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米中摩擦に翻弄される世界経済
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.271]

櫨(はじ) 浩一
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1―翻弄される金融市場
G7サミットでは、各国首脳が米中貿易摩擦の行方に懸念を表明したものの、トランプ大統領の姿勢を変えることはできず、世界があきらめかけていたところに、突然トランプ大統領が「中国は米国との合意を強く望んでいる」と記者会見で発言すると、摩擦緩和の期待から株価は大幅上昇となった。わずか数日間の間にクルクルと変わるトランプ大統領の発言に、金融市場は翻弄されている。
2020年は大統領選挙の年であり景気が悪化すれば再選が非常に難しくなる。トランプ大統領から前向きな発言が出るたびに、世界は今度こそ米中の妥協が成立してしばらくは落ち着くのではないかと予想してきたが、その度に期待は裏切られてきた。
2―先行きの最大の懸念要素
しかし金融緩和で貿易摩擦の影響を相殺することは難しい。金利が低い方が設備投資に有利なことは確かだが、貿易摩擦の悪化で事業環境が悪化すれば、金利負担が軽くなってもプロジェクトの成否自体が危うくなる。今後しばらく米中の貿易摩擦が小康状態を保ったとしても、いつトランプ大統領が問題を再燃させるか分からない。これでは企業が思い切った投資を行うのは難しい。
日本では消費税率の10%への引き上げが景気に与える影響が懸念されているが、米中摩擦の行方の方がはるかに影響は大きいだろう。海外経済は製造業を中心に減速傾向にあって、日本の輸出数量指数は2018年春に米中の貿易摩擦が勃発したころから既に影響が出ていた。この影響で日本の景気にもこのところ停滞感が漂っている。米中摩擦が悪化すれば、世界経済全体に大きな影響が出てしまう。
3―多様な資本主義
経済発展のためには政府の介入が必要だと考えている発展途上国も少なくない。中国だけでなくこうした姿の資本主義の国が今後も経済発展に成功する可能性がある。冷戦終結で「資本主義対社会主義」という経済システムの対立は無くなった。多くの人が、世界が欧米型の資本主義に収れんすることを思い描いたが、今ではそれが期待できないのは明らかだ。
多様な資本主義が共存する可能性が高いことを前提に、異なるシステムの国々が共存・共栄できるルールを考えなければ摩擦はなくならず、相互不信が募れば報復合戦がエスカレートしてしまうだろう。同じ資本主義であっても、それぞれの国によってもともと企業も政府も行うことが許される行為が異なっている。このため、各国政府の貿易政策などに制限を加
えることには限界があり、国際収支の状況などに応じて収支を均衡させるために必要な措置を政府が取れるようにするしかないのではないだろうか。
(2019年10月08日「基礎研マンスリー」)
櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)
櫨(はじ) 浩一のレポート
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