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【アジア・新興国】東南アジア経済の見通し~20年は輸出の底入れと公共投資の拡大により景気下げ止まりへ
経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠
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1.東南アジア経済の概況と見通し

内需については、財政・金融政策が下支えとなっているが、輸出停滞の悪影響が波及して弱含んでいる。物価と雇用環境は引き続き安定しているものの、輸出主導国であるタイとマレーシアでは特に製造業の賃金上昇率が鈍化するなど、民間消費が減速傾向にある。また投資は、世界経済の先行き不透明感や資源価格の停滞を背景に企業の投資マインドが悪化して伸び悩んでいる。特にインドネシアやマレーシアのような資源輸出国の投資が減速している。一方、タイは政府のインフラプロジェクトの進展、フィリピンは年前半の予算執行の遅れと中間選挙前の公共事業の禁止による落ち込みから投資が7-9月期に回復した。
消費者物価上昇率(以下、インフレ率)は、年初から油価下落が物価の押し下げ要因となり、低位安定した推移が続いている(図表3)。

先行きのインフレ率は、一部食品インフレで短期的に上昇する国があるものの、来年末にかけては安定した推移を予想する。特に干ばつの影響で農業被害が出ているタイとベトナム、コメ輸入の数量制限撤廃を一時停止したフィリピンでは食品価格の値上がりが当面インフレ上昇圧力となるだろう。もっとも各国の成長モメンタムは鈍化しており、また国際商品市況の落ち着き、電子商取引の拡大などが物価押下げ要因となるため、物価上昇は来年前半に頭打ちすると予想する。

