コラム
2019年12月09日

キャッシュレス化の損得勘定-スマホ決済で全額還元がまったく当らないことも結構ある!?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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いま、世の中には、キャッシュレス化を促進するさまざまな仕組みが出てきている。2019年10月の消費税率引き上げ時に導入されたポイント還元制度とも相まって、これらの仕組みが消費者に徐々に浸透していくものとみられる。

消費税率引き上げに伴うポイント還元制度は、個人消費の下支えとキャッシュレス決済の普及のために、国が還元分を負担するものだ。2019年度は約2,800億円の予算を原資としている。制度の期間は2019年10月から2020年6月末までの9か月間で、ざっくりいうと、中小小売店では5%還元、大手系列のチェーン店の外食やコンビニエンスストアなどでは2%還元とされている。開始後に、この制度の活用が進み原資が不足する恐れが出てきたことから、政府は2019年度補正予算で千数百億円程度を追加原資として計上する検討に入ったとの報道がなされている。

しかしこの制度とは別に、クレジットカードやスマホ決済アプリにはそれぞれポイント付与の仕組みがあり、その内容は異なっている。このため、クレジットカードなどを選ぶ際には、いろいろと迷うことが多くなる。この稿では、「クレジットカードはゴールドカードにしたほうがおトクか」「スマホ決済アプリなどの全額還元をどう活用するか」の2点について考えてみたい。

クレジットカードはゴールドカードにしたほうがおトクか

一般に、クレジットカードには、クラシックカードと呼ばれる通常のものと、ゴールドカードと呼ばれるグレードの高いものがある。ゴールドカードを使うメリットは、通常よりもポイント還元率が高いことにある。しかしその反面、ゴールドカードには年会費がかかることが一般的となっている。

つまり、年会費を上回るだけのポイント還元のメリットがなければ、ゴールドカードは選びにくい。このことを、筆者の設定した架空の事例で考えてみよう。

【事例1】
クラシックカードは、年会費なしで利用額の1%分のポイントが付与される。ゴールドカードは、年会費1.1万円(消費税込)で、利用額の2%分のポイントが付与される。1ポイントは1円に相当する。

この場合、利用額がある金額を超えたら、ゴールドカードのほうがトクになるはずだ。そこで、利用額をX円として、ゴールドカードをつかった場合とクラシックカードをつかった場合の収支が同じとなるように、以下のような方程式を立ててみよう。

X×1% = -1.1万円 + X×2%

これを解いてみると、X=110万円。つまり、買い物などで年間の利用額が110万円を超えれば、ゴールドカードのほうがおトクということになる。では、次の事例はどうだろう。

【事例2】
クラシックカードは、年会費なしで利用額の1%分のポイントが付与される。ゴールドカードは、年会費1.1万円(消費税込)で、利用額の2%分のポイントが付与される(ここまでは【事例1】と同じ)。ただし、年始からの利用額の合計が50万円に達したら、それ以降は利用額の3%分のポイントが付与される。1ポイントは1円に相当する。

事例1と同じように、利用額をX円として方程式を立ててみよう。ゴールドカードのほうがクラシックカードよりも収支がよくなるためには、少なくともXが50万円を超える必要がある。ゴールドカードについては、利用額の合計が50万円までと50万円を超えたあとの2つの項に分けて式を立てる。

X×1% = -1.1万円 + 50万円×2% + (X-50万円)×3%

これを解いてみると、X=80万円。つまり、年間の利用額が80万円を超えれば、ゴールドカードのほうがおトクということになる。

この他にも、カードによっては、初年度の年会費が無料となっているものや、誕生月だけポイント付与率が引き上げられる仕組みのものなどがある。そういう場合には、上記の方程式はもっと複雑なものになるだろう。

なお、ゴールドカードのメリットは、ポイント付与の上乗せだけではない。カードに付帯される海外旅行保険や、空港や百貨店のラウンジの利用など、さまざまなサービスが提供されている。カードを選ぶときには、こうしたサービスの内容も含めて考える必要があるだろう。

スマホ決済アプリなどの全額還元をどう活用するか

スマホ決済アプリなどでは、期間限定のキャンペーンとして、利用時に、ある確率で利用額がすべてポイント還元される「全額還元」を行うことがある。全額還元は、利用額がタダになるということなので、大きなおトク感が得られる。

それでは、実際にどれくらいおトクなのだろうか。これも筆者の設定した事例で考えてみよう。

【事例3】
スマホ決済アプリの利用時に、10回に1回の確率で、利用額が全額還元される。1か月の還元額の上限は5万円とする(各利用時に全額還元となる確率は、独立であると想定する)。

実際の利用額は毎回異なるだろうが、話を簡単にするために、ここでは1回の利用額を1,000円と仮定する。この仮定のもとでは、1か月に50回全額還元されたときに、ようやく上限の5万円に達する。しかし、こうしたことはほとんど起こらないので、上限は意識しなくてよいだろう。

さて、10回に1回の確率で全額還元というのだから、10回利用すれば1回はタダになると考えるのが自然だ。これは平均的にはその通りなのだが、実際には10回のうち2回以上タダになることもあれば、1回もタダにならないこともある。毎回の利用時に、10分の1の確率で全額還元かどうかが決まるためだ。

つまり、全額還元の回数は、ある確率で分布する。この分布は「二項分布」と呼ばれる。

たとえば、全部で10回、20回、30回、40回、50回利用するケースを考えてみよう。全額還元が10%未満の回数しか出ない場合、10%以上20%未満の回数で出る場合、20%以上の回数も出る場合、の3つが、どの程度の割合になるかを計算してみたところ、次のようになった。
全額還元となる回数の割合
利用回数が増えると、全額還元が10%以上20%未満の回数で出る割合は徐々に上がっていく。これに対して、20%以上の回数も出る割合は徐々に下がっていく。10回に2回以上全額還元となるようなことは、起こりにくくなっていくわけだ。

注目すべきなのは、全額還元が10%未満の回数しか出ない割合だ。利用回数10回の場合で1回も全額還元とならないケースは35%もある。利用回数が50回で、全額還元が5回未満のケースは43%となっている。つまり相当な割合で、10回に1回未満しか全額還元されないのである。

なお、実際の「全額還元」キャンペーンには、各回の利用額ではなく、ある期間中の全ての利用分が還元されるものなど、スマホ決済アプリごとにさまざまなものがあるため、注意が必要だ。

以上、クレジットカードのゴールドカードと、スマホ決済アプリの全額還元について簡単にみてきた。どちらにもいえそうなことは「ポイント還元には、あまり、のめり込まないほうがいい」ということだろう。

ゴールドカードのおトク感を得るためや、スマホ決済アプリで全額還元が出たときの快感を味わうために、必要もないのに無理に買い物をするようなことになれば、そのこと自体が、あまりおトクではないことのように思われるが、いかがだろうか。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

(2019年12月09日「研究員の眼」)

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