2019年11月05日

【10月米雇用統計】雇用者数は前月比+12.8万人と市場予想(+8.5万人)を上回る。GMストを考慮すれば堅調な伸び

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を上回る一方、失業率は市場予想に一致

11月1日、米国労働省(BLS)は10月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+12.8万人の増加1(前月改定値:+18.0万人)と、+13.6万人から大幅に上方修正された前月を下回ったものの、市場予想の+8.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.6%(前月:3.5%、市場予想:3.6%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、市場予想に一致した(後継図表6参照)。労働参加率2は63.3%(前月:63.2%、市場予想:63.1%)とこちらは前月から+0.1%ポイント上昇し、低下を見込んだ市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:GMストの影響を考慮すれば、雇用増加数は堅調な伸びが持続

10月の雇用増加数は、GMストの影響によって▲4.6万人3過小評価されており、これらの影響が無ければ前月比+17.4万人であったとみられる。また、過去2ヵ月が+9.5万人上方修正されたこともあり、ストが無かった場合の過去3ヵ月の月間平均増加数は+19.1万人となった。これは、昨年平均の+22.3万人は下回っているものの、19年通年の+16.7万人を上回っており、足元で堅調な雇用増加が持続していることを示す結果である。

家計調査は、失業率が前月から上昇したが、労働力人口の増加を背景にした労働参加率の上昇を伴っており、必ずしも労働需給の悪化を意味しない。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.2%(前月:横這い、市場予想:+0.3%)と、前月から伸びが加速したものの、市場予想は下回った。また、前年同月比は+3.0%(前月改定値:+3.0%、市場予想:+3.0%)と、こちらは、+2.9%から上方修正された前月値、市場予想に一致した(図表1)。

このようにみると、10月は賃金の伸びは引き続き冴えないものの、ストの影響を除いた場合の堅調な雇用増加ペースや、労働参加率の上昇など、労働市場の堅調な回復が持続していることを確認する結果と言えよう。

3.事業所調査の詳細:GMストの影響で製造業雇用が減少

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+15.7万人(前月:+16.0万人)と前月から伸びが小幅ながら鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+6.1万人(前月:+4.5万人)となったほか、金融サービスが+1.6万人(前月:+0.8万人)と前月から伸びが加速した。

一方、人材派遣業が▲0.8万人(前月:+2.0万人)と減少に転じたことから専門・ビジネスサービスが+2.2万人(前月:+3.7万人)となったほか、医療サービスも+1.5万人(+3.8万人)と前月から伸びが鈍化した。

財生産部門は前月比▲2.6万人(前月:+0.7万人)と3ヵ月ぶりの減少となった。建設業が+1.0万人(前月:+1.1万人)と前月並みの増加を維持した一方、製造業がGMストの影響もあって自動車・自動車部品が▲4.2万人(前月:▲0.4万人)と大幅な減少になるなど、製造業全体で▲3.6万人(前月:▲0.5万人)減少し、財生産部門の雇用を押下げた。

政府部門は、前月比▲0.3万人(前月:+1.3万人)と前月から減少した。内訳をみると、州・地方政府が+1.4万人(前月:+1.3万人)と前月並みの水準を維持した一方、連邦政府が▲1.7万人(前月:横這い)と前月から減少した。連邦政府雇用の減少は、20年の国勢調査の準備に関連した臨時政府職員2万人の雇用が終了したことが大きい。
前月(9月)と前々月(8月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+18.0万人(改定前:+13.6万人)と+4.4万人上方修正されたほか、前々月が+21.9万人(改定前:+16.8万人)と、こちらも+5.1万人上方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は+9.5万人の上方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って10月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+12.5万人(前月改定値:+9.3万人、市場予想:+11.0万人)と、+13.5万人から大幅に下方修正された前月改定値を上回ったほか、市場予想も上回った。一方、過去3ヵ月の月間平均増加ペースは+12.6万人と19年通年の+15.7万人を下回っており、過去3ヵ月の雇用増加ペースが加速した雇用統計とは異なる動きとなっている。
 
10月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が28.18ドル(前月:28.12ドル)となり、前月から+6セント増加した。週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から横這いとなった。この結果、週当たり賃金は969.39ドル(前月:967.33ドル)と、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が13年8月以来の水準に上昇

家計調査のうち、10月の労働力人口は前月対比で+32.5万人(前月:+11.7万人)と6ヵ月連続の増加となったほか、前月から増加幅が拡大した。内訳を見ると、就業者数が+24.1万人(前月:+39.1万人)と前月から伸びが鈍化したものの、失業者数が+8.6万人(前月:▲27.5万人)と前月から増加に転じて全体を押上げた。非労働力人口は▲11.8万人(前月:+8.9万人)と前月から減少に転じ、職探しのために労働市場に再参入する人数が増加したことを示した。

これらの結果、労働参加率は63.3%と13年8月(63.3%)以来の水準に上昇した(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も10月は82.8%(前月:82.6%)と前月から+0.2%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.1%(前月:89.1%)と前月から横這いとなったものの、女性が76.6%(前月:76.2%)と+0.4%ポイント上昇した。

失業率は、前月から+0.1%ポイント上昇したものの、前述のように職探しのために労働市場に再参入する人数が増加したことが影響していると考えられることから、必ずしも労働需給の悪化を意味しない。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
10月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は126.4万人(前月:131.4万人)と前月から▲5.0万人減少した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも21.5%(前月:22.7%)と、前月から▲1.2%ポイント低下した(図表7)。一方、平均失業期間は21.8週(前月:22.0週)とこちらも前月から▲0.2週短期化した。
 
最後に、周辺労働力人口(122.9万人)4や、経済的理由によるパートタイマー(443.8万人)も考慮した広義の失業率(U-6)5をみると、10月は7.0%(前月:6.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.4%ポイント(前月:3.4%ポイント)と、前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
4 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
5 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年11月05日「経済・金融フラッシュ」)

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