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退職給付会計における割引率の動向

金融研究部 企業年金調査室長 年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・サステナビリティ投資推進室兼任 梅内 俊樹
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この退職給付債務は、将来支払われる退職給付見込み額のうち、決算期末までに発生していると認められる額の現在価値として計算されるが、現在価値に換算する際に適用される割引率は、日銀がマイナス金利政策を導入した2015年度に大きく低下した後も、緩やかな低下が続いている。

割引率が低下すれば、退職給付債務は増加し、その増分だけ、退職給付に関わる費用や負債は押し上げられる。財務諸表上の収益や純資産にマイナスの影響を及ぼすことを通じて、給付建て退職給付を導入する企業の財務的負担を高めることになる。このように、退職給付会計においては、割引率の低下は望ましくない。
ところが足元、10年国債利回りはマイナス幅を更に拡大する展開となっている。米中対立が長期化の様相を呈し、世界経済の減速への警戒感が強まっているためだ。米国では7月に実施された10年半ぶりの利下げに続き、9月の利下げも市場に織り込まれ、ユーロ圏でも欧州中央銀行が利下げに追い込まれるとの観測が高まる。こうしたなか、国債利回りの低下が世界的に加速している。
現在は、割引率決定の基礎となる国債等の利回りがマイナスとなる場合は、マイナスの利回りをそのまま利用する方法のほか、利回りの下限としてゼロを利用する方法も認められる。このため、国債のマイナス利回りが一段と深化したとしても、際限なく割引率の引き下げを迫られる訳ではなく、上場企業全体で見れば、退職給付会計を通じた企業財務への影響を過度に心配する必要はないだろう。
ただ、過去最低水準まで低下する10年国債利回りがその水準以下で推移すれば、更に多くの企業が割引率の引き下げを迫られる可能性は否定できない。世界経済のリセッションが意識され、運用環境に変調の兆しが見られるなか、給付建て退職給付制度を導入する企業にとって、運営コストが意識されやすい状況がしばらく続きそうだ。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2019年08月30日「研究員の眼」)

03-3512-1849
- 【職歴】
1988年 日本生命保険相互会社入社
1995年 ニッセイアセットマネジメント(旧ニッセイ投信)出向
2005年 一橋大学国際企業戦略研究科修了
2009年 ニッセイ基礎研究所
2011年 年金総合リサーチセンター 兼務
2013年7月より現職
2018年 ジェロントロジー推進室 兼務
2021年 ESG推進室 兼務
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