2020年02月10日

「データの利活用」と「プライバシー重視」を両立させる時代~CES2020『チーフプライバシーオフィサー・ラウンドテーブル:消費者は何を求めているのか?』でアップルとフェイスブックのプライバシー担当役員が語ったこと

立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授 田中 道昭

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6――米国における個人情報の取り扱い、カリフォルニア州CPAが施行

EUのGDPR(一般データ保護規則、2018年施行)の流れや米国での様々なプライバシー問題などを受けて、今年の1月1日、カリフォルニア州CPAが施行された。カリフォルニア州は環境やモビリティにかかわる法制度など先駆的な立法化や政策で有名な州であるが、米国には連邦レベルでは個人情報全般を保護・規律する法律が存在しない中、同州が他州に先んじてCPAを施行したことが注目を集めている。

カリフォルニア州CPAでは、実名や住所・連絡先などは当然のこと、オンライン識別子やIPアドレス、閲覧履歴や検索履歴、さらには消費者の選考、性格、心理的傾向、素質等などを反映するプロファイルを作成するデータさえも個人情報として扱われる。現在の日本の個人情報保護法では「特定の個人を識別することができるもの」が個人情報と定義されているが、それと比べると相当に広いものとなっていることがわかる(図表参照)。カリフォルニア州CPAのもとでは、企業はそうした個人情報について違法な取扱いがあれば、多額の民事制裁金や損害賠償を請求されるリスクを負うことになる。

ここで言及しなければならないのが「クッキー」の取り扱いである。クッキーとは、簡単に言えば、ユーザーのブラウザと閲覧ウェブサイトのサーバーの間でデータをやり取りする仕組み、またはブラウザ毎にユーザーIDやパスワードなどのデータを保存・管理するものである。そして、このクッキー(サードパーティクッキー)がユーザーの認識がないままオンラインでのターゲティング広告に利活用されている。私たちのブラウザにバナー広告が表示されてくるのは、このクッキー(サードパーティクッキー)が働いているからである。

カリフォルニア州CPAではクッキーも個人情報として扱われることから、法規制対象となる。つまり、広告代理店やアドテック企業は、クッキーの取扱いに法的な制限がかかる、ターゲット広告にクッキーを利活用しづらくなるということである。もともと法制度化前からクッキーの利活用に関する業界の自主規制もあり、関係企業は対策を施してきたが、これからは法律によって規制されることになるのである。

現時点では、カリフォルニア州CPAのような法制度化はカリフォルニア州に限定されている。しかし、パネルディスカッションでは、FTCのスローター コミッショナーは、個人的な見解としながらも、連邦レベルでも同様の法律が制定されるべき、しかもそれは2021年までに法制化される可能性が高いという見通しを示した。こうしたプライバシー規制強化の流れは、米国においてはもはや不可逆となってきているのである。

なお、実はすでに広告代理店やアドテック企業などオンラインでのターゲット広告事業を展開する企業は、サードパーティクッキーの利活用の自主制限が行われていることから、ターゲット広告の精度が落ち、売上や利益も低迷するという状況に置かれ始めている。実際、そういった企業の株価下落、被買収、倒産なども目立ってきている。
法制度の比較~欧州GDPR、カリフォルニア州CPA、日本個人情報保護法

7――2020年は「プライバシー・テック」の年に

7――2020年は「プライバシー・テック」の年に

翻って日本では、プライバシーについての米国の現状の詳細を知るビジネスパーソンは依然少なく、そもそも「チーフプライバシーオフィサー」という役職名を聞いたことがある人自体少ないのではないかと思われる。日本は、データの利活用に関して、米国メガテック企業に比べて著しく遅れをとっていることがかねてから指摘されていた。プライバシー重視の姿勢や法規制についても、さらに周回遅れの状況となっている。実際、日本、欧州、米国カリフォルニア州の個人情報・プライバシーに関する法律を比較してみても(図表参照)、規制対象となる個人情報の範囲や違反時の罰則などにおいて、日本の個人情報保護法は規制が最も緩く、プライバシー重視の意識とともに法制度についても欧米に遅れをとっていることは明らかであろう。なお、今年は、その個人情報保護法の三年ごとの見直しの年でもあるが、筆者としてもその改正の行方を注視したい。

CES2020では、重要なテーマとして、「データの利活用」と「プライバシー重視」の両立が挙げられた。「データの時代」となっていることが明白である一方、同時に「プライバシーの時代」でもあるということ。つまり、「データの利活用」と「プライバシー重視」を両立させなければならない時代が到来しているのである。

このような中で、日本にはどのような対応が求められているのであろうか。それは、「データの利活用」でも「プライバシー重視」でも周回遅れであるからこそ、両者の状況を冷静に分析し、より的確な答えを見出だしていくことである。そして、むしろ後発の利益を意図的に享受するような、さらにはその両立において世界をリードするような戦略的な動きをとっていくべきではないかと考えられる。

米国では、ここ数年、プライバシーを保護するためのテクノロジーである「プライバシー・テック」の製品・サービスが支持されてきている。特に、本稿で指摘したように、プライバシー重視で高い評価を受けるアップルでさえも、規制当局からはプライバシー重視への取り組みが十分ではないと示唆される点は驚くべきことであった。日本においても、今年は、こうした「プライバシー・テック」やプライバシー重視の流れが押し寄せてくると考えられる。その意味で、2020年は、日本企業にとって、「データの利活用」と「プライバシー重視」の両立に関して本質的で具体的な対応が求められる一年となってくるのは確実であると考えられよう。
 
 

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立教大学ビジネススクール 大学院ビジネスデザイン研究科 教授

田中 道昭

研究・専門分野

(2020年02月10日「基礎研レポート」)

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