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資金循環統計(19年7-9月期)~個人金融資産は、前年比11兆円減の1864兆円、「老後2000万円問題」で一部資金が動き始めた可能性
![](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/82_ext_01_0.jpeg?v=1697424457)
経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志
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1.個人金融資産(19年9月末):6月末比では4兆円増
四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(6月末)比で4兆円増加した。例年7-9月期は一般的な賞与支給月を含まないことから純流入が落ち込むうえ、消費増税前の駆け込み需要も影響し、今回は2兆円の純流出となった。一方、9月に米政権による関税引き上げ延期など米中摩擦に緩和の動きがみられたことを受けて株価が持ち直したことで、時価変動の影響がプラス6兆円(うち株式等がプラス4兆円、投資信託がプラス1兆円)発生し、資産残高を押し上げた(図表1~4)。
![(図表5)家計の金融資産と金融純資産](https://www.nli-research.co.jp/files/topics/63243_ext_15_2.jpg?v=1576816724)
ちなみに、その後の10-12月期については、一般的な賞与支給月を含むことから、例年資金の純流入が進む(近年は+15~20兆円程度)うえ、今年は増税後の消費の落ち込みも純流入に作用する。さらに、これまでのところ、株価が9月末比で1割近く上昇しているため、現時点の個人金融資産残高は9月末残高を大きく上回り、過去最高(これまでの最高は昨年9月末の1875兆円)を大きく更新していると推察される。
1 2019年4-6月期の数値は確報化に伴って改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。
2.内訳の詳細:「老後2000万円問題」で一部資金がリスク性資産に動き始めた可能性あり
一方、今年6月に金融庁審議会の報告書を発端として、「老後資金2000万円問題」が世間の関心を集めたため、今回、筆者は7-9月に資産運用活発化(≒リスク性資産への資金流入)の動きが現れるのかに注目していた。
まず、リスク性資産の代表格である株式等(0.4兆円の純流出)、投資信託(0.4兆円の純流出)を見ると、ともに純流出となった(図表6)。高齢化に伴う相続絡みの売却や株価持ち直しに伴う利益確定の売りが優勢になった可能性がある。
ただし、その他一部のリスク性資産では資金流入活発化の動きもみられる。まず、外貨預金は4-6月期(2204億円)をやや上回る2428億円の純流入となったが、10四半期連続の純流入かつ3四半期連続の2000億円超えということになり、それぞれ現行統計で遡れる2005年以降で最長を記録している(図表9)。
また、企業型確定拠出年金(401k)内の投資信託も3922億円の純流入となった。3922億円という純流入額はこれまでで突出した規模であり、4-6月期(1322億円)の約3倍にあたる。
外貨預金は定期型の途中解約に制限やペナルティがあること、企業型確定拠出年金は定額積立投資であることから、相場変動に伴う機動的なポジション調整が起きにくく、老後の資産形成を見据えた運用資金流入の動きが現れた可能性がある。今後、こうした動きが持続するのかが注目される。
3.その他注目点: 家計は5年半ぶりの資金不足に、海外勢の国債保有が1年半ぶりに減少
9月末の民間非金融法人のバランスシートにおける借入金残高は419兆円と6月末から7兆円増加し、前年比では16兆円増加している(図表11)。また、社債等の債務証券も73兆円と前年比で6兆円余り増加しており、企業債務の増加が目立ってきた。一方で、現預金残高(271兆円)は過去最高を更新したが、前年比では7兆円増に留まっており、近頃積み上がりペースが鈍化している。
国庫短期証券を含む国債の9月末残高は1141兆円で、6月末から4兆円増加した。その保有状況を見ると(図表13)、日銀の保有高が6月末から6兆円増加し、全体に占めるシェアも43.9%(6月末は43.5%)へとやや上昇した。日銀は国債の買入れペースを段階的に減額しているため、ペースこそ鈍っているものの、金融緩和の長期化に伴って保有割合の上昇が続いている。
一方、海外部門の9月末国債保有高は144兆円(6月末は145兆円)、全体に占めるシェアは12.7%(同12.8%)とそれぞれ過去最高であった6月末を若干下回った。海外投資家の国債保有高が減少したのは、2018年1-3月以来となる。
ただし、依然として水準は過去最高圏にある。海外投資家は円を調達する際に上乗せ金利を得られる状況が続いてきたため、マイナス金利の日本国債へ投資してもトータルでプラス利回りが確保できていた。このことが、これまでの海外投資家による積極的な日本国債投資の背景にあるわけだが、10-12月期にはこの上乗せ金利が縮小していることから、海外勢による日本国債投資がかなり減速している可能性がある。
3 2019年1-3月期の対外直接投資額は10.2兆円と突出しているが、これは国内製薬大手による総額6兆円の大型海外M&A完了という特殊要因が影響したものと推測される。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年12月20日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1870
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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