2019年06月07日

オフィス市場は好調を維持、ホテルは一部で平均客室単価が下落ー不動産クォータリー・レビュー2019 年第1 四半期ー

基礎研REPORT(冊子版)6月号

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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2019年1-3月期の実質GDPは、前期比年率2.1%と2四半期連続のプラス成長となったが先行きの不透明感が強い。オフィス市場は好調を維持しており、目下のところ需要が緩む気配はない。2018年度の東証REIT指数は13%上昇し分配金増加・10年金利低下・リスクプレミアム縮小がバランスよく市場の上昇に寄与した。

1―経済動向と住宅市場

2019 年1-3 月期の実質GDPは前期比年率2.1%と2四半期連続のプラス成長となったが、輸入の減少と在庫の積み上がりが高成長の主因であり、実際の景気は見かけよりもかなり悪い。ニッセイ基礎研究所では実質GDP成長率は2019年度が0.4%、2020年度が0.8%と予想する。
 
日銀短観によると、2019年3月の業況判断DI(大企業)は製造業が12(前回比▲7)、非製造業が21(▲3)となり、ともに悪化した[図表1]。
日銀短観
主な要因には、製造業ではグローバル経済の減速、非製造業では人手不足に伴うコスト上昇などが挙げられる。
 
住宅市場は価格が高値圏を維持しており、住宅着工も回復傾向にある。2019年3月の新設住宅着工戸数(全国)は+10%と大きく増加した。一方、2019年3月の首都圏分譲マンションの新規販売戸数は3,337件(前年同月比▲7.7%)と3ヶ月連続で前年を下回った[図表2]。
マンション
また、2019年3月の中古マンション販売の成約件数は4,117件と、これまでの月次最高件数を記録した[図表3]。
マンション成約件数

2―地価動向

地価は引き続き上昇している。3月に公表された2019年地価公示によると、全国の全用途平均が4年連続で上昇し、三大都市圏や地方4市(札幌、仙台、広島、福岡)を中心に上昇地点の割合が増加した。また、国土交通省の地価LOOKレポート(2018年第4四半期)によると、大阪圏を中心に3-6%の上昇地点が前回15地点から27地点に増加した[図表4]。
地価

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
 
オフィス市況は好調を維持しており、目下のところ需要が緩む気配はない。三鬼商事によると、2019年3月の東京都心5区空室率は1.78%と最低水準が続く[図表5]。
旺盛なオフィス需要が高水準の新規供給を吸収し、オフィス床の品薄感が強まるなか、新築ビルでも既存ビルでも募集活動前から床を取り合う状況となっている。
 
三幸エステート公表の「オフィスレント・インデックス」によると、2019年第1四半期の東京都心部Aクラスビルの賃料は38,733円/坪(前期比▲1.9%)と一旦調整した[図表6]。
ニッセイ基礎研究所では、今後の東京都心部Aクラスビルの賃料は当面上昇傾向が継続し、2019 年第3四半期には約42,000 円に達すると見込む。

2│賃貸マンション
 
東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。高級賃貸マンション(2019年第1四半期)の空室率は5.2%(前年同期比▲0.6%)に低下し、賃料は前年同期比+3.3%の17,805円/坪と12期連続でプラスとなった[図表7]。
マンション
3│商業施設
 
日本不動産研究所によると、2018年下期の全国の主要都市のプライム店舗賃料は高水準を維持している[図表8]。
表参道1Fの賃料単価が61,100円/坪と銀座1Fの賃料単価56,700円/坪を越え、表参道の引き合いの強さが示された。中国検索エンジン大手によると、2019年1月の中国の電子商務法施行により在日中国人バイヤーの7割が取引を休止すると答えた(うち5割がドラッグストアなどで購入)。今後の商業施設売上への影響を注視したい。

4│ホテル
 
2019年3月の外国人の延べ宿泊者数は、+26%と大きく増加した。STR社によると、ホテルの平均客室単価(ADR)は東京を中心に上昇しているが、一部のエリアでは下落圧力も見られる。2019年3月の大阪のADRは前年同月比▲10.6%下落した[図表9]。
客室単価
昨年の自然災害によって下落した客室稼働率は客室料の引き下げにより早期に回復したが、その後もADRの下落傾向は続いており現在も戻っていない。

5│物流施設
 
CBREによると、大型マルチテナント型物流施設の空室率(2019年第1四半期)は、首都圏が4.9%(前期比+0.1%)、近畿圏が9.1%(同▲3.9%)となった[図表10]。これまで空室率の高かった圏央道エリアでも空室の解消が進んでいる。
空室率

4―J -REIT(不動産投信)不動産投資市場

1│J-REIT(不動産投信)
 

2019年3月末の東証REIT指数( 配当除き)は、2018年12月末比7.5%上昇しTOPIX(同+6.5%)をアウトパフォームした。分配金増加・10年金利低下・リスクプレミアム縮小がバランスよく市場の上昇に寄与した[図表11]。
J-REIT
需給面では、引き続き海外投資家による積極的な買いが目立つほか、リテール向けJリート投信からの資金流出に歯止めがかかり買い越しに転じたことが価格上昇に寄与した。

2│不動産投資市場
 
日経不動産マーケット情報(2019年5月号)によると、2019年第1四半期の不動産売買額は、9,642億円(前年同期比▲26%)に留まり、2013年以降で最低の水準となった。今期は大半の取引事例が100億円台であったが、投資に適した大規模優良物件の不足が売買額減少の要因の一つとして指摘されている。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2019年06月07日「基礎研マンスリー」)

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