2019年12月23日

【アジア・新興国】東南アジア経済の見通し~20年は輸出の底入れと公共投資の拡大により景気下げ止まりへ

経済研究部 准主任研究員   斉藤 誠

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2-2.タイ
タイ経済は昨年、内需を中心に+3%台の成長が続いたが、今年に入ると輸出が落ち込むなかで成長率が+2%台まで低下、4-6月期には約5年ぶりの前年比2.3%増を記録した(図表8)。7-9月期は3期ぶりに景気が上向いたものの、+2.4%成長の小幅上昇となり、緩慢な経済成長が続いた。輸出は世界経済の減速や米中貿易戦争の長期化、バーツ高に伴う輸出競争力の低下などを背景に3期連続で縮小した。民間消費は低インフレ環境や農業所得の増加、政府の福祉カード保有者への給付金などが下支えとなって+4%台の堅調な伸びを維持しているが、輸出が縮小するなかで製造業の雇用・所得環境が悪化して消費の勢いが失われつつあり、また民間投資も4月の住宅ローン規制の導入の影響が加わって2期連続で+2%台前半の成長に留まった。一方、公共投資はスワンナプーム空港拡張計画や上水道整備計画等の大型プロジェクトの進展でやや持ち直したほか、香港政情不安を背景に訪タイ外客数が増加して観光関連産業が回復した。

先行きのタイ経済は引き続き厳しい輸出環境に晒されるものの、政府・中銀の政策対応によって一段の悪化は回避されると予想する。まず輸出は今後底入れした後も、海外経済の減速と米中貿易摩擦の長期化、バーツ高の影響を受けて伸び悩むだろう。来年4月に控える米政府による一般特恵関税制度(GSP)の一部停止措置は輸出への影響こそ軽微にとどまる。ただし、貿易協議がまとまらなければGSPの停止範囲の拡大が懸念され、輸出企業の投資マインドが一段と悪化する恐れがある。

民間消費は物価の安定と政府による農家・低所得者支援策、国内観光促進策を背景に底堅い伸びを続けるだろうが、製造業の雇用・所得環境の悪化や干ばつに伴う農業所得の悪化、住宅ローン規制による住宅購入の停滞が重石となって増勢が鈍化しよう。一方、民間投資は緩やかに回復しよう。タイ政府が9月に従来の投資優遇策に5年の法人減税を追加する「タイランド・プラス」を打ち出すなど、米中貿易摩擦を背景に生産移管を検討する外資系企業の投資拡大が期待できる。

政府部門は拡張的な財政政策により景気を下支えるだろう。20年度予算案(19年10月~20年9月)では、歳出が前年比6.7%増の3.2兆バーツと大きく拡大しており、東部経済回廊(EEC)などの政府主導の開発プロジェクトが再び加速していくこととなりそうだ。

金融政策は、昨年に金融正常化のための利上げ(+0.25%)が実施されたが、今年は8月と11月に景気下支えやバーツ高の抑制を目的に政策金利が計▲0.5%引き下げられた(図表9)。先行きの物価は引き続き食品価格が押上げ要因となるが、緩慢な成長と景況感の回復の遅れを背景に現行の中銀目標(1~4%)の下限を下回って推移する見通しである。しかしながら、米中貿易摩擦の緩和でバーツ高圧力が後退、引き続き為替介入で対応するものとみられ、政策金利は据え置かれると予想する。

実質GDP成長率は19年が輸出の低迷により+2.5%(18年:+4.1%)と低下し、20年が政府支出の拡大によって+2.8%と小幅上昇に止まると予想する。
(図表8)タイの実質GDP成長率(需要側)/(図表9)タイのインフレ率と政策金利
2-3.インドネシア
インドネシア経済は+5%成長が続いているが、ごく緩やかな景気減速傾向にある(図表10)。7-9月期の実質GDP成長率は前年比5.02%増と、年前半の同5.06%増から低下し、過去2年間で最も低い成長ペースとなった。7-9月期の景気減速の主因は内需の鈍化である。内需は引き続き底堅さを保っているものの、年前半の消費を押し上げた選挙関連支出が剥落すると共に、輸出停滞とコモディティ価格下落を受けて景況感が悪化、10月の第2期ジョコ政権発足を控えて企業が設備投資を見合わせたことが投資の鈍化に繋がったものとみられる。純輸出の成長率寄与度は前期に続いてプラスとなったが、これは内需の落ち込みを反映して輸入が大幅に減少したためであり、ポジティブなプラス寄与とは言えない結果であった。

