2019年11月25日

日銀のETF買いに異変?

金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト   井出 真吾

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■日銀が買入基準を変更?

日銀のETF(上場投資信託)買入政策が久しぶりに話題になった。11月13日と14日に株価がやや大きく下落したにもかかわらず、日銀がETFの買い入れを見送ったからだ。
 
日銀は買入基準を明らかにしていないが、市場では「午前の東証株価指数(TOPIX)が前日終値から0.5%ほど下落すると日銀がETFを買う」とみられている。ところが13日(-0.497%)、14日(-0.491%)の下落率は市場が見立てる日銀買入基準に近かったにもかかわらず、日銀がETFを買わなかった。そのため、市場の一部では「日銀が買入基準を変更したのでは?」と話題になったようだ。
 
これは、日銀の買入ペースが下がっていたことも影響していそうだ。日銀は年間6兆円を買入額の目途としているが、ここ数ヶ月は買入ペースが顕著に低下していた。
【図表1】買入ペースは低下傾向

■市場がザワついたのも当然!?

■市場がザワついたのも当然!?

日銀は2018年7月30~31日の金融政策決定会合において、ETFの買入れについて「資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動しうるものとする。」との新たな方針を示した。「上下に変動しうる」を追加したことで、状況によっては1年間の買入れ額が6兆円を超えることも、逆に6兆円に満たないこともあり得ることとなった。
 
市場関係者が気になるのは、新たな方針のもとでの「買入基準」だろう。図表2は午前のTOPIX下落率と日銀のETF買入状況を示したものだ。棒グラフのうち青色は日銀がETF買入れを実施した日、赤色は買入れを見送った日を表している。
 
これまで午前のTOPIX下落率が0.5%を超えた日は例外なく買入れを実施した。問題は、従来は午前のTOPIX下落率が0.5%程度でも買入れを実施したのに(オレンジの枠、0.5%に満たない日もあった)、11月13・14日(黄緑の枠)は0.5%程度下落したにもかかわらず2営業日連続で買入れを見送ったことだ。図表2からは市場で話題になったのは当然のようにも見える。
【図表2】市場がザワついたのも当然!?

■TOPIXの下落率だけで決めていない

■TOPIXの下落率だけで決めていない

本当に日銀はETF買入基準を変更したのだろうか。それに関しては今年5月の参議院財政金融委員会での雨宮副総裁の発言がヒントになる。議員からの「リスクプレミアムをどう把握しているのか」との質問に対し、雨宮副総裁は図表3のように複数の観点を挙げたうえで「総合的に判断していくことが必要」と説明した。
 
すなわち、日銀は単にTOPIX下落率だけでETFを買入れるか見送るか決めているのではないと解釈できる。
【図表3】日銀が見ているリスクプレミアム

■ETF買入れ政策の持続性を強化

■ETF買入れ政策の持続性を強化

一例として、PER(株価収益率)と日銀によるETF買入れの対応関係を分析した。PERは株価÷一株当たり利益(EPS)で算出され、ゼロ金利下においてはPERとリスクプレミアムは逆数の関係にある。PERが低いときはリスクプレミアムが高く(=投資家がリスクに敏感)、PERが高いときはリスクプレミアムが低い(=投資家のリスク許容量が高い)。
 
図表4は、日銀がETF買入方針を変更した2018年8月以降について、縦軸は午前のTOPIX下落率、横軸はPERとし、日銀がETF買入れを実施した日を青色、見送った日を赤色とした。
【図表4】TOPIXの下落率だけでは見誤る
午前のTOPIX騰落率とPERを組み合わせてETF買入有無との対応関係を見ると、PERが低いとき(=リスクプレミアムが高いとき)は下落率が0.5%を超えなくても買入れたことがわかる(図表2のオレンジ枠の日もPERが11~12倍台であった)。
 
一方、11月13、14日(黄緑の枠)は、午前のTOPIX下落率が同程度の日と比較して、PERが14倍程度と高い(=リスクプレミアムが低い)ことがわかる。あくまで推測だが、日銀はリスクプレミアムが許容範囲にある(高まっていない)との判断からETF買入れを見送ったのではないだろうか。
 
雨宮副総裁が国会で説明したとおり、日銀は複数の観点でリスクプレミアムを観察している以上、ETFの買入有無を単にTOPIXの下落率だけで予想しようとすれば見誤るだろう。なお、図表4のブルーの線は筆者の主観で描いたものであり、さらに日銀はPERの他にも「総合的に」観察しているため、買入有無を完全には区別できていない。
 

■政策の持続性を強化

■政策の持続性を強化

このように考えると、11月13、14日の買入れ見送りは、筆者が以前指摘したとおり(「日銀ETF買入れ縮小の真意」(2018年9月7日付))、緩和縮小ではなく“緩和継続”のための措置の結果といえるだろう。
 
実際、方針変更前(2017年1月~2018年7月)の買入状況は図表5のとおりで、PERの水準に関係なく、午前のTOPIXが0.3%以上下落した日は例外なく買い入れた。これを「リスクプレミアムが高くない(PERが低くない)ときは買わない」とすることで、必要以上にETFを買わないようにしているのではないか。
 
言うまでもなく変更の目的は“出口”と“コスト”を意識しているのだろう。不必要にETFの残高が積み上がれば、その分だけ出口戦略の難易度が上がるだけでなく、ETFの保有にかかるコスト(信託報酬)も嵩む。
 
とはいえ、今後、もし米中対立や景気減速などの懸念が高まりPERが再び低下(=リスクプレミアムが上昇)すれば、午前のTOPIX下落率が0.5%に満たなくても日銀はETF買入れを実施するだろう。
 
ただし、忘れてはいけないのは、日銀は株価をつり上げるために買入れを実施する訳ではない。肝心なことは景気・企業業績が回復することであり、株価に関して日銀のETF買入れに過度な期待をすることは禁物である。
【図表5】機械的な買入れから、より持続性の高い買入れへ
 
 

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金融研究部   上席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済

(2019年11月25日「基礎研レター」)

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