2019年11月06日

【東南アジア経済】ASEANの貿易統計(11月号)~輸出は中国向けの拡大を欧州向けの悪化が相殺し、依然低迷が続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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19年9月のASEAN主要6カ国の輸出(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.6%減(前月:同1.8%減)と若干上昇した(図表1)。輸出の伸び率は昨年後半から海外経済の減速やITサイクルのピークアウト、米中貿易摩擦の激化、コモディティ価格の下落などを受けて低下し、今年は減少傾向が続いている。7月は、金の輸出拡大や米国による対中制裁関税「第4弾」を控えた中国側の駆け込み輸入の増加が寄与して、輸出が一時的にプラスに転じた。しかしながら、足元ではITサイクルが下げ止まりつつあり、また米中通商協議が「第1段階」の合意に向けて進みつつあるなど明るい材料が浮上してきており、輸出に底入れの兆しが見え始めている。

ASEAN6カ国の仕向け地別の輸出動向を見ると、9月は景況感の低迷するEU向け(同10.3%減)がマイナス幅を広げた一方、中国の生産活動の持ち直しを反映して東アジア向け(同0.5%増)がプラスに転じた。また北米向け(同10.3%増)が堅調に拡大した一方、東南アジア向け(同7.6%減)の低迷が続いた(図表2)。
(図表1)ASEAN6カ国の輸出額/(図表2)ASEAN6ヵ国仕向け地別の輸出動向
タイの19年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比1.4%減(前月:同4.0%減)と2ヵ月連続で減少した。輸出は2月と7月に上振れて一時的にプラスとなったが、基調としては昨年後半から米中貿易摩擦や世界経済の減速、通貨バーツの上昇を受けて電子機器を中心に減少傾向が続いている。また輸入額も前年同月比4.2%減(前月:同14.6%減)とマイナス幅が縮小した結果、貿易収支は12.8億ドルの黒字となり、前月から7.8億ドル黒字が縮小した(図表3)。

輸出を品目別に見ると、全体の約8割を占める主要工業製品は同0.2%増(前月:同1.9%減)と上昇し、小幅ながら増加した(図表4)。工業製品の内訳を見ると、機械・装置(同9.5%減)と石油化学製品(同8.8%減)、電子機器(同3.3%減)が低迷したものの、主力の自動車・部品(同6.8%増)と家電製品(同8.4%増)がプラスに転じた。また鉱業・燃料は同22.8%減(前月:同38.6%減)となり、石油製品(同29.7%減)を中心に低迷した。さらに農産物・加工品も同3.1%減(前月:同4.4%減)と2ヵ月連続のマイナスとなった。加工食品(同9.9%増)や果物(同21.7%増)など一部の品目は増加したものの、コメ(同32.2%減)や輸出削減の期間終了によって価格が急落した天然ゴム(同15.4%減)、ゴム製品(同7.5%減)が落ち込むなど、総じて低調だった。
(図表3)タイの貿易収支/(図表4)タイ輸出の伸び率(品目別)
ベトナムの19年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比10.7%増(前月:同10.4%増)と小幅に上昇した。輸出の伸び率は今年2月に旧正月に伴い営業日数が減った影響で一時的に減少したものの、繊維関連の堅調な拡大と電気・電子製品の持ち直しによって好調を維持している。また輸入額も前年同月比11.8%増(前月:同5.9%増)と上昇した結果、貿易収支は16.1億ドルの黒字となり、前月から18.3億ドル黒字が縮小した(図表5)。

輸出を品目別に見ると、まず輸出全体の約2割を占める電話・部品が同6.8%増(前月:同15.0%増)となり、サムスン電子の新型スマートフォン発売の押し上げ効果が剥落して低下した。またコンピュータ・電子部品も同12.8%増(前月:同32.0%増)と増勢が鈍化したものの、7ヵ月連続の二桁増となった(図表6)。繊維関連では、織物・衣類が同5.8%増(前月:同6.9%増)が小幅に低下した一方、履物が同13.4%増(前月:同12.7%増)と上昇して好調を維持した。農林水産物は、コメ(同24.5%増)など一部の品目が大幅に増加したものの、コーヒー(同20.5%減)や野菜(同4.7%減)、天然ゴム(同0.6%増)、水産物(同5.3%減)など、総じて減少傾向がみられた。

輸出を資本別に見ると、全体の7割を占める外資系企業が同5.1%増(前月:同5.2%増)と低下する一方、地場企業が同25.7%増(前月:同23.5%増)と上昇した。
(図表5)ベトナムの貿易収/(図表6)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
マレーシアの19年9月の輸出額(ドル建て、通関ベース)は前年同月比7.7%減(前月:同3.0%減)とマイナス幅が拡大した。輸出の基調は昨年後半から主力の電気・電子製品とパーム油の出荷減少により増勢が鈍化、年明け以降は原油需要の低迷が加わって9ヵ月連続で減少している。一方、輸入額が前年同月比1.3%増(前月:同14.5%減)と上昇した結果、貿易収支は19.9億ドルの黒字となり、前月から6.1億ドル黒字が縮小した(図表7)。

輸出を品目別に見ると、全体の約4割を占める機械・輸送用機器は同9.5%減(前月:同6.8%減)と、主力の電気・電子製品(同13.1%減)を中心に2ヵ月連続で減少した(図表8)。また鉱物性燃料は同16.8%減(前月:同11.3%減)と2ヵ月連続の二桁減少となった。原油(同46.4%減)と石油製品(同15.5%減)、天然ガス(同2.9%減)がそれぞれ減少した。さらに動植物性油脂が同9.2%減(前月:同17.4%増)とパーム油を中心に落ち込んだほか、化学製品が同9.9%減(前月:同3.7%減)と8ヵ月連続のマイナス成長となった。
(図表7)マレーシア貿易収支/(図表8)マレーシア輸出の伸び率(品目別)
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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