2019年08月09日

貸出・マネタリー統計(19年7月)~地銀貸出の伸び率が7年ぶりの低水準に

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向: 地銀貸出の伸び率が7年ぶりの低水準に

(貸出残高)
8月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、7月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.46%と前月(同2.40%)からやや上昇した(図表1)。

業態別では、都銀等の伸び率が前年比2.54%(前月は2.26%)と上昇し、全体の伸び率押し上げに寄与した(図表2)。M&Aに絡む資金需要などが影響した模様だ。

一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.39%(前月は2.52%)と前月から低下した。低下は5ヵ月連続となり、伸び率は2012年7月以来7年ぶりの低水準を記録している(図表2)。過熱が問題視されたアパートローンに加え、中小企業向けや地公体向け貸出の低迷が、主な担い手となってきた地銀の貸出鈍化に繋がっている可能性が高い(図表3)。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3)貸出先別貸出金/(図表4)貸出の伸びに占める主な業種の寄与度
また、6月末時点の貸出伸び率(前年比)について、業種別の貸出寄与度を確認すると(図表4)、金融・保険(3月末0.19%→6月末▲0.25%)、電気機械(3月末0.29%→6月末0.13%)、運輸・郵便(3月末0.13%→6月末0.00%)、化学(3月末0.27%→6月末0.16%)などで寄与度の低下が目立つ。かつて牽引役であった不動産業(3月末0.63%→6月末0.59%)の寄与度も3月末から若干低下しており、貸出を牽引する業種が見当たらない状況にある。
(主要銀行貸出動向アンケート調査)
日銀が7月18日に発表した主要銀行貸出動向アンケート調査によれば、2019年4-6月期の(銀行から見た)企業の資金需要増減を示す企業向け資金需要判断D.I.は▲2と前回(2019年1-3月期)の3から低下した。低下は2四半期連続となる。また、同D.I.がマイナス圏(すなわち、「減少」との回答が優勢)に落ち込んだのは、2013年4-6月期以来6年ぶりのこととなる(図表5)。

企業規模別では、大企業向けが▲5(前回は▲2)とマイナス幅を拡大したほか、これまで比較的高い水準を維持していた中小企業向けも▲1(前回は5)と低下した(図表6)。業種別では、建設・不動産業に加えて製造業の低下が顕著であり、米中通商摩擦が資金需要に影響を及ぼした可能性がある。需要が「(やや)減少」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「設備投資の減少」を挙げた先が最も多かった。

また、個人向け資金需要判断D.I.も▲1と、前回の3から低下し、マイナスに転じた(図表5)。低下は4四半期ぶりとなる。主力の住宅ローンが▲1(前回は5)とマイナスに転じたことが響いた。住宅ローン需要が「(やや)減少」とした先にその要因を尋ねた問いでは、「住宅投資の減少」を挙げた先が最も多かった。
 
今後3ヵ月の資金需要については、企業向けD.I.が0、個人向けが2となった。企業向け・個人向けともに、資金需要の大幅な持ち直しは見込まれていない(図表5)。
(図表5)資金需要判断DI/(図表6)資金需要判断DI (大・中小企業)
(図表7)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
6月の新規貸出平均金利は、短期貸出(一年未満)が0.694%(前月は0.506%)、長期貸出(1年以上)が0.791%(前月は0.641%)とともに前月から0.1%以上上昇した。ただし、理由は不明だが、貸出金利は例年6月に上昇する傾向が強く、今回もそうした季節的な変動要因が影響している可能性が高い。

世界経済の下振れリスクや各国中銀による金融緩和へのシフトによって、国債利回り等の市場金利が低下基調を続けているだけに、貸出金利への低下圧力は続いていると考えられる。

2.マネタリーベース:増勢が鈍化、日銀の長期国債保有残高は前年比25兆円増に縮小

8月2日に発表された7月のマネタリーベースによると、日銀による通貨供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は3.7%と、前月(同4.0%)を下回った(図表8)。伸び率の低下は3ヵ月ぶりとなる。

内訳では、残高の約8割を占める日銀当座預金の伸び率が前年比3.9%と前月(4.2%)から低下した(図表9)。日銀の国債買入れ(資金供給策)の増勢が鈍化したため、その裏側にある日銀当座預金にも影響が及んでいる。

また、日銀券(紙幣)発行高の伸びも前年比2.8%(前月は同3.1%)と3ヵ月連続で低下。伸び率の水準は、2012年11月以来の低水準にあたる。タンス預金の増勢一服、キャッシュレス化の進展、経済活動の停滞などの影響が考えられる。一方で、貨幣流通高の伸びは前月同様、前年比2.3%と4ヵ月連続で2%台の伸びを維持している。五百円玉貯金の増加などが影響している可能性がある。
 
7月末のマネタリーベース残高は518兆円で前月末比5.1兆円の減少となった。季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても前月比0.4兆円減少している(図表10)。同系列で見ると、今年に入ってからの増加額が月平均で1.2兆円(昨年は2.0兆円)に縮小しており、日銀による国債買入れ減額の影響が現れている。7月末時点で、日銀の長期国債保有残高の増加ペースは前年比25兆円増(めどは80兆円増)にまで鈍化している(図表11)。
(図表8) マネタリーベース伸び率(平残)/(図表9) 日銀当座預金残高(平残)と伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移/(図表11)日銀国債保有残高の前年比増減

3.マネーストック:投資信託に底打ち感

8月9日に発表された6月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨総量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.40%(前月は2.32%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同2.05%(前月は1.99%)とともに2ヵ月ぶりに上昇した(図表12)。

M3の内訳では、普通預金等の預金通貨(前月5.5%→当月5.3%)と現金通貨(前月2.6%→当月2.4%)の伸びが低下。伸び率は前者で2016年3月以来、後者で2012年5月以来の低水準に落ち込んでいる(図表13)。CD(譲渡性預金:前月▲0.9%→当月▲1.9%)のマイナス幅も拡大した。一方で、定期預金など準通貨(前月▲2.2%→当月▲1.7%)がマイナス幅を縮小させたことが、全体の伸び率上昇に寄与した。
(図表12) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表13) 現金・預金の伸び率
(図表14)投資信託・金銭の信託・準通貨の伸び率 なお、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比1.88%と前月(1.72%)から上昇した(図表12)。

内訳では、既述の通り、M3の伸び率が上昇したほか、投資信託(元本ベース・前月▲3.4%→当月▲1.4%)のマイナス幅が縮小、国債(前月3.7%→当月3.9%)の伸び率が上昇したことが寄与した(図表14)。一方、残高が大きい金銭の信託(前月2.5%→当月2.4%)の伸び率は若干低下している。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2019年08月09日「経済・金融フラッシュ」)

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