2020年02月14日

分散投資効果の計測とパフォーマンス改善の検証 

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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2分散投資効果を最大化するポートフォリオ
次に、理想的な状況を前提とした最適化により分散投資効果を最大化するポートフォリオを構築してみた2。この際、ポートフォリオのリスクは同期間の企業年金ポートフォリオのリスクと同水準に維持した3。これにより、パフォーマンスがどれだけ改善するかを試算した。

各資産のリスクやリターンの相関関係から最適化により、分散投資効果を最大化するポートフォリオを構築すると図表6のようになる。2019年3月時点での資産配分は国内株式16.6%、国内債券24.7%、外国株式17.0%、外国債券30.0%、その他11.6%となる。また、パフォーマンスは年率換算リターン+4.25%、リスク7.02%、シャープレシオ0.59、分散投資効果0.26となる(図表7)。

これを見ると、分散投資効果は企業年金ポートフォリオのパフォーマンス(試算)が0.20に対して分散投資効果最大化ポートフォリオは0.26に向上している。また、年率換算リターンは3.92%から4.25%に改善している。これは、収益源となるリスク資産を組み入れつつ、分散投資効果により、ポートフォリオのリスクを低減したことによると考えられる。分散投資効果を効果的に活用することで、企業年金ポートフォリオのパフォーマンスを、より良くできる可能性はあると言えよう。
図表6 分散投資効果最大化による資産配分の推移
図表7 分散投資効果最大化ポートフォリオのパフォーマンス推移
分散投資効果最大化は、リターンの相関の低い資産を組み合わせている。各資産の相関関係は図表8のようになっている。これを見ると、国内債券と国内株式が最もリターンの相関が低い組み合わせであり、相関係数は▲0.33となっている。分散投資効果最大化では、国内債券や国内株式を多く組み入れており、こうした低相関の資産を組み合わせることで、ポートフォリオのリスクを低減している。

ここで、分散投資効果最大化では、必ずしも全ての資産を組み入れていない。単純に組入資産を増やすことが、必ずしも、分散投資効果の向上につながらないことが示唆されている。

また、分散投資効果最大化では、短期資産・一般勘定が組み入れられていない点も特徴である。無リスク資産はリターンの変動が極めて小さく、分散投資効果の向上につながりにくいことによると考えられる。

なお、試算の対象とした期間では、国内債券の利回りは概ね低下傾向にあった。これにより、国内債券は利回り低下(債券価格上昇)による収益を獲得しやすい状況が続いていた。しかし、日本の10年国債の利回りは2016年2月にゼロを下回り、その後はゼロ近辺での推移が続いている。金利低下の余地が少なくなった現在では、国内債券は以前のような収益獲得は見込みづらい可能性がある。
図表8 代表的資産クラス間のリターンの相関
 
2 各時点で、各資産の過去2年間のリスクと相関に基づいて、分散投資効果(図表1参照)を最大化する資産配分を算出した。この際、各時点のリスクを企業年金の期間中の平均リスクとする制約条件を課した。
3 試算では、前月までの情報に基づいて当月の資産配分を決定している。このため、構築したポートフォリオのリスクは目標リスクとは若干の誤差が生じる。
3短期的なリターンによる資産配分
前節では、分散投資効果を高めるようにポートフォリオを構築した。しかし、実際に投資対象を選ぶ際には、足元のパフォーマンスが好調なものを選びがちかもしれない。参考に、短期間(過去1年間)のリターンに従って、ポートフォリオを構築する4と資産配分の推移は図表9のようになる。分散投資効果最大化による資産配分はリスクと相関関係に基づく。一方で、こちらは過去のリターンに従って資産配分が決定されている。2019年3月時点での資産配分は国内債券30.0%、外国株式26.1%、外国債券43.9%となっている。また、パフォーマンスは年率換算リターン+4.11%、リスク6.88%、シャープレシオ0.58、分散投資効果0.16となる(図表10)。

これを見ると、短期間のリターンによるポートフォリオのパフォーマンスや分散投資効果は、分散投資効果最大化によるポートフォリオよりも劣後していることが分かる。短期間のリターンによる資産配分では、過去のリターンが高かった資産に配分が偏りやすい。

また、組入資産の頻繁な入れ替えが発生している。今回の試算では売買コストは考慮していないが、実際の運用では、売買コストにより、パフォーマンスが更に低下する恐れがある。ポートフォリオの構築は、短期的なリターンに左右されず、長期的な視点で行う必要があるだろう。
図表9 過去1年間のリターンに基づく資産配分の推移
図表10 過去1年間のリターンに基づく資産配分のパフォーマンス推移
 
4 過去1年間のリターンを今後に期待されるリターンとして、平均分散アプローチによりポートフォリオを構築した。平均分散アプローチとは、リスクを小さくしつつ、リターンを高めるようにポートフォリオを構築する方法を指す。ポートフォリオのリスクを企業年金の資産配分と同水準とした上で、期待されるリターンを最も高めるようにポートフォリオを構築した。
 

5――まとめに

5――まとめ

本稿では、分散投資効果を計測する指標を用いて、ポートフォリオの分散投資効果を計測した。また、企業年金の資産配分を参考に、過去の実績に基づく分散投資によるパフォーマンスの改善を検証した。この結果、分散投資効果の効果的な活用により、パフォーマンスが改善された。

また、単に資産クラスの数を増やすよりも、効果的な組み合わせによりリスクの低減、投資効率が向上することが示唆され、効果的な資産の組み合わせが重要であることが改めて確認された。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

(2020年02月14日「基礎研レター」)

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