2019年09月24日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(3)-BaFinの2018年Annual Reportより(資本規制への対応・生命保険改革法の評価等)-

文字サイズ

1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2018年のAnnual Reportの「統合監督(Integrated supervision)」の章に記載されている項目の中から、「1.英国のEU離脱(Brexit)」、「6.デジタル化(Digitalisation)」、「8.国際監督(International supervision)」、「9.リスクモデリング(Risk modelling)」及び「10.持続可能性(Sustainability)」、「11.財務会計及び報告(Financial accounting and Reporting)」の6つの項目のうちの生命保険監督が関係してくる記述内容について報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「保険会社及び年金基金の監督」の章のうちの「1.監督の基盤(Bases of supervision)」の中から、保険会社の資本規制等の財務監督に関係する項目を中心に報告する。
 

2―国際的な資本規制の構築等への対応

2―国際的な資本規制の構築等への対応

1|ICS(保険資本基準)について
保険監督者国際機構(IAIS)は、現在、グローバルな保険資本基準(ICS)の開発を進めているが、2018年に試用と最終化を目的とした最後から2番目の主要なフィールドテストを実施した。ICSは、5年間の監視期間という状況下で、2020年から実施されることが意図されている。

ICSの進捗状況に関して、BaFinは、「5年以上の後、ICSプロジェクトは現在、ICS 2.0に向けて最終段階に入ってきている。プロジェクトは基本的に順調に進んでいる。」と評価している。これは、「2017年夏に採用されたICS 1.0と比較して想定される変更が、緩やかなさらなる進展としてよりよく理解できるという事実によって示されている。」と述べている。

また、今回の修正については、本質的に、(1)負債の割引、(2)ICSに設定された目標を達成する「他の方法」の1つとしての内部モデルのテスト、(3)スプレッドリスクの要素に対する新しいリスクモジュールの導入、で構成されるが、「これらの進展の前向きな側面は、BaFinもまた前進するために積極的な役割を果たしてきたものであり、特にそれらが明確な欧州のプロファイルを含んでいる。」と評価している。これらの根拠は、「2017年からのクアラルンプール協定として知られる歩み寄りであり、これは市場調整評価にコミットし、ドイツの観点からの前向きな進展である。」としている。なお、ICSでの内部モデルの長期間使用のレビューも、クアラルンプール協定の一部を形成しており、「BaFinは、内部モデルをICSに統合することに引き続き関心を寄せており、レビューをサポートしている。」と述べている。

なお、IAISはICS 2.0への道のりに関する最終的な包括的な協議文書を公開しているが、この中で、まだ最終的に結論付けられていない問題についてのフィードバックを求めている。その中では、BaFinは、「イールドカーブの計算とリスクマージンの決定は、どちらも収益に大きな影響を及ぼし、特に注目に値する」と述べている。

また、BaFinは、ICS 2.0の採用後の2020年からスタートする監視期間中に、ドイツの国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の円滑な運営を支援していく、と述べている。

1.1グローバルな規制の枠組み
1.1.1グローバル資本基準
2018年に、保険監督者国際機構(IAIS)は、グローバルな保険資本基準(ICS)の試用と最終化を目的とした最後から2番目の主要なフィールドテストを実施した。5年以上の後、ICSプロジェクトは現在、ICS 2.0に向けて最終段階に入ってきている。この基準は、5年間の監視期間という状況下で、2020年から実施されることを意図している。プロジェクトは基本的に順調に進んでいる。これは、2017年夏に採用されたICS 1.0と比較して想定される変更が、緩やかなさらなる進展としてよりよく理解できるという事実によっても示されている。

これらの修正は、本質的に、負債の割引、ICSの目標セットを達成する「他の方法」の1つとしての内部モデルのテスト、及びスプレッドリスクの要素に対する新しいリスクモジュールの導入で構成される。これらの開発の前向きな側面は、BaFinもまた前進するために積極的な役割を果たしてきたものであり、特にそれらが明確な欧州のプロファイルを含んでいる。その根拠は、2017年からのクアラルンプール協定として知られる歩み寄りであり、これは市場調整評価にコミットし、ドイツの観点からの前向きな進展である。ICSでの内部モデルの長期間使用のレビューも、クアラルンプール協定の一部を形成している。BaFinは、内部モデルをICSに統合することに引き続き関心を寄せており、レビューをサポートしている。

最後から2番目のフィールドテストと並行して、IAISはICS 2.0への道のりに関する最終的な包括的な協議文書を公開した。この文書では、IAISはまず、将来の最小基準の主要な要素について説明している。同時に、まだ最終的に結論付けられていない問題についてのフィードバックを求めている。 イールドカーブの計算とリスクマージンの決定は、どちらも収益に大きな影響を及ぼし、ここでは特に注目に値する。

