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規制改革の大本命、スーパーシティ構想-都市のデジタルトランスフォーメーションにより、日本は成長できるか
基礎研REPORT(冊子版)10月号[vol.271]

清水 仁志
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1―未来社会を実現するスーパーシティ ~現行の特区と何が違うのか
一方で、現行の国家戦略特区(以下、特区)は、地域や分野を限定することで、大胆な規制緩和、制度改革や税制優遇を行う制度だ。地域ごとに抱える個別の課題や、国として推進したい特定の分野に特化した街づくりを進める。
新たな事業を実現するためには、乗り越えなければならない規制が複数存在する。また、それぞれの規制を所管する省庁はばらばらだ。それらの規制に対して、個別に規制所管省と協議し、ひとつずつ事前にどの箇所の規制適用を除外するのかを明確にしなければならない。
スーパーシティ構想は、丸ごと未来都市を作ろうというものである。現行の特区のように特定の事業領域(例えば自動運転)に限らない。AIなどの最先端技術に関連する全ての事業を包括的に推進するもので、その領域は多岐に渡る。これを現行制度の下でやろうとすると、規制特例を設けるだけで相当な時間を要してしまう。今年の通常国会で廃案になった国家戦略特区法改正案は、特区の進化形ともいえるスーパーシティ構想実現に向け、障害となる複数の規制について、一括して迅速に規制緩和をすることが出来るように改めるものである。
2―なぜ、今、スーパーシティ構想を 進めなければならないのか
アベノミクスがスタートして6年余りが過ぎた今も潜在成長率の向上は道半ばだ。その内訳を見ると、全要素生産性(TFP)が大きく低下している。これを女性や高齢者の労働参加を中心とする労働投入が下支えしているものの、これら労働参加にも限りがあることからこの構図は長続きしそうにない。金融・財政政策の余地が限られる中、本命の規制緩和による生産性向上が急務になっている。
世界を見渡せば、既にAIやビッグデータなどの最先端技術を活用した都市プロジェクトが進んでいる。例えば、カナダのトロントでは、グーグルが、あらゆる動きをセンサーで把握し、ビッグデータ解析を進めようとしている。中国の杭州では、アリババが主体となり、道路のライブカメラをAIで分析することにより、警察への自動通報、信号機の切り替え、渋滞要因の分析などを行っている。
日本はそうした世界の先端都市計画から遅れを取っている。都市の競争力が相対的に落ちれば、外国企業の誘致は難しくなり、さらには日本企業の流出にも繋がりかねない。
国家資本主義、開発独裁と言われる中国の領域横断的な未来都市計画、技術革新など、第四次産業革命に向けた世界のスピードについていくためには、現行の特定領域の規制緩和だけでなく、包括的に、かつ迅速に動けるスーパーシティ構想を積極的に進めることが必要不可決だ。
3―今後の課題 ~合意形成と実行
一方で、中国では、個人情報収集が容易、かつ国家主導でとてつもないスピードで物事が決まっていく。
日本を含む民主主義国家が、先端都市計画に向けた合意形成に時間を取られているうちに、第四次産業革命に対応した技術と都市開発は、非民主主義国家の独壇場となる恐れがあるのだ。
秋の臨時国会では、再度スーパーシティ構想実現のための法案(国家戦略特区法改正案)が成立することが期待されている。しかし、それはスタートラインに立つにすぎない。過去、特区構想に対して批判が集まり、逆風が吹いている。具体的な対象エリアの選定もこれからだが、透明な選定プロセスが求められる。
実際に、スーパーシティが実現出来るかどうか、そして日本の成長へと繋げられるかは、国、自治体、住民、企業など、様々なステークホルダーが一丸となり進められるかにかかっている。
(2019年10月08日「基礎研マンスリー」)
清水 仁志
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