2019年12月20日

資金循環統計(19年7-9月期)~個人金融資産は、前年比11兆円減の1864兆円、「老後2000万円問題」で一部資金が動き始めた可能性

経済研究部 上席エコノミスト   上野 剛志

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1.個人金融資産(19年9月末):6月末比では4兆円増

2019年9月末の個人金融資産残高は、前年比11兆円減(0.6%減)の1864兆円となった1。年間で資金の純流入が15兆円あったものの、昨年終盤等の株価下落によって、時価変動2の影響がマイナス26兆円(うち株式等がマイナス23兆円、投資信託が1兆円)発生したことで、前年比では残高が目減りした。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(6月末)比で4兆円増加した。例年7-9月期は一般的な賞与支給月を含まないことから純流入が落ち込むうえ、消費増税前の駆け込み需要も影響し、今回は2兆円の純流出となった。一方、9月に米政権による関税引き上げ延期など米中摩擦に緩和の動きがみられたことを受けて株価が持ち直したことで、時価変動の影響がプラス6兆円(うち株式等がプラス4兆円、投資信託がプラス1兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と為替の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり7-9月期に4兆円増加したが、この間に金融負債も2兆円増加したため、金融資産から負債を控除した純資産残高は2兆円増の1538兆円となった(図表5)。

ちなみに、その後の10-12月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年資金の純流入が進む(近年は+15~20兆円程度)うえ、今年は増税後の消費の落ち込みも純流入に作用する。さらに、これまでのところ、株価が9月末比で1割近く上昇しているため、現時点の個人金融資産残高は9月末残高を大きく上回り、過去最高(これまでの最高は昨年9月末の1875兆円)を大きく更新していると推察される。
 
1 2019年4-6月期の数値は確報化に伴って改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細:「老後2000万円問題」で一部資金がリスク性資産に動き始めた可能性あり

7-9月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を確認すると(図表6)、例年同様、季節要因(賞与の有無等)によって現預金が純流出(取り崩し)となったが、今回は増税前の駆け込み需要の影響があったとみられ、純流出規模が5兆円と例年よりも大きめになった。内訳では、従来同様、定期性預金が純流出となったうえ、現金や流動性預金(普通預金など)でも純流出が確認できる(図表7)。
(図表6)家計資産のフロー(各年7-9月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年7-9月期)
(図表8)流動性・定期性預金の個人金融資産に占める割合/(図表9)外貨預金・投信(確定拠出年金内)のフロー
なお、定期性預金からの純流出は15四半期連続となっており、この間の累計流出額(40.1兆円)は40兆円を突破した。この結果、定期性預金の個人金融資産に占める割合は22.6%にまで低下している(図表8)。各種国内預金金利がほぼゼロに貼りつく中、引き出し制限などで使い勝手が劣る定期性預金からの資金流出には歯止めがかかっていない。定期性預金の残高は未だ421兆円も残っているため、今後も資金流出が避けられない情勢にある。

一方、今年6月に金融庁審議会の報告書を発端として、「老後資金2000万円問題」が世間の関心を集めたため、今回、筆者は7-9月に資産運用活発化(≒リスク性資産への資金流入)の動きが現れるのかに注目していた。

まず、リスク性資産の代表格である株式等(0.4兆円の純流出)、投資信託(0.4兆円の純流出)を見ると、ともに純流出となった(図表6)。高齢化に伴う相続絡みの売却や株価持ち直しに伴う利益確定の売りが優勢になった可能性がある。
 
ただし、その他一部のリスク性資産では資金流入活発化の動きもみられる。まず、外貨預金は4-6月期(2204億円)をやや上回る2428億円の純流入となったが、10四半期連続の純流入かつ3四半期連続の2000億円超えということになり、それぞれ現行統計で遡れる2005年以降で最長を記録している(図表9)。

また、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託も3922億円の純流入となった。3922億円という純流入額はこれまでで突出した規模であり、4-6月期(1322億円)の約3倍にあたる。

外貨預金は定期型の途中解約に制限やペナルティがあること、企業型確定拠出年金は定額積立投資であることから、相場変動に伴う機動的なポジション調整が起きにくく、老後の資産形成を見据えた運用資金流入の動きが現れた可能性がある。今後、こうした動きが持続するのかが注目される。

3.その他注目点: 家計は5年半ぶりの資金不足に、海外勢の国債保有が1年半ぶりに減少

2019年7-9月期の資金過不足(季節調整値)を主要部門別にみると(図表10)、企業部門の資金余剰が大きく拡大する一方、家計の資金余剰が減少し、0.6兆円の資金不足に転じた。家計では、賃金が伸び悩む中で、消費増税前の駆け込み需要によって消費・住宅投資が上振れたことが資金不足の原因になったとみられる。家計が資金不足となったのは2014年4月の前回消費増税前にあたる同年1-3月期以来だが、今回の資金不足額(0.6兆円)は同期の資金不足額(4.6兆円)を大きく下回っており、駆け込み需要が限定的に留まったことがうかがわれる。
 
9月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は419兆円と6月末から7兆円増加し、前年比では16兆円増加している(図表11)。また、社債等の債務証券も73兆円と前年比で6兆円余り増加しており、企業債務の増加が目立ってきた。一方で、現預金残高(271兆円)は過去最高を更新したが、前年比では7兆円増に留まっており、近頃積み上がりペースが鈍化している。
(図表10)部門別資金過不足(季節調整値)/(図表11)民間非金融法人の現預金・借入・債務証券残高
(図表12)民間非金融法人の対外投資額(資金フロー)/(図表13)預金取扱機関と日銀、海外の国債保有シェア
なお、7-9月期の民間非金融法人による対外投資状況(フローベース)を確認すると、対外直接投資は4.3兆円と、4-6月期の3.8兆円をやや上回り、堅調な推移を続けている3(図表12)。また、対外証券投資もプラスを維持している。昨年半ば以降、米中貿易摩擦が激化して海外経済の減速感が強まってきたにもかかわらず、企業の海外投資に対する積極的な姿勢に変化は見られない。
 
国庫短期証券を含む国債の9月末残高は1141兆円で、6月末から4兆円増加した。その保有状況を見ると(図表13)、日銀の保有高が6月末から6兆円増加し、全体に占めるシェアも43.9%(6月末は43.5%)へとやや上昇した。日銀は国債の買入れペースを段階的に減額しているため、ペースこそ鈍っているものの、金融緩和の長期化に伴って保有割合の上昇が続いている。

一方、海外部門の9月末国債保有高は144兆円(6月末は145兆円)、全体に占めるシェアは12.7%(同12.8%)とそれぞれ過去最高であった6月末を若干下回った。海外投資家の国債保有高が減少したのは、2018年1-3月以来となる。

ただし、依然として水準は過去最高圏にある。海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いてきたため、マイナス金利の日本国債へ投資してもトータルでプラス利回りが確保できていた。このことが、これまでの海外投資家による積極的な日本国債投資の背景にあるわけだが、10-12月期にはこの上乗せ金利が縮小していることから、海外勢による日本国債投資がかなり減速している可能性がある。
 
3 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.2兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融、日本経済

(2019年12月20日「経済・金融フラッシュ」)

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