コラム
2019年11月06日

国内株式、確定拠出年金でも利益確定売り~2019年10月の投信動向~

金融研究部 主任研究員 前山 裕亮

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国内株式から大規模な資金流出

2019年10月の日本籍追加型株式投信(ETFを除く。以降、ファンドと表記)の推計資金流出入をみると、10月はバランス型、外国REITに資金流入があり、国内債券、国内REIT、外国株式にも若干の資金流入があった【図表1】。ただ、その一方で国内株式からは2,700億円、外国債券からは1,100億円の資金流出があり、ファンド全体でみても7月以来3カ月ぶりに1,300億円の資金流出に転じた。
 
国内株式からの2,700億円の資金流出は9月の2,200億円から500億円増え、今年最大の資金流出があった4月とほぼ同規模であった。10月の国内株式は9月と同様に大きく上昇した。そのため、インデックス・ファンド、アクティブ・ファンドを問わず利益確定のため売却する投資家が多かった。特にインデックス・ファンドでは、日経平均株価が4月の年初来高値を更新した16日の翌営業日に一日あたりで今年最大の330億円の資金流出があった。4月からの戻り待ちの売りによって資金流出が膨らんだ面もあるだろう。
【図表1】 2019年10月の日本籍追加型株式投信(除くETF)の推計資金流出入
国内株式では、DC(確定拠出年金)専用ファンドからも金額自体は小さいが資金流出(赤棒)があった【図表2】。国内株式のDC専用ファンドの資金動向の推移をみると、足元の10月以外に国内株式が高値まで上昇した昨年9月や今年の4月でも資金流出している。確定拠出年金といえば毎月積立で長期保有しているイメージが強いが、実際には確定拠出年金でも積極的にスイッチングして国内株式を売買している投資家が案外多いのかもしれない。
【図表2】 DC専用国内株式ファンドの資金流出入

外国債券、外国株式も足元の高パフォーマンスが売却促進か

外国債券についても、10月は1,100億円の資金流出と9月の500億円弱から拡大した。為替市場では5月以来、5カ月ぶりに一時1ドル109円をつけるなど10月は円安が進行した。それに加えて、10月にブラジル・レアルの通貨選択型ファンド(【図表3】赤太字)のパフォーマンスが特に好調であったことからも分かるように、ブラジル・レアル、メキシコ・ペソ、オーストラリア・ドルなど高金利通貨が総じて上昇した。10月は好調だった外国債券ファンドが多く、足元の好調なパフォーマンスが投資家の売却を促した面があるだろう。
【図表3】 2019年10月の高パフォーマンス・ランキング
また、外国株式についても資金流出にこそ転じなかったが、10月は資金流入がほぼ止まった。引き続き人気を集めるファンド(【図表4】赤太字)もあったが、過去に人気だったテーマ型ファンドからの資金流出が大きく、全体でみると資金の動きがなかった。外国株式についても10月は総じて高パフォーマンスだっただけに、国内株式と同様に利益確定の売却が膨らんだものと思われる。
【図表4】 2019年10月の推計純流入ランキング

米国REITの人気がやや復調

バランス型の流入金額も、9月の2,400億円から10月は1,900億円と鈍化した。ただ、9月は確定拠出年金からの資金流入によってバランス型の資金流入が大きく膨らんでいた。バランス型からDC専用ファンドを除外すると、10月は1,450億円の資金流入と9月の1,250億円から200億円ほど増加しており、通常のバランス型の販売は引き続き好調であったことが分かる。個別ファンドでみても、10月に資金流入が大きかった上位10本中6本(【図表4】青太字)がバランス型であり、投資家の人気の高さがうかがえる。バランス型に加えて、外国REITにも400億円に迫る資金流入があった。
 
外国REITは4カ月連続の資金流入で、10月は2017年以降では最大の流入金額となった。このように7月以降、外国REITへの資金流入が続いているのは、米国REITファンドの人気がやや復調してきていることが大きい。実際に米国REITファンドの資金動向(棒グラフ)をみると、2017年以降は資金流出が続いていたが今年7月に資金流入に転じている。流入金額も徐々にではあるが毎月拡大してきている。また、米国REITを中心に運用しているものの他資産も組入れているためバランス型としている(つまり、外国REITとはしていない)「ダイワ米国リート・プラス」が5月以降、シリーズ合計で毎月100億円以上の資金流入が続いていることからも、米国REITの人気の高さが分かる。

米国REITファンドに投資家の人気(資金)が戻りつつある背景には、米国の金融政策の変更があるだろう。米国REIT(ファンド)はこれまで米国の利上げが逆風となっていたが、2019年は利上げが打ち止めになり、さらに8月から3カ月連続で利下げが実施され追い風に変った。そのため、米国REITを見直す投資家が少なからずいたと思われる。米国REITファンドのパフォーマンス(【図表5】線グラフ)をみると、2015年から2018年にかけてやや軟調であったが、2019年は上昇基調となっている。
 
今後についても米国で断続的な利下げが実施されるかは定かでないが、当面は再び利上げに向かう可能性は低い。それに加えて米国REITは相対的に米中問題の影響を相対的に受けにくいと考えられている。米中問題は、10月こそ小康状態になったが引き続き不透明感が高く、悪影響を警戒している投資家も多いと思われる。このことも、投資家の資金の一部がバランス型に加えて米国REITファンドにも向かいやすい状況が続く背景になっていると思われる。
【図表5】 米国REITファンドの累積平均収益率と資金流出入
 
 

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金融研究部   主任研究員

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)

研究・専門分野
株式市場・投資信託・資産運用全般

経歴
  • 【職歴】
    2008年 大和総研入社
    2009年 大和証券キャピタル・マーケッツ(現大和証券)
    2012年 イボットソン・アソシエイツ・ジャパン
    2014年 ニッセイ基礎研究所 金融研究部
    2022年7月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・投資信託協会「すべての人に世界の成長を届ける研究会」 客員研究員(2020・2021年度)

(2019年11月06日「研究員の眼」)

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