先行きのインドネシア経済は、当面+5%程度の成長で停滞するが、来年は投資主導で緩やかな回復基調に転じると予想する。まず輸出は米中貿易摩擦の緩和や中国のインフラ投資の拡大を受けて資源関連を中心に増加傾向を続けるだろう。もっとも海外経済が低成長を続けること、ニッケル鉱石の禁輸措置が実施されることから輸出の伸び率は小幅の増加に止まると予想する。

また投資は、来年度のインフラ予算が拡充され、来年半ばに始まる首都移転に向けたインフラ開発を含む新規プロジェクトの着工ペースが早まることから今後底入れに向かうだろう。また中銀の段階的な利下げやオーストラリアとの自由貿易協定、投資優先リストの導入、人的資本の質的向上に向けた政府の取り組みなども投資の追い風になっていくとみられる。もっとも今年は原油と石炭の価格が下落しており、資源関連企業の投資が回復するまでには暫く時間がかかりそうだ。

一方、民間消費は選挙関連支出の押上げ効果の剥落や貧困層への給付金の支給が一服したことから来年前半まで伸び悩むだろう。その後は物価の安定と金融緩和の継続、投資の持ち直しによる雇用所得環境の改善などから、民間消費が回復に向かうと予想する。また政府消費は抑制気味の財政政策を背景に低調に推移すると予想する。

金融政策は昨年、中銀が通貨安への対応として政策金利を計1.75%引上げたほか、ルピア建てノンデリバラブルフォワード(DNDF)を導入するなど引き締め姿勢を強めていたが、今年に入って米金融政策のハト派化が強まり、通貨ルピアが安定化すると政策スタンスが一転した(図表11)。中銀は7月から4ヵ月連続の利下げ(計1.0%)を実施し、預金準備率の0.5%引下げを2回打ち出した。先行きのインフレ率は来年の中銀の物価目標(+2~4%)の範囲内で推移するとみられ、中銀は物価と通貨の安定を確認しながら、昨年の利上げを解消するように段階的な利下げを検討するだろう。2020年末にかけて2回の追加利下げを予想する。

実質GDP成長率は19年が+5.0%と、18年の+5.2%から低下し、20年が金融緩和と投資の持ち直しで+5.1%の小幅上昇を予想する。
(図表10)インドネシア実質GDP成長率(需要側)/(図表11)
2-4.フィリピン
フィリピン経済は昨年、物品増税の影響で消費が落ち込むなかでも+6.2%の高い成長を維持していたが、今年は政府予算の成立が4月までずれ込み、5月の中間選挙前45日間前の新規の公共工事の禁止によって政府支出が落ち込んだことで年前半の成長率が+5.5%まで鈍化した(図表12)。しかし、7-9月期は成長率が3期ぶりに+6%台まで上昇し、足元では景気に明るさが出てきている。

7-9月期の景気回復は、年前半にみられた予算執行上の妨害がなくなったため、政府支出が前年同期比17.0%増(4-6月期:同2.3%減)まで急増した。特に政府のインフラ支出が著しく増加し、7-9月期の公共建設投資が二桁成長まで加速したことが影響した。またインフレの沈静化や海外出稼ぎ労働者からの送金の堅調な拡大、消費者信頼感の回復などから民間消費が+6%弱まで持ち直した一方、世界的な景気減速に米中貿易摩擦の影響が加わり、投資と輸出は停滞した。

経済の先行きは、財政・金融政策が内需の支えとなり、当面+6%台の高めの成長が持続するだろう。政府支出は年内まで遅れていた予算執行が進み、年内の成立が見込まれる来年度政府予算は年前半まで反動増が成長率を押し上げると予想される。また今年の金融緩和の効果が発現することも景気の追い風となるだろう。

投資は緩やかな回復を予想する。まず公共投資がドゥテルテ大統領の掲げるインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」の再加速によって順調に回復するだろう。民間投資は民間消費と公共投資の回復を背景に上向きに転じるとみられるが、輸出の停滞により当面勢いを欠く展開となるだろう。また外資系企業への税制優遇制度の見直しを含む法人税改革の審議の遅れも企業の投資マインドの悪化に繋がるとみられる。

