2019年12月23日

EIOPAがソルベンシーIIの2020年レビューに関するCPを公表(6)-ボラティリティ調整について(その2)-

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1―はじめに

ソルベンシーIIに関しては、レビューの第2段階として、ソルベンシーIIの枠組みの見直しが2021年までに行われる予定となっており、その検討が既にスタートしている。欧州委員会は、EIOPA(欧州保険年金監督局)に対して、2019年2月11日に指令2009/138/EC2(ソルベンシーII)のレビューに関する助言要請1を行った。これを受けて、EIOPAが検討を進めていたが、2019年10月15日に、ソルベンシーIIの2020年レビューにおける技術的助言に関するコンサルテーション・ペーパー(以下、「今回のCP」という)を公表2した。

これまで3回のレポートで、今回のCPの具体的内容について報告してきており、前回のレポートでは、「ボラティリティ調整(VA)」に関する内容のうちの「技術的改善」及び「設計」について報告した。

今回のレポートでは、「ボラティリティ調整(VA)」に関する内容のうちの「一般適用比率」、「標準式における動的VA」、「VA使用の承認」及び「内部モデルにおける動的VA」について報告する。  

2―「ボラティリティ調整(VA)」-一般適用比率-

2―「ボラティリティ調整(VA)」-一般適用比率-

ここでは、「ボラティリティ調整(VA)」における「一般適用比率」についての検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|関連法規
ソルベンシーII指令第77d条第3項は、ボラティリティ調整(VA)はリスク修正後の通貨スプレッドの65%に相当すると規定している。

今回のCPでは、このファクターを一般適用比率(GAR)と呼んでいる。この表記は、VA改革の議論において、GARを新しい適用比率(AR)の提案と区別するために使用しているが、様々なカテゴリーに基づいて異なり、ARは一般的に会社固有である。

2|以前の助言内容
長期保証評価(LTGA)に関する技術的知見において、EIOPAはボラティリティ調整メカニズム(ボラティリティ・バランサー(VB))の導入を勧告した。EIOPAはVBに関連するリスクについて次のような見解を示した。

「この措置の実施に伴う主なリスクは、スプレッドに影響を与える「人工ボラティリティ」の過大評価であることは間違いない。資産の利回りとリスクフリーレートのスプレッドの合計には、実際には多くの要素が含まれている。CCP(カウンター・シクリカル・プレミアム)の現在の調整では、デフォルト確率、その確率のボラティリティ、ダウングレードのコストに関連する信用リスクのみが認識される。信用リスクだけでなく、スプレッドには、管理費用リスク、税金、市場不完全性のコストなどの重要な情報も含まれる。また、「バイ・アンド・ホールド」の原則は、ボラティリティ・バランサーの要件ではなく、また、保険負債は非流動的なものである必要はないことから、流動性リスクは、スプレッドの構成要素であり、水準調整において考慮されるべきである。したがって、計算されたスプレッドは、現時点では(CCP手法に基づいて)デフォルト・リスクにリンクしている部分のみを除外しているが、スプレッドの他の客観的な市場パラメータを考慮して調整する必要がある。」

この評価に基づき、EIOPAはVBの算出スプレッドは調整の実施に伴うリスクを考慮して調整されるべきであると勧告した。この調整は、20%の適用比率を導入することによって達成されるべきであり、これは、決定されたスプレッドの完全な適用ではなく、20%の適用のみをもたらす効果がある、とした。

ただし、ソルベンシーII導入前の政治的合意の一環として、EIOPAが提案した適用係数の概念は維持されたが、その値は65%に増加した。

3|問題の所在
GARの調整は、算出されたVAの水準、その結果、VAの効率的な機能に直接的な影響を及ぼす。GARの設定が高すぎる場合、オーバーシュート効果に寄与する可能性があり、VAの設定が高すぎると負債の価値が低すぎて過小評価されるリスクがある。他方、GARが過度に慎重に設定されている場合には、金融市場における景気循環促進行動を防止し、債券スプレッドの拡大の影響を緩和するメカニズムとしてのVAの機能を阻害する可能性がある。

EIOPAは現行の65%のGAR係数を変更すべきかどうか、変更する場合にはどの程度変更すべきかを検討した。

4|分析
EIOPAは、LTGAに関連した前回の調査結果に沿って、VAは、VAに固有の以下のリスクを考慮するために、引き続きGARの対象となるべきであると考えている。

a) 会社が実際にVAを獲得できないリスク

b) 会社が実際に債券スプレッドの拡大にさらされているかどうか、及び負債が強制売却に耐え、これらの債券スプレッドの拡大による損失の実現を防ぐのに十分な流動性がないかどうかにかかわらず、VAが広範囲の負債に等しく適用されるという制限

c) 債券スプレッドの誇張の測定やリスクフリー部分の特定に関して、不可避的な推定の不確実性のために生じるVAの決定の虚偽表示のリスク

さらに、(前回のレポートで報告した)VAの設計を変更する提案は、VAに関連するいくつかのリスクに影響を与える。

1) オプション1は、会社のポートフォリオと参照ポートフォリオの間のベーシス・リスクを低減し、それによって実際にVAを得ることができるリスクを低減する。

2) オプション4は、会社の資産・負債のデュレーションとエクスポージャーとの差異に起因するオーバーシュートのリスクを低減する新たな適用比率を導入する。

3) オプション5は、会社の負債がどれだけ非流動的であるかに応じてVAを変化させる新しい適用比率を導入し、それによって強制売却及び債券スプレッドの拡大による損失の実現に耐えることができないVA適用のリスクを低減する。

