2019年09月06日

オフィス市況は好調維持。REIT市場は年初来高値圏で推移ー不動産クォータリー・レビュー2019 年第2 四半期

基礎研REPORT(冊子版)9月号

金融研究部 不動産調査室長 岩佐 浩人

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2019年4-6月期のGDP成長率は民間消費や設備投資などの国内需要が好調で高い伸びとなった。住宅市場は新築マンションの販売が低調な一方で中古マンションの成約件数が増加している。東京オフィス市場は、タイトな需給環境が継続するなか賃料が上昇している。2019年上期の訪日外国人客数は前年同期比4.6%増加、外国人の宿泊者数は13.6%増加した。2019年第2四半期のJ-REIT市場は1.6%上昇し、TOPIXの収益率を3四半期連続で上回った。

1―経済動向と住宅市場

4-6月期の実質GDP成長率(1次速報)は前期比年率1.8%と3四半期連続のプラス成長となった。旅行・外食などのサービス消費や省力化投資などの企業による設備投資が好調であった。一方、6月の日銀短観によると、大企業・製造業の業況判断DIは+7(前期比▲5)となり2四半期連続で景況感が悪化した[図表1]。引き続き、米中貿易摩擦の激化や海外経済の減速に伴う外需の悪化リスクに留意が必要である。
日銀短観
住宅市場は価格が高値で推移するなか、首都圏では中古マンションの成約件数が増加している。2019年4-6月期の新設住宅着工戸数は約23.3万戸(前年同期比▲4.7%)となり前期(+5.2%)に増加した反動もあって減少に転じた。個人向けアパートローン融資の厳格化を背景に貸家が10カ月連続で減少する一方で、持家の着工が9カ月連続で増加した。また、4-6月期の首都圏のマンション新規発売戸数は5,886戸(前年同期比▲21.1%)、中古マンション成約件数は9,679件(前年同期比3.6%)となった[図表2]。新築に対する価格面での割安感に加えて、既存マンションのストックが拡充し購入者の選択肢が増えていることも中古の需要を押し上げている。
マンション

2―地価動向

地価は上昇し上昇幅も拡大傾向にある。国土交通省の「地価LOOKレポート(2019年第1四半期)」によると、全国100地区のうち97の地区が上昇し5期連続で上昇地区が9割以上を占めた[図表3]。繫華性や利便性の高いエリアでの不動産投資が活発で、今回「3~6%」上昇に「宮の森(札幌)」と「天王寺(大阪)」が加わるなど「3~6%」上昇の地点数は期を追う毎に増加している。
地価

3―不動産サブセクターの動向

1│オフィス
 

三鬼商事によると、6月の都心5区空室率は1.72%(前月比0.08%)となった。新築ビルへの移転に伴う2次空室の発生により11カ月ぶりに上昇したものの、依然として過去最低水準にある。また、平均募集賃料は66カ月連続で前月比プラスとなった。他の主要都市でもオフィス需給が逼迫するなか空室率は低下し[図表4]、賃料も上昇している。
成約賃料データに基づく「オフィスレント・インデックス(第2四半期)」によると、東京Aクラスビル賃料は41,392円(前期比6.9%)となった。Aクラスビルの空室率が3期連続で1%を下回り極めて引き締まった需給環境が継続するなか、賃料は2008年第3四半期以来となる4万円台を回復した[図表5]。
2│賃貸マンション
 
東京23区のマンション賃料は上昇基調を維持している。第1四半期は前年比でシングルタイプが3.1%、コンパクトタイプが4.3%、ファミリータイプが4.8%上昇した[図表6]。住宅系REITの運用実績をみても都心エリアに近く面積の大きい住居ほど賃料は強含んでいる。
マンション
3│商業施設・ホテル・物流施設
 
商業動態統計によると、第2四半期の小売販売額(既存店、前年同期比)は百貨店が▲1.3%、スーパーが▲0.7%、コンビニエンスストアが1.0%となった。百貨店・スーパーは衣料品の売上が低調であった。
 
2019年上期の訪日外国人客数は前年同期比4.6%増加の1,663万人となったが、増加率は鈍化傾向にある。なかでも全体の約23%を占める韓国の減少(▲3.8%)が目立つ。政府目標である「2020年4,000万人」を達成するには今後年率+16%の伸びが必要となる。一方、2019年上期の延べ宿泊者数は4.3%増加し、このうち外国人が+13.6%、日本人が+2.3%となった。外国人の宿泊数が訪日客数の伸びを上回ったことに加えて、GW10連休の効果から日本人の宿泊数が増加したこともプラスに寄与した。STR社によると、全国のホテル稼働率(2019年上期)は82.1%と引き続き高い水準を維持している。また、平均客室単価は2.5%上昇したが、ホテルの新規供給が多い大阪・京都では下落するなどエリア間で格差も見られる[図表7]。
CBREによると、首都圏の大型物流施設の空室率(6月末)は3月末比▲2.2%低下の2.7%となった[図表8]。Eコマース市場の拡大や物流拠点の集約・効率化ニーズを背景に先進的物流施設への需要は旺盛で、「東京ベイエリア」と「外環道エリア」の空室率は0%となった。近畿圏の空室率も新規供給が落ち着くなか7.1%(前期比▲2.0%)に低下した。
物流施設の空室率

4―J -REIT(不動産投信)市場

第2四半期の東証REIT指数は、3月末比1.6%上昇しTOPIXの収益率を3四半期連続で上回った。6月末のバリュエーションは、純資産9.9兆円に保有物件の含み益3.2兆円を加えた13.1兆円に対して時価総額は14.5兆円でNAV倍率は1.1倍、分配金利回りは3.9%、10年国債利回りとのスプレッドは4.0%となっている。
 
J-REITによる第2四半期の物件取得額は4,525億円(前年同期比+42%)、上期累計で8,954億円(▲13%)となった[図表9]。
J-REIT
物流施設やホテルを中心にスポンサーからの取得が大幅に増加した。なお、アセットタイプ別の取得割合(上期累計)は、オフィス(30%)、物流施設(24%)、ホテル(15%)、商業(11%)、底地など(10%)、住宅(9%)の順となっている。
 
7月に入り、東証REIT指数は一段と上昇し、節目となる2000ポイントの大台を2007年12月以来、11年7カ月ぶりに回復した。今回の上昇スピードは過去の上昇局面と比べて緩やかであるため過熱感に乏しく、割高感も強まっていない。ただし、株式市場の動向や海外景気の減速など外部環境に不透明感もあり、今後は市場ファンダメンタルズに沿った落ち着いた値動きが望まれる。
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金融研究部   不動産調査室長

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     2005年 ニッセイ基礎研究所
     2019年4月より現職

    【加入団体等】
     ・一般社団法人不動産証券化協会認定マスター
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

(2019年09月06日「基礎研マンスリー」)

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