘り(副作用緩和策とセットで)に踏み切る可能性も残されている。
短期政策金利の見通し/長期金利誘導目標の見通し

3.金融市場(3月)の振り返りと予測表

3.金融市場(3月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
3月の動き 月初-0.0%台半ばでスタートし、月末は0.0%台前半に。
月の上旬は、FRBの緊急利下げを受けた米金利低下が低下圧力になったが、日銀のマイナス金利深掘り観測は高まらず、-0.1%台前半から半ばでの一進一退に。10日にはリスクオフの一服や入札不調を受けて-0.0%台に上昇。その後は日銀のマイナス金利深掘り見送りや財政拡大観測、世界的な現金化の流れを受けて上昇が続き、19日には0.1%に肉薄した。月終盤にはFRBの量的緩和無制限化や現金化の動き一服を受けて低下に転じ、26日には0.0%付近に。月末も0.0%台前半で終了した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化
日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(3月)
(ドル円レート)
3月の動き 月初107円台後半でスタートし、月末は108円台後半に。
月の上旬は、新型コロナウイルスの欧米での感染拡大を受けたリスク回避の円買いとFRBの緊急利下げを受けたドル売りによって円が急伸し、9日には一時101円台を付けた。その後は米経済対策への期待からリスクオフがやや緩み105円前後に回復。月の半ばには日米中銀の緊急緩和に対する評価を巡って上下したが、その後は有事のドル買いが活発化し25日には111円台に乗せた。月の終盤には、FRBの大規模資金供給や各国中銀によるドル供給が寄与する形でドル需給が緩和したことでドル安になり、月末は108円台後半で終了した。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
3月の動き 月初1.11ドル台前半でスタートし、月末は1.09ドル台後半に。
月初1.11ドル台前半で推移した後、FRBの追加利下げ観測、米金利の低下観測を受けて上昇し、9日には1.14ドル台後半に。その後はECBの追加緩和を受けてユーロ安に転じ、13日には1.11ドル付近に。その後は新型コロナ拡大に伴う欧州の景気懸念や有事のドル買いが優勢となって低下基調となり、20日には1.07ドルを付けた。月終盤は、ドル需要の一服によってユーロが買い戻されて上昇し、月末は1.09ドル台後半で終了した。
金利・為替予測表(2020年4月3日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2020年04月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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