2020年01月29日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2019年12月17日に公表した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2019(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2019)」1に基づいて、EU(欧州連合)のソルベンシーIIにおける長期保証(Long-Term Guarantees:LTG)措置及び株式リスク措置についての保険会社の適用状況やその財務状況に及ぼす影響について、全体的な状況の概要を報告した。

今回のレポートでは、EIOPAの報告書の主として第3のセクションから、UFR(Ultimate Forward Rate:終局フォワードレート)及びMA(マッチング調整)について、その国別の適用状況やSCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率への影響等を報告する2,3。 
 
1 News
 https://eiopa.europa.eu/Pages/News/EIOPA-publishes-its-fourth-annual-analysis-on-the-use-and-impact-of-long-term-guarantees-measures-and-measures-on-eq-ri.aspx
 報告書
 https://eiopa.europa.eu/Publications/Reports/LTG%20Report%202019.pdf
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2019」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2019年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

2―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-UFRの使用-

1|全体的
リスクフリー・レートの補外としてのUFRの使用については、オプションではなく、技術的準備金を算出するために、全ての保険会社に強制される。従って、EIOPAの報告書では、これまで、この措置の適用状況ではなく、リスクフリー・レートを決定する要因であるUFRの水準、LLP(Last Liquid Point:最終流動性点)及びUFRへのCP(Convergence Period:収束期間)の前提を変更した場合の影響について報告してきた。

なお、2016年報告書では、保険会社が利用可能な範囲でリスク管理のために実施した感応度計算の結果のみが含まれていたが、2017年報告書及び2018年報告書では、UFR、LLP及び収束速度を変化させるシナリオ計算を含んだ会社への情報要求が行われた。

今回の報告書では、LLPの延長による影響に焦点が当てられた。具体的には、事前に選択された会社は、会社の財務状況に対する以下の2つのシナリオの影響を計算するよう求められた。

・シナリオ1:ユーロのLLPを20年から30年に延長、ユーロ以外では変更無
・シナリオ2:ユーロのLLPを20年から50年に延長、ユーロ以外では変更無

実際の報告会社の状況は以下の通りとなっている。
リスクフリー金利の補外のデータサンプルの状況
この286社のサンプルに基づく各シナリオの影響額は、以下の通りとなっている。

検討したサンプル全体について、シナリオ1では、技術的準備金は369億ユーロ増加し、SCRをカバーする適格自己資本は278億ユーロ減少し、SCRは142億ユーロ増加する。シナリオ2では、技術的準備金は624億ユーロ増加し、SCRをカバーする適格自己資本は474億ユーロ減少し、SCRは272億ユーロ増加する。
リスクフリー金利の補外の影響
2|SCR比率への影響
(1)会社毎の影響の状況
この影響の状況を各社別のSCR比率のベースラインシナリオの数値との比較でみてみると、以下の図表の通りとなっている。影響は会社毎に大きく異なっている。

SCR比率の絶対水準で100%ポイントを超える影響を受けるのは、シナリオ1では27社(会社数全体の9.5%、以下同様)、シナリオ2では56社(19.8%)となっている。8割以上の会社は、両方のシナリオでの影響が100%ポイント未満となっている。

また、SCR比率が100%を下回るのは、シナリオ1で5社(1.7%)、シナリオ2で13社(4.5%)となった。なお、これらの会社の技術的準備金のシェアは、シナリオ1で1.2%、シナリオ2で9%となっている。これらの会社が100%のSCR比率を確保するために必要な適格自己資本額は、それぞれ1.5億ユーロ、60.6億ユーロとなる。
図表 措置適用有無によるSCR 比率の変化(会社別)の分布状況
以下のボックスプロット(箱ひげ図)は、青のボックスのボトムが25パーセンタイルを、トップが75パーセンタイルを、黒い帯が50パーセンタイルを示している。一方で、線の両端の黒い帯は10パーセンタイルと90パーセンタイルを示し、その外部は10パーセンタイルより低い、又は90パーセンタイルより高い外れ値を点で示している。

これによれば、シナリオ1で最も広い分布が観察され、シナリオ3とシナリオ2が続いている。シナリオ1と3では、影響が▲100%未満であっても多数の異常値が観察され、中央値の影響と平均影響の間に差が見られる。
図表 措置適用有無によるSCR 比率の変化(会社別)の分布状況(ボックスプロット(箱ひげ図))
(2)国毎の影響の状況
以下の図表は、SCR比率、SCR及びSCRをカバーするための適格自己資本に関する2つのシナリオのそれぞれについて、EEA(欧州経済地域)レベル及び各国のSCR比率への平均影響度を示している。なお、少なくとも3つの適用会社がある国についてのみ掲載されている。

EEAレベルでは、ベースラインにおける252%のSCR比率に対して、シナリオ1は222%に30%ポイント低下させ、シナリオ2は200%に52%ポイント低下させる。
図表 シナリオ別のSCR 比率への影響(国別)
国別では、ドイツ(シナリオ1で110%ポイント、シナリオ2で182%ポイント)及びオランダ(シナリオ1で68%ポイント、シナリオ2で119%ポイント)におけるSCR比率の影響度が高くなっている。なお、影響度(前後のSCR比率の割合、以下同様)では、オランダが、シナリオ1で68%、シナリオ2で43%となり、最も高くなっている。因みに、ドイツはシナリオ1で76%、シナリオ2で60%となっている。
図表 シナリオ別のSCR 比率への影響度(国別)
3|技術的準備金への影響
以下の図表は、2つのシナリオによるEEAレベル及び国別の技術的準備金への影響を示している。

EEAレベルの技術的準備金は、シナリオ1では0.86%増加し、シナリオ2では1.45%増加する。

国別では、オランダが、シナリオ1で2.84%、シナリオ2で4.84%、オーストリアが、シナリオ1で2.19%、シナリオ2で4.51%、ドイツが、シナリオ1で1.12%、シナリオ2では2.33%の増加で、影響が相対的に大きなものとなっている。
図表 シナリオ別の技術的準備金への影響(国別)
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中村 亮一

研究・専門分野

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