ICS 2.0の最終決定に加えて、IAISは2019年の監視期間の準備にも集中する。これは、ICS 2.0の採用後の2020年の開始時にスタートする。BaFinは、ドイツの国際的に活動する保険グループ(IAIGs)の監視期間の円滑な運営を支援している。

2|G-SIIs(グローバルにシステム上重要な保険会社)の特定とABA(活動に基づくアプローチ)
IAISは、グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)のために、活動ベースのアプローチ(ABA)とG-SIIアプローチとしても知られるエンティティベースのアプローチ(EBA)について議論してきたが、これらの議論に基づいて、2つのアプローチを相互に結合することを目的としたホーリスティック(全体的)なフレームワークを開発した。

IAISは最終的に、2018年11月中旬に新しいコンサルテーションペーパーで改訂及び更新された概念を一般に公開した。提案は基本的に、以前からよく知られている情報源と、システミックリスクの伝達経路に基づいている。同時に、IAISは、各国の監督者と一緒に、グローバルな監視演習の形式で、主要な保険市場の出来事を監視する。

これまで、システミックリスクのIAISツールボックスには、G-SII政策措置が含まれていた。ホーリスティックなフレームワークにおいて、IAISは現在、国際的に活動する大規模な保険グループの保険コアプリンシプル(ICPS)と共通フレームワーク(ComFrame)で構成される既存のツールボックスに追加することを提案している。これにより、既存の強力なミクロプルーデンスの焦点が、マクロプルーデンスの視点によって補完され、その結果、潜在的なシステミックリスクに対処するために必要な会社グループが大幅に増加することになる。このため、比例原則を適切に処理することが特に重要になってくる。

IAISは、2020年から新しいフレームワークを適用し、その後、2022年末までに様々な要素がどのように実装されたかを検討する予定である。BaFinは、必要な監督ツールがそれぞれの監督体制にしっかりと固定され、また一貫したベースでグローバルに適用されることを確実にすることに特に熱心である。BaFinの見解では、フレームワークは全国ベースで完全に実装されなければならない。そうでなければ、金融安定理事会(FSB)によるG-SIIの指定-それはホーリスティックなフレームワークの最終的な形態によっては一時的に停止される可能性がある-なしで行うことはできない、と述べている。

1.1.2.G-SIIsの特定とABA
2017年末に、IAISは、協議のための活動ベースのアプローチ(ABA)の初期フレームワークコンセプトを配布した。さらなる作業の過程で、IAISは、グローバルにシステム上重要な保険会社(G-SIIs)のために、ABAとG-SIIアプローチとしても知られるエンティティベースのアプローチ(EBA)との相互作用について議論した。これらの議論に基づいて、IAISは2つのアプローチを相互に結合することを目的としたホーリスティックなフレームワークを開発した。 BaFinは2015年に既にこのようなアプローチに向けて積極的に取り組んでいたが、その時点ではまだハイブリッドアプローチとして分類していた。

IAISは最終的に、11月中旬に新しいコンサルテーションペーパーで改訂及び更新された概念を一般に公開した。提案は基本的に、以前からよく知られている情報源と、システミックリスクの伝達経路に基づいている。その程度まで、それは革新の問題ではなく、進化の問題である。ただし、個々の会社の検討は、現在、いくつかの側面の1つにすぎない。同時に、IAISは、各国の監督者と一緒に、グローバルな監視演習の形式で、主要な保険市場の出来事を監視するつもりである。分析の過程で観察された傾向は、必要に応じて適切な監督上の対応を生み出すことを目的とする議論の基礎を形成している。これらの議論では、個々の保険グループのシステミックリスクが引き続き重要なトピックである。したがって、IAISは既存の評価方法のさらなる改善を提案している。

これまで、システミックリスクのIAISツールボックスには、G-SII政策措置が含まれていた。ホーリスティックなフレームワークの場合、IAISは現在、国際的に活動する大規模な保険グループの保険コアプリンシプル(ICPS)と共通フレームワーク(ComFrame)で構成される既存のツールボックスに追加することを提案している。これにより、既存の強力なミクロプルーデンスの焦点が、マクロプルーデンスの視点によって補完される。その結果、潜在的なシステミックリスクに対処するために必要な会社グループが大幅に増加することになる。このため、比例の原則を適切に処理することが特に重要である。

IAISは、2020年から新しいフレームワークを適用することを計画している。そして、その後、2022年末までに様々な要素がどのように実装されたかを検討する予定である。そのため、BaFinは、必要な監督ツールがそれぞれの監督体制にしっかりと固定され、また一貫したベースでグローバルに適用されることを確実にすることに特に熱心である。BaFinの見解では、フレームワークは全国ベースで完全に実装されなければならない。そうでなければ、金融安定理事会(FSB)によるG-SIIの指定-それはホーリスティックなフレームワークの最終的な形態によっては一時的に停止される可能性がある-なしで行うことはできない。

