2019年10月31日

リスクパリティ型株式ファンドのダウンサイドリスク評価

水野 友理那

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1――リスクパリティ型株式ファンドの地域ごとに異なるダウンサイドリスク低減効果

リスクパリティ型株式ファンド(以下、リスクパリティ型)とは、ファンドに占める各銘柄の株価変動リスクが均一になるように、配分を決める投資手法である。最もシンプルに考えれば、株価変動リスクが大きい銘柄はウェイトが小さく、株価変動リスクが小さい銘柄はウェイトが大きくなる。リスクパリティ型は、ダウンサイドリスクが低くなることが期待される。S&P社公表データによれば、リーマンショック期におけるパフォーマンス(2008年の年間収益率)は、米国株式の主要なファクターインデックスの中では、リスクパリティ型である低ボラティリティインデックスが最も良かった(図表1)。
図表1:2008年における米国株式主要ファクターインデックスの年間収益率
日米欧の各市場において、金融危機時(ITバブル崩壊の2001年、リーマンショックの2008年)における、リスクパリティ型の対マーケットインデックス超過収益率を算出した(図表2)。日米では、2期間ともに年間超過収益率は有意水準1%でプラスであることを確認した。一方、欧州では、2008年において有意水準10%でマイナスとなった。
図表2:金融危機時における対マーケットインデックス超過収益率(日米欧)

2――リスクパリティ型超過収益の要因分析

2――リスクパリティ型超過収益の要因分析

リスクパリティ型の収益率を、ファーマ・フレンチ3ファクターモデルに基づき3つのファクターに分解した。ファーマ・フレンチ3ファクターモデルとは、主な変動要因を、株式市場全体、企業規模の小ささ、純資産と比べた割安評価の3つと捉え、収益率をマーケット、サイズ、バリューファクターで説明するモデルである。各ファクターは、マーケットインデックスの収益率、小型株インデックス収益率と大型株インデックス収益率との差分、割安株インデックス収益率と割高株インデックス収益率との差分で表した。リスクパリティ型の収益率は、各ファクターの線形和で説明した。各ファクターに対する係数は、2001年1月から2019年9月までの各月データを用いて推定した。

ファクター分解の結果(図表3)から、まず、マーケット係数は、有意水準1%で1より有意に小さいことが確認できた。従って、リスクパリティ型は株式市場全体との連動性が低く、市場の急落時において下落幅は小さくなる。このような効果は一般に、低ベータ効果と呼ばれる。例えば、日本の場合、マーケットインデックスが10%下落すると、計算上、リスクパリティ型の下落幅は8.7%となり、+1.3%の超過収益を得ることが期待できることになる。
図表3:リスクパリティ型のファーマ・フレンチ3ファクター分解の結果(日米欧)
また、サイズおよびバリューの係数は有意に正であり、リスクパリティ型は、小型株、バリュー株に連動する収益特性を示す。ファーマ・フレンチ理論1から、大型株インデックスより小型株インデックスの方が、グロース株インデックスよりバリュー株インデックスの方が、長期的なパフォーマンスが上回るという、小型株効果、バリュー株効果の存在が知られている。つまり、リスクパリティ型の超過収益の源泉は、小型株効果、バリュー株効果でも部分的に説明できる。

さらに、3ファクター調整後の超過収益率(図中、α)は、いずれの市場も有意水準1%でプラスであった。リスクパリティ型は、低ベータ効果、小型株効果、バリュー株効果では説明できない、プラスの超過収益が確認された。
 
1 “Common Risk Factors in the Returns on Stocks and Bonds,”Journal of Financial Economics, 33 (1993), pp. 3-56.
 

3――リスクパリティ型のダウンサイドリスク低減効果の要因分析

3――リスクパリティ型のダウンサイドリスク低減効果の要因分析

次に、上記分析をもとに、直近の金融危機時(2001年、2008年)において相対的に高い収益率を、低ベータ効果、小型株効果、バリュー株効果に分解してみた(図表4)。結果として、多くの場合で、低ベータ効果あるいは小型株効果が有効であった。2008年の欧州での超過収益率がマイナスになった要因は、小型株リターンがマイナスであったことに加え、3ファクター調整後の超過収益率のマイナスが寄与した。2008年における米国も同様に、3ファクター調整後の超過収益率がマイナスとなっている。3ファクター調整後の超過収益率は、リスクパリティ型特有のリスクを取った影響と考えることもできるが、マーケット全体が異常事態で大幅に下落したために、低ベータ効果が過剰に評価された結果、マイナスとなったと捉えることもできる。
図表4:金融危機時における超過収益率のファクター分解(日米欧)
以上のように、リーマンショックの影響を大きく受けた2008年の欧州を除き、リスクパリティ型には、ダウンサイドリスク低減効果が確認され、その効果は、低ベータ効果、小型株効果によってもたらされていた。一方で、長期的には、いずれの市場においても、リスクパリティ型は、低ベータ効果、小型株効果、バリュー株効果に加え、それらの効果では説明できない超過収益がプラスであった。この結果から考察すると、市場環境やダウンサイド要因によるところもあるが、リスクパリティ型は、過去の傾向が今後も続くとすれば、超過収益の獲得が期待できるのではないだろうか。
 
 

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水野 友理那

研究・専門分野

(2019年10月31日「基礎研レター」)

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