コラム
2018年09月28日

エスカレートする米中貿易戦争~世界経済に漂う暗雲~

客員研究員   櫨(はじ) 浩一

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1――予想を上回る速度

米中間の貿易不均衡を巡る対立は予想をはるかに上回る速度でエスカレートしており、世界経済の先行きには暗雲が漂っている。米中の対立が世界貿易の縮小に繋がれば、世界中の国々が大きな影響を受けることは避けられない。

米国は今年3月下旬に、EUなど一部の除外国を除き、中国だけでなく日本も含めた国々からの鉄鋼とアルミに対する追加関税措置を発動して世界を驚かせた。中国に対してはさらに知的財産権の侵害を理由として500億ドルにのぼる輸入品に対して高関税を課す制裁措置を発表し、4月に入ると中国は鉄鋼輸入制限に対する報復関税を発動して反発を示す。その後米国が中国による知的財産権侵害に対する制裁関税の対象品目の原案を発表すると、中国はこれに対する報復を表明した。しかし5月に入ると米中は貿易協議を開始し、一度は追加関税措置を留保することで合意して貿易戦争のエスカレートは回避されたかに見えた。

しかし、6月半ばになるとトランプ大統領は知的財産権侵害に対する制裁関税を発動すると発表し、事態は急速に深刻化していく。米国は7月には340億ドル分の中国製品に25%の制裁関税を課し、これに対して中国はただちに同規模の米国産大豆や牛肉などに追加関税を課す対抗措置を発動、8月下旬には米中両国が160億ドル相当の輸入品に追加関税を発動した。

9月に入ってからも24日に米国が2000億ドル相当の中国製品に10%の追加関税を課す制裁関税の第三弾を発動すると、中国も600億ドル相当の米国製品に5~10%の報復関税を上乗せする対抗措置を実施して、両国とも一歩も引かない姿勢を示している。

2――米国通商政策の歴史

歴史的に見ると米国の通商政策で関税は、歳入の確保、輸入制限による産業保護、相互主義実現の手段という3つの目的に使われてきた。(注)米国で連邦所得税が導入されたのは1913年のことで、南北戦争ころまでは関税が連邦政府歳入の9割をまかなっていたという。その後関税は輸入品との競争から国内産業を守る手段として使われるようになり、1934年の互恵通商協定法を契機に通商交渉の担い手である政府に通商政策の主導権が移り、米国の関税引き下げと交換に貿易相手国の関税引き下げを求める手段となった。

互恵通商協定法は大恐慌を深刻化させたと批判されることが多いスムート・ホーリー法を修正するもので、第二次世界大戦後は米国が主導して多国間の協調の下で貿易を拡大することによって世界経済を発展させ平和的な国際関係を築こうとした。しかし、2000年代になるころには米国内では失業問題や製造業の雇用の縮小から輸入制限を求める要求が高まっていた(注)。

トランプ大統領が輸入品への高関税の賦課という手段に訴えていることは、世界経済のリーダーとして自国の利益を犠牲にして世界全体のために振舞う余裕を失った米国が、米国の企業の売り上げや雇用の維持という自国の利益のために米国市場へのアクセスを交渉材料に使っていると理解できるだろう。

3――対応を迫られる日本

例えば日本は原油を輸入に依存しているので、どうしても産油国との貿易収支は大幅な赤字になってしまうというように、二国間の貿易で収支が大幅な不均衡になることは避けられないというのは常識だ。しかし世界全体に対して大幅な貿易赤字となっている米国が、手っ取り早く赤字を減らす手段として、二国間で大幅赤字となっている国々との収支を改善しようと考えるのは当然予想される行動だ。
米国の国別貿易収支(2017年) 2017年の米国の国別貿易収支を見ると、対中国の貿易赤字は3752億ドルにのぼり、第二位である対メキシコ貿易の赤字711億ドルの5倍以上の規模と突出している。中国との貿易摩擦が非常に激しいものとなっていることは、これからみれば当然のことだが、対日貿易も対メキシコ貿易とほぼ同額の688億ドルの赤字となっており、日本も赤字の縮小を強く迫られている。

9月末の日米首脳会談では、農産物などの関税を含む二国間の物品貿易協定の交渉に入ることで合意し、ひとまず自動車に対する追加関税は回避できたが、トランプ大統領から眼に見える成果を求められることは必至だ。

日本は、米中間の貿易戦争の間接的な影響を受けるというだけではなく、日本自身も米国の大幅な貿易赤字縮小のターゲットとして、実効性のある対応策を示さなくてはならなくなるだろう。

(注)Douglas A. Irwin, “Clashing over Commerce: A History of US Trade Policy", University of Chicago Press(2017)
 
 

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客員研究員

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野

(2018年09月28日「エコノミストの眼」)

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