2019年11月07日

【フィリピンGDP】7-9月期は前年同期比6.2%増~出遅れていた予算執行が加速し、成長率が3期ぶりに6%台まで上昇

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2019年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比6.2%増1と、前期の同5.5%増から上昇し、市場予想2(同6.0%増)を上回った(図表1)。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に民間消費と総固定資本形成の持ち直しが成長率上昇に繋がった。

民間消費は前年同期比5.9%増(前期:同5.5%増)と上昇した。民間消費の内訳を見ると、食料・飲料(同4.3%増)が鈍化、酒類・たばこ(同1.3%減)が低迷したものの、交通(同5.5%増)が持ち直し、住宅・水道光熱(同7.5%増)と通信(同7.9%増)が堅調に推移した。

政府消費は同9.6%増となり、前期の同7.3%増から上昇した。

総固定資本形成は同2.1%増と、落ち込んだ前期の同4.6%減からプラスに転じた。まず建設投資が同17.3%増(前期:同2.8%増)と急上昇した。公共建設投資(同11.0%増)が大きく上昇したほか、民間建設投資(同19.1%増)も好調に推移した(図表2)。一方、設備投資が同9.1%減(前期:同12.8%減)と低迷した。設備投資の内訳を見ると、オフィス機器(同32.1%増)が一段と上昇、電気通信装置(同4.7%増)が持ち直したものの、全体の4割を占める道路運送車両(同12.5%減)と鉱業・建設機械(同44.9%減)が大幅に下落した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+0.1%ポイントとなり、前期の+3.0%ポイントから縮小した。まず輸出は同0.2%増(前期:同4.8%増)と低下した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出が同8.1%増(前期:同4.3%増)と上昇したものの、財輸出が同1.3%減(前期:同4.9%増)と主力の電子部品を中心に減少した。一方、輸入は同0.0%減(前期:同0.1%減)と停滞した。
(図表1)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表2)建設部門の粗付加価値額(GVA)
供給項目別に見ると、主に第二次産業の持ち直しが成長率上昇に繋がった(図表3)。

まず第二次産業は同5.6%増(前期: 同3.7%増)と上昇した。建設業(同16.3%増)が大きく上昇、電気・ガス・水供給業(同7.2%増)が堅調に推移した。一方、製造業(同2.4%増)はラジオ、テレビ・通信機器と家具・備品の落ち込みに食品加工の鈍化が重なって低下、鉱業・採石業(同4.9%減)が4期ぶりに減少した。

また第一次産業は前年同期比3.1%増(前期:同0.8%増)と上昇した。エルニーニョ現象による干ばつの影響でコメが不作となったほか、アフリカ豚コレラの発生を受けて畜産業が鈍化した。しかし、台風の影響などで不作だった前年同期からの反動でトウモロコシが急上昇した。

一方、GDPの約6割を占める第三次産業は同6.9%増(前期: 同7.1%増)と小幅に低下した。運輸・通信(同9.1%増)や商業(同8.1%増)、金融(同10.0%増)は好調に推移したものの、行政・国防(同5.3%増)と不動産(同4.2%増)が伸び悩んだ。
 
1 11月7日、国家統計調整委員会(NSCB)が2019年7-9月期の国内総生産(GDP)統計を公表。前期比(季節調整値)の実質GDP成長率は1.6%増と前期(同1.4%増)から上昇した。
2 Bloomberg調査

7-9月期のGDPの評価と先行きのポイント

フィリピン経済は昨年、物品増税の影響で消費が落ち込むなかでも+6.2%の高い成長を維持していたが、今年は政府予算の成立が4月までずれ込むと共に、5月13日の中間選挙前45日間前の新規の公共工事の禁止によって政府支出が落ち込み、年前半の成長率が+5.5%まで低下した。しかし、7-9月期は成長率が3期ぶりに+6%台まで上昇、景気に明るさが出てきている。

7-9月期の景気回復の主因は政府支出と民間消費の拡大である。まず政府支出は年前半にみられた予算執行上の妨害がなくなったため、7-9月期が前年同期比17.0%増(4-6月期:同2.3%減)まで急増した。とくに9月末にかけてインフラ支出が著しく増加し、7-9月期の公共建設投資が二桁成長まで加速した。

またGDPの約7割を占める民間消費は+6%弱まで持ち直した。昨年高騰したインフレ率の沈静化や海外出稼ぎ労働者からの送金の堅調な拡大、そして消費者信頼感の回復などが消費の回復に繋がったとみられる。

一方、世界的な景気減速に米中貿易摩擦が加わり、電子製品の出荷に悪影響が及んだことは引き続き景気の押下げ要因となっている。電子機器はフィリピンの輸出全体の約6割を占める最も重要な輸出品であり、世界的な電子機器の需要鈍化や市況悪化が輸出の伸び悩みと設備投資の減退に繋がった。

また昨年の金融引締め策も設備投資に悪影響を及ぼしたとみられる。フィリピン中央銀行(BSP)は昨年、インフレ抑制のために政策金利を計+1.75%引き上げたため、貸出金利が上昇した(図表4)。中銀は今年5月から段階的に3回の利下げ(計▲0.75%)を実施、預金準備率を計3%引き下げているが、まだ貸出金利は高めの水準にあり、銀行貸出の増勢は緩やかに鈍化している。
(図表3)フィリピン 実質GDP成長率(供給側)/(図表4)フィリピンのインフレ率と政策金利
フィリピン経済の先行きは財政・金融政策が内需の支えとなり、+6%台の高めの成長が持続するだろう。政府支出は年前半の低成長を挽回するように好調に推移するものと見込まれ、引き続き景気の追い風となりそうだ。また今年の金融緩和の効果が今後発現するだろう。今回の景気回復により年内の追加利下げの必要性は低下したものの、既に中銀は12月に預金準備率を更に1%引き下げることを決定している。

しかし、今年の成長率目標+6-7%の達成は難しそうだ。目標達成には10-12月期の成長率が+6.7%以上に達する必要があるが、そこまで成長率が加速するとは考えにくい。勿論、インフラ事業の進展と金融緩和の効果の発現は内需を刺激するだろう。しかし、輸出停滞と外部環境の不透明感が重石となって企業は設備投資に積極的にならないとみられる。また民間消費は今後も好調に推移するだろうが、インフレ率は10月の前年比0.8%増で下げ止まり、今後+2%台まで緩やかに上昇すると予想され、一段の消費の加速までは見込みにくい。

このほか、ドゥテルテ大統領が進める法人税改革にも不安が残る。法人税改革に伴い法人税率が引き下げられると、内需系企業の投資拡大する期待できる一方、外資系を中心とした輸出企業の税制優遇制度が縮小・撤廃されるため、外資撤退に繋がる恐れがある。米中貿易戦争を背景とする中国からの生産移転先として、タイやべトナムが人気を集めるなか、フィリピンは法人税改革の実施によって更に劣勢を強いられることになるかもしれない。この場合は、中期的なフィリピン経済の成長に支障をきたす可能性があるだけに、企業側がどのような反応を示すのか注目される。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2019年11月07日「経済・金融フラッシュ」)

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