2020年02月14日

分散投資効果の計測とパフォーマンス改善の検証 

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任 原田 哲志

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1――はじめに

資産運用を行う上で、投資対象を分散することは重要な点である。しかしながら、ポートフォリオを構築する際に、分散投資効果を直接的に計測し、活用することは少ないのではないだろうか。

本稿では、分散投資効果を計測する指標を用いて、分散投資効果を計測する。これにより、分散投資効果を効果的に活用したポートフォリオの構築を行う。また、企業年金の資産配分を参考に、分散投資によるパフォーマンスの改善を検証する。
 

2――分散投資効果の計測

2――分散投資効果の計測

分散投資効果について考える上で、改めて分散投資効果とは何か確認したい。分散投資効果とは、値動きの異なる複数の資産に投資することで、ポートフォリオ全体のリターンの変動を低減する効果を言う。分散投資効果により、ポートフォリオ全体のリスクは組入資産各々のリスクの単純な合計よりも低下する (図表1)。

本稿では、組入資産のリスク合計に対してポートフォリオのリスクがどれだけ低下したかを分散投資効果の指標として、ポートフォリオの分散投資効果を計測する(図表1)。また、分散投資効果指標を用いて、資産配分の変更による分散投資効果の向上や、パフォーマンスの改善を試算する。
図表1 分散投資効果のイメージと計算

3――リスクとリターンの関係

3――リスクとリターンの関係

1代表的資産クラスの年次リターンの推移
次に、ポートフォリオのリターンについて考えたい。ポートフォリオのリターンは組入資産のリターンの組入比率による加重平均となる。このため、当然のことながらポートフォリオのリターンを向上するには、リターンがより高い資産を組み入れることが必要となる。

ここで、代表的資産クラスの年度リターンの推移を見てみたい(図表2)。これを見ると、直近5年間で各年度最もリターンの高かった資産は2014年度は外国株式(+32.6%)、2015年度は国内株式(+30.7%)、2016年度は国内債券(+5.4%)、2017年度は国内株式(+14.8%)、2018年度は国内株式(+15.9%) と年度毎に異なっている。各資産クラスのリターンとその順位は年度毎に変化している。このことから、1年程度の短期間のリターンの予測は容易ではないことが分かる。
図表2 代表的資産クラスの年度リターンの推移(2004年3月末~2019年3月末)
2長期的なリスク・リターンの関係
短期的なリターンの予測が困難な一方で、長期的なリターンはどうだろうか。図表3は、2004年3月から2019年3月までの15年間の各資産のリターンとリスクの関係を示している。これを見ると、各資産の年率換算リターンとリスクは国内株式(+4.0%,17.5%)、 国内債券(+1.9%,1.8%)、外国株式(+8.3%,18.7%)、外国債券(+4.0%,9.2%)、ヘッジファンド(+3.5%,5.1%)、短期資産(+0.1%,0.05%)となっている。

これを見ると、各資産の長期的なリターンは、概ねリスクに比例していることが分かる。リスクはリターンの源泉であり、ポートフォリオのリターンを高めるには、それに見合うリスクを持つ資産を組み入れる必要があるといえる。また、リターンをより安定して得るには長期的な投資が必要となる。

これらのことから、非常に基本的ではあるが、ポートフォリオのパフォーマンスを向上するには下記の点が重要といえる。収益源となるリスク資産を組み入れつつ、分散投資効果によりポートフォリオのリスクを低減することで、投資効率性(ここでは、シャープレシオ1)を向上することができる。

・ポートフォリオのリターンを高めるには、リスクの高い資産を組み入れる必要がある
・ポートフォリオのリスクを分散投資効果により低減する

図表3 代表的資産クラスのリスク・リターン
 
1 シャープレシオは下記の式で計算される。金融資産がリスクに対してどれだけ効率よくリターンを獲得できたかを計測する指標である。
 シャープレシオ=(リターン-無リスク資産のリターン)/リスク
 

4――分散投資によるパフォーマンス改善の検証

4――分散投資によるパフォーマンス改善の検証

1企業年金の資産配分
ここまでで説明した分散投資効果やリスク・リターンの関係に基づいて、企業年金ポートフォリオの分散投資効果とパフォーマンスの改善を試算したい。

企業年金連合会によれば、2004年3月末~2019年3月末の15年間における企業年金の資産配分は図表4のように推移している。2019年3月時点での資産配分は国内株式10.4%、国内債券22.6%、外国株式13.4%、外国債券16.7%、その他13.7%、短期資産・一般勘定23.2%となっている。また、企業年金の資産配分のパフォーマンスを試算すると年率換算リターン+3.9%、リスク6.9%、シャープレシオ0.55、分散投資効果0.20となる(図表4)。企業年金の資産配分では、分散投資効果により、ポートフォリオのリスクを20%低減できていることが分かる。

参考に均等配分によるポートフォリオのパフォーマンスは年率換算リターン4.0%、リスク7.4%、シャープレシオ0.52、分散投資効果0.20となっている。年金基金の資産配分のリターンや分散投資効果は均等配分とほぼ同等となっている。
図表4 企業年金の資産配分の推移
所)企業年金連合会のデータをもとにニッセイ基礎研究所作成
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和証券SMBC(現大和証券)入社
         大和証券投資信託委託株式会社、株式会社大和ファンド・コンサルティングを経て
    2019年 ニッセイ基礎研究所(現職)

    【加入団体等】
     ・公益社団法人 日本証券アナリスト協会 検定会員
     ・修士(工学)

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