 

3―ソルベンシーIIを巡る動きへの対応

3―ソルベンシーIIを巡る動きへの対応

ソルベンシーIIを巡る動きへの対応は、以下の通りであり、このうちのソルベンシーIIのレビューについては、2段階で行われることになっている。

1|ソルベンシーIIのレビュー
2018年11月13日、ボンで開催された第8回保険監督年次会議のオープニングスピーチで、CEDであるFrank Grund博士は、BaFinが今後のソルベンシーIIレビューで積極的な役割を果たすことを確認し、「私にとって、ソルベンシーIIをけなさないことが重要である。監督制度はその価値を根本的に証明している。しかし、もちろんそれはさらに良くすることができる。」とコメントしている。

1-1.標準式のレビュー
標準式のレビューについては、欧州委員会は、委任規則の改訂版を提出した。改訂版は、殆どの部分で、欧州保険年金監督局(EIOPA)による技術勧告に基づいていた。

ただし、欧州委員会は、金利リスクに関するEIOPAの勧告を採用せず、代わりに、金利リスクのレビューを2020年のレビューに延期した。これに対して、BaFinは、金利リスクを更新することが緊急に必要であると考え続けているため、EIOPAの提案を支持している、と述べている。

委任規則の改訂版は、特に損害保険引受リスクを決定する目的で、様々なリスクファクターの再調整を規定しており、またカウンターパーティのデフォルトリスクなど、個々のリスクモジュールの簡素化も含まれているが、BaFinはこれらの簡素化を歓迎している。さらに、この改訂により、特定の条件を前提として、将来、低リスクの格付けのないローン/債券及び低リスクの非上場株式に対して、より低いリスクファクターを使用することが可能になり、また、繰延税金の損失吸収効果を計算するためのガイドラインが拡張された。

1-2.2020年のレビュー
2020年のレビューにおいては、欧州委員会は、ソルベンシーIIフレームワーク指令の選択された規定をレビューする。変更に関する勧告は、2020年に理事会と欧州議会に提出する必要がある。欧州委員会は、EIOPAに対して、2018年4月に最初の情報要求を送信し、2019年2月に、広範囲にわたる勧告要請も行った。EIOPAは、2020年6月30日までに欧州委員会に助言を求めるための回答を送信する必要がある。

長期保証(LTG)措置のレビューは、レビューの中心的な役割を果たしており、これは人為的ボラティリティの削減に特に重点が置かれているが、これに加えて、2020年のレビューは、標準式、リスク軽減手法及び最小資本要件(MCR)の要素を対象としている。欧州委員会はまた、マクロプルーデンス文書、リストラ及び破綻処理計画、グループ監督、自己資本、報告制度、比例関係などのトピックに関する特定の質問に対するEIOPAからの回答を求めている。

BaFinは、定性的及び定量的な報告義務に関しても、比例原則の包括的な改善を主張しており、さらに関連するリスクをより正確に反映する方法で商品に長期保証を提供するために、フレームワークをさらに開発することを目指している、と述べている。
2|比例原則
比例原則は、特に原則ベースの監督アプローチへの移行の結果として、中心的な重要性を有しており、監督法の要件の実施が柔軟であり、各保険会社のリスク状況に対応することを保証する。保険会社と監督当局の両方が利用しなければならない要件の適用方法を決定する際に、裁量の範囲がさらに広がる。これは特に新しい監督制度の初期段階において、実際には異なるアプローチにつながる可能性があるため、監督者と会社は、相互に広範な対話を行わなければならない、と述べている。

ソルベンシーIIは、特に中小規模の保険会社にとって課題であり、リスクの程度に見合った適切なレベルまで負担を軽減するために、効果的に比例原則を適用することが特に重要である、としている。

BaFinの意見では、比例原則はこれまでのところその価値を証明している。2020年のソルベンシーIIレビューの過程で、BaFinは、国家レベルでの比例原則の適用で特定した問題に対処し、また、裁量の範囲を拡大することを提唱し、比例原則により、特にニッチ保険会社を含む低リスクの保険会社の負担が適切に軽減されるようにする、としている。

BaFinの目的は、とりわけ、一般的な報告の文脈において比例原則を強化することであり、これは、例えば、ナラティブレポートの新しいデザインやレポートフォームの数を減らすことで実現できる、としている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ドイツの生命保険監督を巡る動向(3)-BaFinの2018年Annual Reportより(資本規制への対応・生命保険改革法の評価等)-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ドイツの生命保険監督を巡る動向(3)-BaFinの2018年Annual Reportより(資本規制への対応・生命保険改革法の評価等)-のレポート Topへ