4) オプション6は、「予想外の信用リスク及びその他のリスク」 をより適切に捕捉するようにリスク修正を変更する。

5|検討される政策オプションとその評価
EIOPAは、GARの決定に関する以下の政策オプションを検討した。

·  オプション1:変更なし(すなわち、GARを65%に維持する)
·  オプション2:GARを100%に増やす。
·  オプション3:GARを65%から100%の間の値に変更する。

VAの現在の設計に伴うリスクは、VAの改良された設計によってある程度軽減できるが、これはリスクの低減につながるだけで、リスクの除去にはつながらないので、オプション2は適切でない。

オプション3の下では、GARの現在の値は65%から100%の間の値に増加する。このような増加は、GARが対処すべきリスクの一部がVAの改良設計によって軽減されるという期待から生じた可能性があるが、一方でより洗練されたVA設計によって導入されるであろう追加的な複雑さは、VAの定量化における追加的なリスクと不確実性をもたらす可能性もある。また、EIOPAは、GARの現在のレベルは、20%という以前のEIOPAの勧告よりも既にかなり高いと指摘していることから、GARの値の増加を正当化する十分な証拠はないと考える。

したがって、EIOPAは、「オプション1(GARの変更なし)」を選択している。

これに対して、利害関係者に対して、「一般適用比率についての考え」や「VA設計に対するアプローチ1又はアプローチ2が採用された場合、一般適用比率が変更されるべきか」という質問を投げかけている。
 

3―「ボラティリティ調整(VA)」-標準式における動的VA-

3―「ボラティリティ調整(VA)」-標準式における動的VA-

ここでは、「ボラティリティ調整(VA)」について、標準式における動的VAの導入の検討内容及びその助言内容について、報告する。

1|課題の特定
承認された内部モデルを使用してSCR(ソルベンシー資本要件)を計算している192社のうちの62社は、動的VAを適用しており、次の12カ月間のVAの変更の可能性を考慮している。このようなアプローチは、現在のSCR標準式では不可能であり、スプレッドリスクサブモジュールはVAの変化を考慮していない。

動的VAの適用はSCRに大きな影響を与え、2017年末の時点で、動的VAによる平均SCR減少率は25%であったのに対して、標準式を用いてSCRを導出した場合、VAによる平均SCR減少率は1%だった。

これにより、内部モデルを採用している会社と標準式を採用している会社との間に、公平な競争条件が存在しないのではないか、という懸念を生じさせている。

負債の非流動性を説明する技術的準備金の評価の固有の構成要素としてVAが解釈される場合、評価とリスク計測の間に不整合が生じ、VAのダイナミクスがリスク計測に適切に反映されないことになる。このようなVAの解釈の下では、SCRにおける動的VAの適用は整合的である。これとは対照的に、動的VAをSCRに反映しないと、評価とリスク測定の間に不整合が生じ、これは特にスプレッドリスクの測定に当てはまることになる。市場スプレッドの変化はVAに影響を与え、したがって技術的準備金と自己資本の価値、したがって考慮される最終的なリスクに影響を与えることになる。

2|分析
そこで、「SCR標準式において、動的VAを認める」ことを検討している。

このオプションの下では、スプレッドリスクのサブモジュールのストレスシナリオは、スプレッドのストレスから生じるVAの変化を考慮するように修正される。この目的のために、EIOPAがストレスVAを提供する。

ストレスVAは、標準式がそうする範囲でのみ、国債のスプレッド拡大を反映する。会社は、ストレスによるVAの規模の変化によって影響を受ける技術的準備金の値を再計算する必要がある。

これにより、保険会社が別のリスク、すなわちVAの減少の結果として技術的準備金の増加のリスクにさらされることになるので、SCR標準式の現在の設計への追加、スプレッドリスクサブモジュールにおいてスプレッドが減少する別のシナリオを追加することが必要になる。

なお、VAの設計が会社固有の要素(会社固有のVA、オーバーシュート又は非流動性の適用比率)を含むように変更された場合、会社はEIOPAからの入力データ(会社固有のVAのストレス・スプレッド、適用率前のVA)に基づいてVAを計算する。

VAを適用し、標準式でスプレッドリスクのSCRを導出する会社は、動的VAを適用するか、又は現在行われているようにスプレッドリスクの資本要件を計算するかを選択することができる。

もう一つの可能性は、より間接的な方法で動的VAを適用する、すなわち、会社の有効適用率に基づいて、スプレッドのリスク・チャージを削減することが考えられる。ただし、このアプローチが、SCR標準式のスプレッドリスクのシナリオにおけるVAの影響を把握していることを確かめるためには、さらなる分析が必要となる。

国債リスクを含む動的VAを適用した場合の効果については、SCRを3.3%低下させることになり、減少のレベルは、動的VAが標準式に関して公平な競争条件の問題を生み出すという懸念を支持しない形になった。むしろこれとは対照的に、数字は、国債のリスク負担をゼロに保ちつつ、標準式において動的VAを許容することは、標準式使用者に有利な不平等な競争条件を生み出す可能性があることを示した。

結局、オプションの長所と短所について、以下の通りまとめられる。
プションの長所と短所
以上の分析の結果、EIOPAは、特に標準式の利用者と内部モデルの利用者との間の公平な競争条件を効果的に改善しないことから、オプションの欠点がオプションの利点を明らかに上回るとの見解を示している。

3|助言内容

EIOPAは、SCR標準式は、動的VAを認めるように変更されるべきではない、と勧告する。

(2019年12月23日「保険・年金フォーカス」)

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