2020年03月10日

新型コロナと日本の対策-中国での新型コロナ対策は参考になるのか?

経済研究部 上席研究員   三尾 幸吉郎

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1――日本にとって参考になる中国の新型コロナ(COVID-19)情報

中国では新型コロナウイルスが猛威を振るっている。中国国家衛生健康委員会によれば、3月8日時点で新型コロナ(COVID-19)の確認症例は80,735名、死亡者は3,119名、致死率は3.86%となっている。また、中国疾病管理予防センター(中国CDC)が2月11日時点で集計した統計を公表した。公表内容を見ると、確認症例の年代別状況は(図表-1)、50歳代が22.4%、40歳代と60歳代が19.2%と多い一方、0歳代(0~9歳)は0.9%、10歳代は1.2%と少ない1。また、70歳以上の高齢層は11.9%を占めている。なお、男女比では男性が51.4%、女性が48.6%と大差ない。他方、致死率を見ると(図表-2)、高齢になるほど高くなる傾向が出ており、80歳以上では14.8%に達する一方、50歳未満では0%台に留まる。なお、基礎疾患を持つ人の致死率が高いことが指摘されており、心血管疾患では10.5%、糖尿病では7.3%、高血圧では6.0%の致死率に達している。その他にも、新型コロナウイルスは「L型」と「S型」に分類できるという研究結果を発表するなど、日本にとっては参考になる。
(図表-1)COVID-19確認症例の年代構成/(図表-2)COVID-19の致死率(%)(2020年2月11日現在)
 
1 若年層の確認症例が少ないのは無症状が多いため検査しなかったためとの見方もある
 

2――湖北省(武漢)では“医療崩壊”も、その他の地域では回避できそう

2――湖北省(武漢)では“医療崩壊”も、その他の地域では回避できそう

新型コロナの発火点となったのは周知のとおり湖北省の武漢だった。その武漢では、新型コロナウイルスに感染した人やその疑いを持つ人が病院に押し寄せ、診察できない人が街にあふれ出すこととなったため、突貫工事で病棟を建て増すとともに、人民解放軍の医療スタッフを投入して治療にあたったものの、既に死亡者は2,328名に及んでいる。いわゆる“医療崩壊”が起きたのである。この責任を問われて既に更迭された元書記(武漢市のトップ)の馬国強氏も「責任を感じる。少しでも早く厳格な措置を取っていれば、結果は今よりも良かった」と釈明している。

ここで、武漢の“医療崩壊”を統計的に分析してみよう。武漢以外でも同様の事態が起きていないかを確認するためだ。まず、経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、中国の病床数は住民千人当たり4.34床(2017年)とされているため、武漢も同じという前提をおく。また、現存感染者のピークは2月18日の38,020名だったため、これを武漢の人口(常住)である1,108万人で割り算すると、ピーク時の現存感染者は住民千人当たり3.43名に達していたことになる。即ち、3.43÷4.34で79.1%の病床を新型コロナの現存感染者に割り当てなければならなくなったという計算になる(図表-3)。そもそも病床の空きが少ない中で、ガンなどの重病で入院している患者を退院されることもできず、院内感染を防ぐには隔離する必要もあったため、日本でも映像が放映されたように突貫工事で病棟を建て増すとともに、人民解放軍の医療スタッフを投入して治療にあたることとなった。

そして、武漢で封じ込めに失敗した中国政府は、“医療崩壊”が全国に波及しないよう湖北省(省都:武漢市)を“都市封鎖”するなどの強硬策を講じたため、新たに新型コロナ感染が確認された症例はまだ増えているものの、時間を経るにしたがって治療を終えて退院する人も増えてきたため、ここもと現存感染者数が減少し始めている(図表-4)。また、3月8日時点の重症症例は5,111名で、2月18日の11,977名のピークから半減、感染した疑いのある疑似症例は421名で2月8日の28,942名から69分の1に減少、経過観察中の濃厚接触者は20,146名で2月初旬の19万人前後から9分の1に減少した。そして、湖北省(省都:武漢市)以外の中国では、前述の推定病床占有率が0.01%まで低下しており、“医療崩壊”が全国に広がるのは回避できそうである(図表-3)。
(図表-3)新型コロナ(COVID-19)の推定病床占有率/(図表-4)新型コロナ(COVID-19)の感染者数

3――日本政府が示した対策は正しいが、日本ならではの注意点も

3――日本政府が示した対策は正しいが、日本ならではの注意点も

(図表-5)新型コロナウイルス対策の目的(基本的な考え方) 以上のような中国での新型コロナ(COVID-19)の経験を踏まえて、日本政府は図表-52に示したように、「集団発生を防ぎ、医療対応の限界レベル以下に感染の拡大を抑制すべき段階」であると現状を認識した上で、2月25日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」を発表。26日には全国的なスポーツ・文化イベントの中止や延期を要請。27日には全国一斉の小中高校の臨時休校を要請し、29日には安倍首相が会見で国民に理解と協力を求めた。日本では既に全国的な「市中感染」の拡大が始まったとの現状認識に立つならば、筆者は「日本政府が打ち出した対策は大袈裟」なものでは決してなく、正しい判断だと考えている。