民間消費は公共事業の拡大を背景に良好な雇用環境が継続するほか、物価の安定、消費者マインドの回復を背景に持ち直しの動きを予想する。また11月末に開幕した東南アジア競技大会の開催に伴う関連需要は10-12月期の消費の押し上げに寄与するだろう。

輸出は今後ITサイクルの回復によって底打ちした後も海外経済の低成長が続くなかで伸び悩む一方、輸入は旺盛な消費需要を背景に順調に拡大するだろう。結果として、外需は来年にかけて再び成長率の押下げ要因となると予想する。

金融政策は、昨年中央銀行が高インフレを背景に段階的な利上げ(計+1.75%)を実施したが、今年前半に中銀目標圏内(+2-4%)まで物価が安定したことから、中銀は5月から段階的な利下げ(計▲0.75%)と預金準備率引下げ(計▲4%)実施した(図表13)。当面はインフレ率がコメ輸入の数量制限撤廃の一時停止などから中銀目標(+2~4%)の中央値付近まで上昇するが、その後はインフレ警戒感が高まらず、20年末にかけて年2回の利下げと更なる預金準備率引下げを予想する。

実質GDP成長率は、19年が輸出停滞と政府予算成立の遅れにより+5.9%に止まり、18年の+6.2%から低下するものの、20年が財政・金融政策の効果波及によって+6.2%まで回復すると予想する。
(図表12)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表13)フィリピンのインフレ率と政策金利
2-5.ベトナム
ベトナム経済は昨年の成長率が前年比7.1%増を記録、今年も1-9月期が同7.0%増となって高成長軌道を維持している(図表14)。年前半は製造業が世界経済の減速やスマートフォン需要の鈍化、建設業が不動産融資の規制強化などの打撃を受けて増税が鈍化していたが、7-9月期は米中貿易摩擦を背景とする中国からの生産移管が進んで軽工業品と電子部品の生産が拡大、8月にサムスン電子が5G対応の新型スマートフォンを発売した影響で電話の生産も拡大した。また建設業が持ち直したほか、サービス業が雇用・所得の拡大や物価の低位安定(図表15)、外国人観光客の増加を受けて堅調に推移した。一方、干ばつによる作物被害やアフリカ豚コレラの影響により、農業は減速傾向が続いた。

先行きのベトナム経済は若干鈍化するものの、製造業を牽引役として+6%台後半の力強い成長が続くだろう。「包括的及び先進的な環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)」の発効や「EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA)」の締結を背景にベトナムの生産能力を拡張しようとする企業の動きは旺盛だ。また米中貿易摩擦が長期化する可能性は高く、今後も中国からベトナムへの生産移管の動きが続くため、製造業の高成長は続くだろう。実際、1-11月の外国直接投資(FDI)の認可額は昨年の大型投資の反動で前年比3.1%増に止まっているが、件数ベースでは同25.5%増と大幅な増加が続いている。もっとも足元では米中貿易協議が第一段階の合意に達したほか、台湾やタイが企業誘致を目的に新たな税制優遇策を打ち出している。そして今後は最大の輸出先である米国経済の減速が予想され、製造業が二桁成長を維持することは難しくなるだろう。また農業については干ばつの影響で来年も伸び悩むと予想する。

サービス業は一段の加速までは見込み難いが、今後も良好な雇用・所得環境と物価安定を背景に堅調な拡大が続くだろう。このほか、建設業の高成長も続きそうだ。2010~2017年のGDP改訂によって名目GDPが上方修正されたため、公的債務のGDP比が56%から45%に低下、政府債務の拡大余地が生まれたため、インフラ開発が加速する展開を予想する。

金融政策は、中央銀行が今年9月に政策金利を0.25%引き下げた。経済は好調、物価も安定していたが、世界経済見通しの悪化や欧米の金融緩和が利下げの根拠となった。先行きの物価は食品インフレが当面の押上げ要因となるものの、政府の価格統制などにより来年半ばからは安定した推移となり、CPI上昇率を4%未満に抑える政府目標は達成されるだろう。中銀は政府の成長率目標の達成に向けて来年半ばに1回の利下げを実施すると予想する。

実質GDP成長率は19年が+6.9%、20年が6.7%となり、FDIの継続的な拡大により政府目標を達成するが、輸出が好調だった18年の+7.1%から減速すると予想する。
(図表14)ベトナム実質GDP成長率(供給側)/(図表15)ベトナムCPI上昇率(主要品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2019年12月23日「Weekly エコノミスト・レター」)

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