コラム
2020年03月04日

書評:近藤克則著『長生きできる町』(角川新書、2018年10月)から健康寿命を考える

生活研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任   金 明中

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健康寿命に関する関心が高まる

最近、平均寿命の上昇と共に健康寿命に関する関心も高まっている。健康寿命とは、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間として定義されており、文字通り健康でいられる寿命のことである。そこで、本稿では2018年10月に出版された『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の内容を中心に健康寿命について考察したい。

本書は現代社会における健康寿命の格差拡大に着目し、その現状や課題を様々な視点から分析しつつ、格差を是正するために取り組むべきことについて記している。厚生労働省の調査結果によると、2016年時点の健康寿命は、男性の場合は山梨県(73.21歳)が、女性の場合は愛知県(76.32歳)が最も高く、男性最下位の秋田県(71.21歳)と女性最下位の広島県(73.62歳)とそれぞれ2.75歳と2.7歳の差があることが明らかになった。さらに、男女1位の山梨県と愛知県は2010年と2016年の6年間でそれぞれ2.01歳と1.39歳ずつ健康寿命が伸びているのに対して、男女最下位の秋田県と広島県はそれぞれ0.75歳と1.13歳ずつしか健康寿命が伸びず地域間における健康寿命の格差が広がっている。著者は、いくつかのデータを用いて都市部で暮らすほど認知症リスクが低く、低学歴・低所得者ほど死亡・介護リスクが高いと説明している。
健康寿命都道府県別ランキング(男女別上位5位)
厚生労働省は、栄養、運動、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣、経済的余裕、気候、社会参加や地域のつながりの有無などを健康寿命に影響を与える要素として挙げている。本書では健康寿命向上の成功事例として東京都足立区を紹介している。

足立区における健康寿命は2010年時点で東京都の平均よりも約2歳短かったものの、区が糖尿病をはじめとする生活習慣病への対策として、区民が野菜を手軽に食べられる環境を整えた結果、2015年には東京都の平均との差が男性は1.66歳、そして女性は1.25歳まで縮まった。著者は、「健康格差は実在するものの、取り組みによってその格差を縮小することが出来るので、まずは健康格差の存在を認識することが重要である。但し、健康格差は把握することが難しく、そのまま放置すると格差は広がる。」と注意を呼び掛けている
足立区の取り組み

子どもの段階で生じている健康格差

また、本書では健康格差がすでに子どもの段階で生じている可能性があることを4つの視点((1)胎児期の体重の影響、(2)子ども時代の貧困の影響、(3)経験の積み重ねの影響、(4)教育以外にできることとやるべきこと)の影響から説明している。各視点の例を整理すると次の通りである。
 
(1) 胎児期の影響:2008年度のWHOのデータによると低体重で生まれた赤ちゃんほど糖尿病になりやすい。
 
(2) 子どもの貧困が健康に与える影響:1960年と1990年におけるそれぞれの貧富状態を比較した分析結果によると、子ども時代から大人にかけて貧困であった場合、ずっと豊かであった人と比べて死亡率が4倍も高く、また子ども時代に貧困であると、認知症発症のリスクが高い。
 
(3) 経験の積み重ねの影響:物質的な欠乏のような貧困ではなく、家族が崩壊するといった社会的排除に直面し社会との繋がりが断たれてしまうと、教育という社会的経験を受けられなかったり、いい仕事(正規雇用)に就けなかったりするので、人生において重要となる様々な経験の積み重ねが不足してしまう。その結果制度による支援を受けることにも考えが及ばず、社会的貧困に陥ることになる。
 
(4) 教育以外にできることとやるべきことの影響:保護者が困ったときに相談相手がいると生活困難の影響が軽減できる可能性は高くなる。英国の事例から見ると、子どもの貧困を減らすための取り組みや歩きたくなる街づくり、コミュニティづくりなどを実施すると、最も豊かな地域と最も貧しい地域の平均寿命の差は7年から4.4年に縮小された。

重要性が高まる0次予防

WHOは、原因となる社会経済的条件、あるいは環境的条件によって規定される行動的条件を変えることで人々を健康にするようなアプローチを「0次予防」と呼び、これまでの1次予防(健康推進)、2次予防(早期発見・早期治療)、3次予防(再発・悪化予防)と共に重視している。つまり、0次予防では、人々のつながりに着目し、暮らしているだけで無関心な人まで健康になってしまう楽しいまちづくり、環境づくりを目指している。

0次予防の例としては、高血圧や脳卒中などの生活習慣病を予防するために、国が率先して国民の塩分摂取量を減らそうとする取り組みが挙げられる。塩の容器の穴の数を減らしたり、消費者が気付かない程度で徐々に塩分量を減らしていったりすることで塩分摂取量を減らすことができる。 

また、英国ではあらゆる業界の企業を巻き込み、食品製造における塩分の使用量を減らすことによって、国民の塩分摂取量を10%以上も減らした例がみられる。このように、国が率先して取り組むことによって、国民が置かれている環境を変え、その環境を変えることによって人の行動を変えるといういわゆるマクロレベルでの0次予防が可能であり、健康寿命の延長に繋がるだろう。

おわりに

今回は『長生きできる町』(近藤克則著、角川新書)の内容を中心に健康寿命について考えてみた。本書は、健康格差を考える上で必要な背景やデータを多角的に用いて説明している点が非常に分かりやすく、説得力を感じられた。著者は本書を通して、ただ長生きするのではなく、健康に長生きすることの大事さや、地域間の健康格差を解消するための地域における取組の実施の重要性を強調している。人間関係が薄い都市部で「サロン」と呼ばれる通い場を増やす試みや社会参加できるボランティア数を増やす取り組み、地域の課題の見える化などの実施がその良い例だと思う。

厚生労働省は、「健康寿命をのばしましょう」をスローガンに、国民全体が人生の最後まで元気に健康で楽しく毎日が送れることを目標とした「スマート・ライフ・プロジェクト」を2012年度から実施している。また、このプロジェクトでは、生活習慣病予防の啓発活動の奨励・普及を図るため、「健康寿命をのばそう!アワード」(生活習慣病予防分野)を実施しており、2019年で第8回目を迎えた。健康寿命を延ばすためには、適度な運動、適切な食生活、禁煙、健診・検診の受診が重要であると知られているが、それ以外にも社会参加が重要ではないかと思われる。筆者は都道府県のデータを用いて有業率と男性の健康寿命の相関関係を見てみた。分析の結果、65歳以上の有業率が男性の健康寿命に正の影響を与え、統計的に有意である結果が出た。この結果は社会参加が健康にプラスの影響を与えることを証明している。では、どうすれば定年後に社会参加を増やすことができるだろうか。定年後の社会参加を増やす方法の一つとして考えられるのが「リカレント教育」である。リカレント教育とは、義務教育や基礎教育を終えて労働に従事するようになってからも、個人が必要とすれば教育機関に戻って学ぶことができる教育システムである。現在の仕事だけではなく、定年後のことを考えてリカレント教育などに積極的に参加することは定年後の社会参加の可能性を高めるのにプラスの影響を与えるだろう。リカレント教育への参加などが健康寿命を延ばし、日本全国が「長生きできる町」になることを願うところである。
健康寿命(男性)と有業率(65歳以上)の相関関係
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生活研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任

金 明中 (きむ みょんじゅん)

研究・専門分野
社会保障論、労働経済学、日・韓社会政策比較分析、韓国経済

(2020年03月04日「研究員の眼」)

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