コラム
2019年11月29日

より強力となる財政・金融政策~薬に依存する先進国経済~

客員研究員   櫨(はじ) 浩一

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1――強力となった金融緩和政策

日本では1990年代に入ってバブル崩壊が起こった後、金融政策は緩和方向となったが、昔から行われていた政策金利の引き下げだけでは効果が不十分だった。このため、かつては禁じ手とされていたり、不可能だと考えられたりしていた、ゼロ金利、量的緩和政策、マイナス金利や長期金利のコントロールといった強力な金融緩和政策が次々と採用されてきた。他の先進諸国でも状況は同様となっており、2008年に起こったリーマンショックや、その後の欧州債務危機では、米国や欧州でもゼロ金利、量的金融緩和やマイナス金利といった非伝統的金融政策が活用されるなど、金融政策は非常に強力なものとなっている。

日本や欧州が強力な金融緩和政策を続ける中で、米国は2015年末から利上げを始めて金融政策の正常化に向かって動き出していた。しかし、2019年に入ると利上げは停止され、さらに再び利下げに転じている。欧州中央銀行(ECB)は、9月に「包括的緩和パッケージ」をまとめたなど、むしろ欧米諸国の金融政策は強化される方向に向かっている。経済学者は次の景気後退に対して、現在よりもさらに強力な緩和政策として、どのような手段が可能かを議論し始めている。

2――強い薬なしに安定しない先進国経済

日本だけでなく先進諸国は、既に金融は強い緩和状態で、追加的な緩和余地が縮小している上に、その景気刺激効果は小さくなっていると考えられている。このため、さらなる景気刺激のためには財政政策を活用すべきだという方向に議論が進みつつある。とりわけ、欧州ではドイツやオランダなどは財政状況が比較的良好なので、財政支出を拡大する余地が大きいと指摘されている。

こうした一部の国々を除けば、先進諸国では政府債務の名目GDP比は1990年頃に比べて大きく上昇しており、とても財政状況は良いとは言えない。しかし、財政赤字を縮小しようとすると経済に影響を与えてしまうため、財政収支の改善には手が付けられず、多くの国で政府債務の名目GDP比は上昇が続いている。

米中摩擦のあおりを受けて輸出が低迷し、消費税率引上げによる変動もあるため、日本経済は好調とは言えない状況だ。しかし、それでも失業率は2%台前半で推移しており、1990年代末の緊迫した雰囲気とは程遠い状態だ。米国経済も、11月に入ってNYダウ平均株価が史上最高値を更新し続けており、失業率も3%台半ばと、米国としては歴史的な低水準となっていて、2008年当時のような危機的状況にあるわけではない。しかし先進諸国経済はこのように「危機的」とは言えない状態となっているにもかかわらず、20世紀には考えられなかったほどの非常に強力な財政・金融政策による景気刺激を縮小することすらできない状況となっている。

3――答えるべき問題

日本がバブル崩壊後に経済の低迷を続けていた時期に、欧米の経済学者は、度重なる政策の失敗が原因だとしていた。しかし、今や先進国経済全体が日本経済と似たような症状を呈するようになった。他国と比較して日本特有の問題が指摘されることが多いが、実は先進諸国全体に共通する問題が存在するのではないだろうか。

1970年代には不況下でも物価の上昇が止まらないスタグフレーションという問題に直面し、財政・金融政策を使えば経済を思うようにコントロールできるという考え方は放棄された。しかし、次に経済が不振に陥ったときにどうするかという対症療法の手段ばかりを議論している現状は、財政・金融政策を駆使して経済を安定化させようとしていた昔から、あまり進歩していないように見える。

1930年代の大恐慌の原因は金融政策の失敗にあるという理解が広がって、いつしか忘れ去られてしまったが、当初は大恐慌は資本主義の様々な問題が噴出したものと受け止められていた。資本主義の欠陥を補う目的で様々な制度が作られたのだが、こうした制度は1980年頃以降縮小傾向にあり、先進国経済の体質を大きく変えてしまった可能性がある。

今経済学が答えるべき真の問題は、なぜ先進国経済は大幅な財政赤字やマイナス金利のように著しく強い薬がなくては安定を維持できなくなってしまったのかということではないだろうか。
 
 

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客員研究員

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野

(2019年11月29日「エコノミストの眼」)

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