2019年09月30日

鉱工業生産19年8月-7-9月期は増税前にもかかわらず減産の見込み。景気動向指数の基調判断は再び「悪化」へ

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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1.8月の生産は事前予想以上の落ち込み

鉱工業生産・出荷・在庫指数の推移 経済産業省が9月30日に公表した鉱工業指数によると、19年8月の鉱工業生産指数は前月比▲1.2%(7月:同1.3%)と2ヵ月ぶりに低下し、事前の市場予想(QUICK集計:前月比▲0.5%、当社予想は同▲0.7%)を下回る結果となった。出荷指数は前月比▲1.4%と2ヵ月ぶりの低下、在庫指数は前月比0.0%の横ばいとなった。

8月の生産を業種別に見ると、在庫調整が進捗している電子部品・デバイスは前月比4.5%と高めの伸びとなったが、自動車、半導体製造装置の輸出が減少していることを背景に、輸送機械(前月比▲2.0%)、生産用機械(同▲2.6%)が落ち込んだ。
財別の出荷動向 財別の出荷動向を見ると、設備投資のうち機械投資の一致指標である資本財出荷指数(除く輸送機械)は19年4-6月期の前期比2.5%の後、7月が前月比0.2%、8月が同2.4%となった。また、建設投資の一致指標である建設財出荷指数は19年4-6月期の前期比0.6%の後、7月が前月比3.2%、8月が同▲2.3%となった。7、8月の平均を4-6月期と比較すると、資本財(除く輸送機械)は▲0.5%、建設財は▲0.2%低い。19年4-6月期のGDP統計の設備投資は前期比0.2%の低い伸びにとどまった。国内需要の底堅さを背景に非製造業は増加を続けているが、輸出の減少に伴う企業収益の悪化を受けて製造業は減少傾向が鮮明となっている。7-9月期の設備投資は一部で駆け込み需要が発生することもあり、前期比プラスとなることを予想しているが、前回増税前(2014年1-3月期:前期比2.4%)の伸びを大きく下回る可能性が高い。設備投資の牽引力は徐々に弱まっている。

消費財出荷指数は19年4-6月期の前期比0.1%の後、7月が前月比1.5%、8月が同▲0.2%となった。消費財出荷指数の7、8月の平均は4-6月期の水準よりも▲1.1%低い。

19年4-6月期のGDP統計の民間消費は前期比0.6%と高めの伸びとなった。消費関連指標を確認すると、7月は長梅雨、低温の影響などから弱いものが多かったが、8月は猛暑効果もあり総じて強めの結果となった。消費増税直前の9月には日用品を中心に駆け込み需要が発生するため、7-9月期の民間消費は前期比プラスを確保することが見込まれる。ただし、軽減税率の導入、キャッシュレス決済に対するポイント還元などによって駆け込み需要の規模が抑えられることに加え、駆け込み需要を除いた消費の基調が弱いことから、前回増税前(14年1-3月期:前期比2.0%)を大きく下回る伸びにとどまるだろう。

2.7-9月期は消費増税前でも減産へ

製造工業生産予測指数は、19年9月が前月比1.9%、10月が同▲0.5%となった。生産計画の修正状況を示す実現率(8月)、予測修正率(9月)はそれぞれ▲3.3%、0.1%であった。

19年8月の生産指数を9月の予測指数で先延ばしすると、19年7-9月期は前期比▲0.4%となる。実際の生産が計画を下回る傾向が続いていることを踏まえれば、7-9月期の生産は前期比でマイナスとなる可能性が高くなった。消費税率引き上げ直前の9月には一定の駆け込み需要が発生することが見込まれるが、過去の増税前とは異なり在庫水準が高いため、大幅な増産がなくても対応可能だろう。

なお、足もとの生産が消費増税前にもかかわらず低調に推移しているのは、駆け込み需要が小さいことに加え、もともとの生産の基調が弱いためである。消費増税後は税率引き上げに伴う実質所得の低下によって個人消費が一定程度落ち込むことは避けられず、生産の基調はさらに弱まる可能性が高い。駆け込み需要の反動減は小さくなるため、前回の増税後のような大幅減産(14年4-6月期の前期比▲2.9%)は避けられるが、生産は消費増税後も低迷が続くことが予想される。
消費増税前後の鉱工業生産/消費増税前後の在庫指数の動き

3.景気動向指数の基調判断は再び「悪化」へ

内閣府の「景気動向指数」では、CI一致指数の基調判断が19年5月に「悪化」から「下げ止まり」に上方修正され、7月まで同じ判断で据え置かれている。

本日までに一致指数を構成する9系列のうち6系列の8月分が公表された。このうち、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数(除く輸送機械)、商業販売額(小売業)の3系列が前月から改善、生産指数、鉱工業用生産財出荷指数、商業販売額(卸売業)の3系列が前月から悪化した。有効求人倍率の公表は10/1だが、8月のCI一致指数は前月差マイナスとなることが予想される(8月の有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント低下の1.58倍を想定)。この結果、(1)3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が下降、(2)当月の前月差の符号がマイナス、という条件を満たすことになるため、景気動向指数の基調判断は再び「悪化」へと下方修正されることが予想される。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年09月30日「経済・金融フラッシュ」)

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