前述したような武漢における先行事例を見れば、日本の医療体制は中国よりも優れている3とはいえども、新型コロナウイルスの感染力は極めて強く、若年層は感染しても無発症だったり軽症だったりするため、自分は大丈夫だからと動き回り、最も注意すべき高齢者や基礎疾患を持つ人への感染を媒介する保菌者(キャリア)となって、あっという間に医療機関の対応能力を超えて“医療崩壊”に繋がりかねないからだ。しかし、日本政府が前述のようなややこしい説明を避けて、国民に理解しやすいようにとの忖度から、全国一斉の小中高校の臨時休校を要請した理由を、「子供の命と健康を守るため」という説明をしてしまうと、情報が自由に流通する自由主義の日本では、前述のように若年層の感染率は低く重症化するケースも少ないという情報との矛盾が生じて、「日本政府が打ち出した対策は大袈裟」だとの世論が形成されかねない。さらには、子供の小学校が臨時休校なので祖父母を呼び寄せて面倒をみてもらうという本末転倒なことにもなりかねず、せっかく日本政府が正しい判断をしても、その成果が十分に実現できない恐れがある。

また、PCR検査に関しても、高齢の父母を介護している人にとっては、自分が無症状のキャリアではないかと心配になり、希望者全員に検査を受ける自由を与えてほしいと思う人が多いだろう。しかし、「市中感染」が既に広がっているとの現状認識が正しいなら、無発症だったり軽症だったりする感染者が医療機関に殺到すると、医療機関が集団感染の現場となりかねない上、重症の感染者に十分な検査ができず、武漢のように“医療崩壊”する恐れが高まる。さらに、PCR検査をしても、ウイルス量が少ないと陰性判定となる場合もあるため、それで安心して高齢の父母を介護できるわけではなく、かえって危険でもある。したがって、感染した疑いのある軽症者は、そのまま回復する可能性も十分高いので、病院に駆け込んだりせず自宅療養に努め、医師がその必要性を認めない「不必要なPCR検査はしない」というのが理にかなっている。しかし、日本政府が「PCR検査は拡大へ向けて努力中」とするだけで、「不必要なPCR検査はしない方が良い」と説明しないでいると、情報が自由に流通する自由主義の日本では、新型コロナの「確認症例」が増えないのを見て、「市中感染」はまだ始まっていないと自由に判断し、「日本政府が打ち出した対策は大袈裟」だと考えて、「確認症例」の無い地方ではスポーツ・文化イベントの中止や延期が不十分となりかねない。そして、せっかく日本政府が正しい判断をしても、その成果が十分に実現できない恐れがある。その背後には、「確認症例」は情報として明確に伝達されるが、「市中感染」は情報として伝達しにくいという問題がある。したがって、「確認症例」に2週間程度先行する「市中感染」の推定値を地方別に示すなど、両者のギャップを埋める努力が必要である。
 
今回の新型コロナウイルスは武漢が発火点となって日本など世界に拡散したことから、中国での感染拡大の経緯や中国政府が採用した財政面や金融面の対策とその効果などは、「市中感染」が広がり始めた日本にとって役に立つ貴重な情報といえる。特に、この緊急事態の下で資金繰りに窮した中小企業を救済するために取った対策は参考になる。平常時なら問題なく生き残る企業がこの緊急事態で資金繰りに窮して倒産してしまえば将来に禍根を残しかねないからだ。リーマンショック後に成立した"モラトリアム法(中小企業金融円滑化法)"のようなものが必要になるだろう。また、中国ではこの緊急事態の下でもイノベーションが進み、在宅でのテレワークに加えて、オンライン医療、オンライン授業、オンラインヨガなどの普及が加速し、業務再開に際しては通行許可証として機能する「健康QRコード制度」を考案するなど日本にとっても大いに参考になる取り組みが多い。

但し、厳しい情報統制を敷く中国では、毎日のように当局からスマホにショートメッセージが入り注意喚起したり、政府の外出制限令に従わない国民はドローンで追い回して外出を抑制したりできるが、自由主義の日本ではそれも難しいため、日本政府が考えた新型コロナウイルス対策の効果を最大限に引き出すためには、中国とは異なる前述のような努力が必要となってくる。
 
2 図表上の患者数を示すピンク色の線は、その形状から見て「感染症例(累計)」ではなく「現存の感染者数」だと考えられる。
3 経済協力開発機構(OECD)が公表したデータによれば、日本の病床数は住民千人当たり13.05床(2017年)、医師数は同じく2.43人(2016年)、看護師数は同じく11.34人(2016年)と、中国の病床数は住民千人当たり4.34床(2017年)、医師数は同じく2.01人(2017年)、看護師数は同じく2.7人(2017年)よりも充実している。
 
 

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経済研究部   上席研究員

三尾 幸吉郎 (みお こうきちろう)

研究・専門分野
中国経済

(2020年03月10日「保険・年金フォーカス」)

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