2019年11月19日

インドの生命保険会社の状況-2018年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-

中村 亮一

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(2)予定死亡率
予定死亡率については、基本的には、最新の標準生命表である「IALM(2006-08)Ult.」をベースにしている。ただし、この生命表をそのまま使用しているわけではなく、商品毎、性別、年齢別、対象市場毎に異なる調整を行った死亡率を採用している。さらに、その水準や方式についても、各社毎に異なっている。

2018年度末において、個人生命保険(有配当)契約の責任準備金評価における予定死亡率について、SBI Lifeを除く民間の4社は見直しを行っている。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)2018年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―
(参考)責任準備金計算基礎(予定死亡率)2017年度末―個人生命保険(有配当)契約の場合―
また、LICにおける商品毎の予定死亡率は、以下の図表の通りである。生存保障要素の高い商品等については、低めの割増率や年齢のセットバックによる割引を行い、死亡保障性の高い商品では、相対的に高い割増率を採用している。

LICは、個人年金保険契約の年金受給後の予定死亡率について、2015年度末にセットバック年齢を3歳から4歳に引き上げ、2016年度末にはさらに5歳に引き上げ、2017年度末には6歳に引き上げるという変更を行っていたが、2018年度は変更していない。
責任準備金計算基礎(予定死亡率)―LICの場合(個人保険商品毎)―
以上のように、予定死亡率については、各社の経験データ等に基づいて、対象とする市場における経験発生率の状況等も勘案する中で、各社が合理的・妥当と考える水準に設定されてきている。
2|ソルベンシー比率(Solvency Ratio
6社のソルベンシー比率の推移は、以下の図表の通りである。各社毎に絶対水準は大きく異なっているが、各社ともIRDAIが最低基準としている1.5(150%)の水準を上回っている。
大手各社のソルベンシー比率(Solvency Ratio)
なお、LICのソルベンシー比率は安定的に推移しているが、民間の5社は規模の拡大に合わせて、基本的には絶対水準は低下傾向にある。ただし、引き続き高水準を維持している。
3|剰余の分配(契約者配当)の状況
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、例えば、2018年度決算に基づいて、2019年度に割り当てられる、2018年度の保険金増額式配当率については、以下の図表の通りとなっている。

2016年度から2017年度にかけては、ICICI Prudential、HFDC Standard及びBajaj Allianzが配当率の一部引き下げを行ったが、他社は2016年度と同水準となっていた。2017年度から2018年度にかけては、HFDC Standard、SBI Life及びBajaj Allianzが配当率の一部を変更している。

なお、例えば、LICの養老保険や終身保険の場合、ここ8年間の配当率は同水準であり、安定的な配当が行われてきている。
契約者配当率―個人生命保険(有配当)契約の場合(保険金増額式配当率)―
(参考)EVEmbedded Value)の公表
EVについては、大手の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialとSBI LifeがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。 ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。

EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。

これによれば、各社の2018年度の新契約マージンは15%~25%の範囲にあり、2017年度に比べても水準を上げている。このように、引き続き新契約における高い収益性を確保している。

また、EVについては、2015年度に増加率が低下していたが、2016年度から2018年度においては各社とも、Bajaj Allianzを除けば、2桁進展と大きく増加してきており、会社の価値を着実に高めてきている。
インド生命保険会社のEV

6―まとめ

6―まとめ

ここまで、2018年度決算に関する各社のPublic Disclosures資料等に基づいて、インドの生命保険業界の主要各社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況について報告してきた。

インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。

成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて注力してきている。

今後とも、その動向は極めて注目されることから、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2019年11月19日「保険・年金フォーカス」)

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