2019年12月06日

オフィスは需給逼迫が継続。REIT指数は上昇基調を強めるー不動産クォータリー・レビュー2019 年第3 四半期

基礎研REPORT(冊子版)12月号[vol.273]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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東京オフィス市場では極めてタイトな需給環境が続いており、都心部Aクラスの空室率は4期連続で1%を下回った。
 
東京のマンション賃料は、上昇基調で推移している。首都圏の物流施設市場では、過去最高水準の新規供給を上回る需要が発生し、空室率は低下した。
 
REIT指数は12.3%上昇しTOPIXの上昇率を4四半期連続で上回った。

1―経済動向と住宅市場

2019年7-9月期の実質GDP(1次速報)は、前期比年率0.2%と4四半期連続のプラス成長となった。一方、2019年7-9月期の鉱工業生産指数は、前期比▲0.6%と2四半期ぶりに下落した。自動車や半導体製造装置の輸出減少を背景に、輸送機械や生産用機械の生産が落ち込んでいる。また、2019年9月の日銀短観によると、大企業・製造業の業況判断DIは+5(前期比▲2)となり、3四半期連続で景況感が悪化した[図表1]。
日銀短観
2019年7-9月期の新設住宅着工戸数は約23.3万戸(前年同期比▲5.4%)となり、低水準の着工が続いている。
 
2019年9月の首都圏のマンション新規発売戸数は2,359戸( 前年同月比▲30.0%)と前年同月を大幅に下回った。一方、2019年第3四半期の首都圏の中古マンション成約件数は9,406件(前年同期比+8.3%)となり、引き続き高い水準と維持している。また、2019年8月の住宅価格指数は前期同期比+0.9%となり、17ヶ月連続で前年同月比プラスとなった[図表2]。
不動産住宅価格指数
中古マンションは、新築に対する価格面での割安感や優良ストックの拡充等を背景に、需要が高まっており価格も上昇している。

2―地価動向

地価の上昇は継続し、上昇幅も拡大している。国土交通省の「地価LOOKレポート(2019年第2四半期)」によると、全国100地区のうち上昇が「97」、横ばいが「3」、下落が「0」となり、6期連続で上昇地区が9割以上を占めた[図表3]。大阪圏の商業系3地区(「西梅田」・「茶屋町」・「新大阪」)は前期の 「3~6%上昇」から 「6%以上の上昇」となり、上昇幅が拡大した。
地価上昇下落幅の推移

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス

三幸エステートによると、2019年第3四半期の東京都心部Aクラスビルの空室率は0.6%と4期連続で1%を下回った[図表4]。
 
東京都心部Aクラス
一方、成約賃料(月/坪)は39,624円となり、前期(41,932円)を下回った(前期比▲6.9%)。一部のテナントの賃料負担力は伸び悩んでおり、40,000円/坪前後で天井感が広がる兆しも見られる。
 
ニッセイ基礎研究所では、Aクラスビルの成約賃料は40,000円台/月・坪の水準を維持した後、大量供給による空室率の上昇や、東京五輪開催後の経済低迷等に伴い下落基調に転じ、2023 年には約35,000 円となると予測している。
 
2│賃貸マンション

2019年第2四半期の東京23区のマンション賃料は前年比でシングルタイプが5.3%、コンパクトタイプが2.4%、ファミリータイプが4.2%上昇した[図表5]。
 
マンション賃料
継続的な人口流入を背景に、東京の賃貸マンション需要は底堅く、賃料の安定的な上昇に寄与している。
 
3│商業施設・ホテル・物流施設
 
経済産業省「商業動態統計」によると、2019年9月の小売販売額( 既存店、前年同月比)は百貨店が22.8%増、スーパーが4.4%増となった[図表6]。
 
月次販売額
9月は、消費増税前の駆け込み需要の勢いが増し、販売額が大きく増加した。一方、コンビニエンスストアの販売額は▲1.1%とやや低調であった。
 
観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、2019年8月の延べ宿泊者数は、日韓関係の冷え込み等の影響を受け、前年同月比▲2.4%減少し、30ヶ月ぶりに前年同月比マイナスとなった。翌9月の延べ宿泊者数は、ラグビーワールドカップ開催等により、前年同月比+5.0%、再びプラスに転じた[図表7]。
 
延べ宿泊数の推移
シービーアールイーによると、首都圏の大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年9月末)は前期末比▲0.3%低下の2.4%となり、過去最低水準となった[図表8]。
 
大型マルチテナント型物流施設の空室率
2019年第3四半期の新規供給は過去最高水準の20.6万坪であったが、Eコマース市場の拡大や物流拠点の集約・効率化ニーズを背景に先進的物流施設への需要は引き続き旺盛で、新規供給を上回る需要(21.1万坪)が発生し、空室率が低下した。

4―J -REIT(不動産投信)市場

2019年9月末の東証REIT指数( 配当除き)は、6月末比12.3%上昇し、TOPIX(+2.4%)の上昇率を4四半期連続で上回った。セクター別では、住宅が13.6%、オフィスが12.9%、商業・物流等が11.0%上昇した[図表9]。

 
東証REIT指数
REIT指数が上昇基調を強めるなか、投資家動向にも変化が見られる。東京証券取引所の投資部門別売買状況によると、今年5月以降、生保・損保の買いが増加し5~9月の累計で869億円の買い越しとなった[図表10]。
 
生保・損保のJ-REIT売買動向
もともと、REIT市場における生保・損保の保有比率は2%程度と低く、これほどの買い越し額は初めてのことである。10年国債利回りがマイナス利回りで推移するなか、J-REIT市場の高いイールドスプレッドに着目した国内資金の流入が継続している。
 
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

(2019年12月06日「基礎研マンスリー」)

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