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企業型DCの商品選び-効率的な資産形成に欠かせない投資信託の活用

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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1――老後生活に向けて、長期の資産形成が大切
総務省の家計調査(2017年)によれば、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では、公的年金等の収入よりも支出の方が多く、不足額は月平均で5万4千円程度」です。金融庁の指摘は、この月平均の不足額が30年では2千万円(=約5.4万円×12カ月×30年)と計算されることに基づいています。つまり、現在の高齢夫婦無職世帯の標準的な生活が前提となっています。
しかし、ゆとりある老後生活を前提にするのであれば、より多くの備えが必要になることは想像に難くありません。生命保険文化センターの「生活保障に関する調査(2016年)」によれば、夫婦2人で経済的にゆとりのある老後生活を送るためには、約35万円必要と考えられています。公的年金の2018年実績は、標準世帯(夫が40年間就業(平均標準報酬42.8万円)し、妻がその期間全て専業主婦であった世帯の新規裁定の給付水準)で月額22.1万円ですから、ゆとりある生活を送るためには、公的年金とは別に月12.9万円、30年間で総額4千6百万(=約12.9万円×12カ月×30年)の備えが必要との計算になります。
結局のところ、老後生活に向けていくら備えるべきかは、どの程度のゆとりをもって、どのような生活スタイルを目指すのかに大きく依存するわけです。個人差が大きいため、いくら備える必要があるかは、個別にライフプランニングなどを通じて確認する必要があります。しかしながら、寿命の伸長により老後の生活費が嵩む一方で、公的年金の実質的な給付水準の低下が避けられないことを踏まえると、公的年金だけに頼った老後生活が難しくなることは間違いありません。「退職金を含めた長期の資産形成による備えが必要」との金融庁のメッセージが実情を踏まえたものであることを認識し、特に、若い世代では老後に向けた準備を早々に始める必要があると言えます。
2――老後の資産形成では、企業型DCの有効活用が不可欠

企業型DCで購入できる運用商品には、元本確保型商品と投資信託の2つがあります。定期預金や保険商品などの元本確保型商品には、元本が保証されるメリットがありますが、現在の利率は0%近辺です。この水準が続くとすると、積立金の大幅な増加が望めないことは図表1からも明らかです。一方、株式や債券を投資対象とする投資信託であれば、長期的には経済の成長とともに、利息配当収入や値上がり益の拡大が期待できます。より多くの資産形成を目指すのであれば、投資信託を避けることはできません。
投資期間が長くなれば、値上がりと値下がりが相殺される結果、1年当りのリターンが安定する傾向があります。図表2は、国内外の株式と債券にそれぞれ25%ずつ投資した場合の1年当りのリターンの推移を、投資期間を変えて比較したものです。投資期間が1年の場合には、時期によってリターンのバラつきが大きくなっていますが、投資期間が長くなるに連れ、リターンの格差は小さくなっています。また、投資期間が1、5年の場合には、リターンがマイナスになる時期もありますが、10年の場合には、最低でもプラスのリターンが確保されていることが分かります。投資期間が短いと、必ずしも本質的とは言えないような雑多な要因によってリターンは大きく上下に振れるのに対して、投資期間が長くなると、経済成長に基づく本来のリターンに収斂するためです。
積立投資にも、損失を抑制する効果を期待できます。一度に多額の投資をする場合、高値で投資することによって、その後の価格下落時に大幅な損失を被る恐れがあります。しかし、少額ずつ定期的に投資する積立投資であれば、高値での投資と安値での投資の損益が相殺される結果、大幅な損失発生が抑えられます。
このように、長期投資と積立投資には、損失発生リスクを軽減する効果があるため、これらを前提とする企業型DCであれば、元本が保証されない投資信託であっても、ある程度安心して購入することができます。
3――「バランス型」で、手軽に分散投資


このような損失抑制効果が期待される分散投資は、企業型DCでも取り入れたい考え方ですが、バランス型なら手軽に分散投資を始められます。複数の資産に投資する商品であるため、バランス型商品を一つ購入するだけで、分散投資を実践できるところに最大のメリットがあります。なかでも、ライフサイクル型1は、資産構成比率が予め決められた水準に維持されるという安心感と、信託報酬(運用会社等に支払う手数料)が相対的に低廉という特長から、投資経験が十分でない方でも利用しやすい投資信託と言えます。
ライフサイクル型には、株式等の構成比率の違いによって、「債券重視型」、「標準型」、「株式重視型」などの名称が付けられた2~3種類の商品がラインナップされています。例えば、投資期間が短い50歳代で、元本割れを極力回避したいのであれば「債券重視型」、まだ若く、長期的な資産形成を目指すのであれば「株式重視型」といったように、加入者それぞれの運用目標や損失回避の考え方に合った商品選びができるように配慮されています。20~30歳代の若年層であれば、長期投資によるリスク軽減効果を期待できます。後で「債券重視型」に変更することもできるため、「株式重視型」を選んでも良いのではないでしょうか。
1 金融機関によって定義が異なる場合があります。
(2019年11月25日「基礎研レポート」)
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03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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