東南アジア5カ国の金融政策は昨年、米国の金融引締めを背景とする通貨安や先行きのインフレ懸念が強まり、引き締め方向に舵を切る動きがみられた(図表4)。しかし、今年は米連邦準備理事会(FRB)のハト派化を受けて新興国通貨が改善、米中貿易戦争の激化によって世界経済の減速懸念が高まると、各国中銀は緩和姿勢に転換した。
国別に見ると、フィリピンが今年5月から段階的な利下げ(計▲0.75%)と銀行の預金準備率の引下げ(計▲4%)を実施した。またインドネシアが7月から4ヵ月連続の利下げ(計▲1.0%)を実施、預金準備率の引下げを2回(計▲1.0%)打ち出した。このほか、タイが8月と11月にそれぞれ▲0.25%の利下げ、マレーシアが5月に1回の利下げ(▲0.25%)、ベトナムが9月に1回の利下げ(▲0.25%)といったように、世界的な金融緩和競争の色彩が強まるなか、東南アジア5カ国がそれぞれ金融緩和を打ち出していった。
先行きについては、各国中銀が緩和的な政策スタンスを続けるものと予想する。米金融政策は一旦利下げ打ち止め、20年にかけて政策金利が据え置かれると弊社は予想している。また米中貿易協議が第一段階の合意に達した現在のように金融市場が落ち着いた状況が続くなかでは、東南アジア各国は自国の経済状況に合わせて金融政策を選択できる余地が生まれる。国別に見ると、20年前半にかけてフィリピンとインドネシアがそれぞれ2回の利下げ、マレーシアとべトナムがそれぞれ1回の利下げを実施すると予想する。
東南アジア経済の先行きは、輸出が来年初に底入れ、内需が2020年度政府予算で積み増しとなった公共投資の実行や財政・金融政策の効果により底堅さを保つことで景気が下げ止まり、2020年の成長率が横ばい圏で推移すると予想する。
輸出は下げ止まりの兆しがみられる。名目ベースの輸出額は19年2月を底に増加傾向にあり、来年の輸出の伸び率は発射台の低さを反映してプラスに転じるだろう。またITサイクルが最悪期から回復局面に入りつつあり、来年は電気電子製品の輸出が増加するとみられる。もっとも海外経済は米国と中国を中心に減速局面が続く見通しであり、輸出の増加ペースは緩やかなものに止まるだろう。
内需については、まず投資が緩やかに回復すると予想する。インドネシアとタイ、フィリピンは今年国政選挙が終わり、選挙対策のために抑制されていたインフラ開発予算が来年度に拡充される。またマレーシアは大型開発プロジェクトを再開、ベトナムではGDP改訂によって公的債務残高(GDP比)が低下しており、今後公共投資は活発化するだろう。民間投資は輸出の伸び悩みにより力強さを欠いた状況が続くものの、企業の在庫調整が進むなかで徐々に上向いていくだろう。また米中貿易戦争を背景に中国から東南アジアに生産拠点をシフトする企業の動きも続くとみられる。民間消費は賃金上昇ペースが鈍化する一方、物価と雇用環境の安定が続くことから底堅さを保つと予想する。このほか、各国中銀が今年利下げを実施し、来年も緩和的な政策を継続することによって貸出金利が低下することも、耐久財消費や投資活動を活性化させるとみられる。
2.各国経済の見通し
マレーシア経済は新政権が発足した昨年4-6月期から概ね+4%台半ばの成長が続いている(図表6)。今年4-6月期は成長率が同4.9%増まで上昇したが、。これは前年同期が天然ガスの供給ショックによって落ち込んでいたことによるベース効果に起因するものとみられ、7-9月期も天然ガスの増加は成長をサポートしたが、油田のメンテナンスによって原油採掘量が急減したため、成長率は再び+4%台半ばまで低下した。また住宅部門と非住宅部門の建設工事の縮小も成長鈍化に繋がったほか、輸出が3年ぶりのマイナス成長を記録するなかで内需に悪影響が波及している。
先行きのマレーシア経済は+4%台半ばの緩やかな成長ペースが続くと予想する。足元では米中貿易協議は第一段階の合意に達したほか、ITサイクルが最悪期を脱しつつある。主力の電気・電子製品の輸出が底打ちすれば、製造業部門の落ち込みは幾分和らぐだろう。もっとも米中貿易摩擦は来年以降も不確実性が残るほか、米中経済の減速が予想される。輸出は来年底入れした後も資源関連を中心に伸び悩むだろう。
内需は民間部門の回復が遅れる一方、政府部門が景気の下支え役となるだろう。民間投資はITサイクルの改善や米中摩擦を背景に米国製造業の生産移管が続くなど回復の兆しが出てこよう。しかし、輸出と資源価格が停滞して、国内企業は様子見姿勢を維持するものとみられ、民間投資の回復は順調には進まないと予想する。また旺盛な民間消費は物価と雇用の安定から引き続き景気の牽引役となるものの、GST廃止1による押上げ効果の一巡や賃金上昇ペースの鈍化を受けて若干減速するだろう。
政府部門は、景気への配慮から来年度予算は開発支出が4.3%増と拡大、低所得者支援策にも手厚く配分するなど、やや拡張的な内容となっており、景気下支えに寄与するだろう。マハティール政権下で一旦停止していたマレーシア東海岸鉄道計画やバンダル・マレーシア計画などの大型事業が再開したことが好材料となる。
金融政策は、中央銀行が昨年初に金融正常化を目的に利上げを実施したが、今年5月には世界経済見通しの悪化を受けて政策金利が0.25%引き下げ、その後は据え置かれている(図表7)。先行きの物価は1%台で安定して推移するだろう。景気伸び悩みや金融政策余地が大きいことを背景に20年前半に1回の追加利下げを予想する。
実質GDP成長率は19年が輸出と投資の停滞により+4.5%(18年:+4.7%)と低下するが、20年が民間部門の回復の遅れを政府部門が下支えることによって+4.6%の小幅上昇を予想する。
1 新政府は18年6月1日よりGSTの廃止(ゼロ税率化)を実施し、同年9月にSSTを再導入(売上税10%、サービス税6%)した。この間の3ヵ月はタックス・ホリデー(免税措置期間)となった。
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