2019年07月16日

ミャンマーの保険事情

小林 直人

文字サイズ

1――はじめに

ミャンマーの保険市場動向について、「CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向」1において、外資企業として初めて、ティラワ経済区で日系メガ損保3 社の営業免許が付与されたこと、外資系企業はPrudential(英国)、Manulife(カナダ)、Great Eastern(シンガポール・マレーシア)、AIA(香港)、太陽生命(日本)等20 社以上が駐在事務所を置いていることなどを紹介している。ここでは、その後の状況について紹介したい2
 
1 平賀富一「CLM諸国の政治経済の概況と保険市場動向」ニッセイ基礎研究所保険・年金フォーカス4頁(2016年11月15日)(https://www.nli-research.co.jp/files/topics/54350_ext_18_0.pdf?site=nli, 2019年7月3日最終閲覧)。
2 ミャンマーの保険事情については、独立行政法人国際協力機構(JICA)・SOMPOリスクマネジメント株式会社「ミャンマー連邦共和国民間保険分野に係る情報収集・確認調査ファイナル・レポート」2017年6月 (http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12289948.pdf, 2019年7月2日最終閲覧) (以下「ファイナル・レポート」)に詳しく紹介されている。
 

2――駐在事務所

2――駐在事務所

ミャンマーの計画・財務省(Ministry of Finance & Planning)は、外国保険会社の駐在事務所として33社を公表している3。33社の内訳は、生命保険会社(Life Insurance)が12社、損害保険会社(General Insurance)が7社のほか、兼営会社(Composite Insurance)が2社4、ブローカー(Broker/Reinsurance Broker)/再保険会社(Reinsurer)が11社、鑑定人・鑑定人(Adjusters & Surveyors)が1社である。そのうち、日本からは、生命保険会社はTaiyo Life Insurance Company. およびDai-Ichi Life Holdings, Inc. の2社5、損害保険会社はMitsui Sumitomo Insurance Co., Ltd. 、Sompo Japan Nipponkoa Insurance Inc. およびTokio Marine & Nichido Fire Insurance Co., Ltd. の3社、合計5社である。
 
3 ミャンマー計画・財務省(Ministry of Finance & Planning)Foreign Insurance Representative Office in Myanmar“Insurance Representative Office List”(https://www.mopf.gov.mm/en/node/6317, 2019年7月9最終閲覧)。
なお、「ファイナル・レポート」・前掲注2)31頁によれば、2017 2017 年 5 月時点では、登録予定である1社の外資駐在員事務所も含めて25社の外資駐在員事務所が同国内に登録されると計画・財務省は認識している、としている。
4 ミャンマー計画・財務省“Insurance Representative Office List”・ 前掲注3)では 4頁、No16 において“DB Insurance Co., Ltd. (Korea)(General Insurance)”と記されている会社について、8頁では損害保険社(General Insurance)ではなく、“Composite Insurance”に分類され、損害保険社(General Insurance)は7社とされているようであるが、誤りであろうか。
5 ミャンマー計画・財務省“Insurance Representative Office List”・ 前掲注3)6頁記載のNo29“Nippon Life Asia Pacific (Regional HQ) Pte. Ltd.(Singapore) (Life Insurance)”はSingaporeとして分類されている。
 

3――初の学資保険導入

3――初の学資保険導入

国営のミャンマー保険と現地の民間保険会社11社が、ミャンマー初の学資保険(education life insurance)の取り扱いを開始したと報じられている6

報道内容の概要は以下のとおりである。

2019年4月9日に導入された学資保険は、現地保険会社と日本の国際協力機構(Japan International Cooperation Agency)との共同の取り組みによるものであり、子供の将来の教育のための貯蓄文化の涵養に資するべく、親または保護者の死亡または傷害時に保障の提供する商品である。

2018年の養老保険(endowment life insurance)の発売に加え、学資保険((life)education insurance policy)が最近追加されたことで、ミャンマーには2種類の貯蓄保険(saving insurance)がある。

学資保険は、被保険者の年齢は 18 歳から 56 歳までであること、保険期間は、9年、11年、または14年であること、保障額(insured amounts)は MMK5m ($3300) から MMK100mであるとされている。

ミャンマー保険協会(Myanmar Insurance Association)は教育省(Education Ministry)とともに、学資保険の普及に向けた啓蒙活動を推進していくという。

ここで、Capital Life Insurance Limitedの学資保険(EDUCATION LIFE INSURANCE)の概要が同社のホームページで公開されているので紹介する7

同社の学資保険は報道内容にもあるとおり、貯蓄保険であり、被保険者の年齢範囲は18歳から56歳までで、保険期間は、9年、11年、または14年である。保険料支払期間は、それぞれの保険期間に応じて5年、7年、10年となっている。なお、56歳で加入する場合の保険期間は9年とされている。

加入に際しては、健康診断(medical check-up)を受けなければならない。

保険料は、被保険者の年齢、期間に基づいて計算される。

保険料の支払いは、1か月ごと、3か月ごと、6か月ごと、または12か月ごとに分割して支払うことができる。月払の保険料の猶予期間(grace period)は15日、それ以外の払込方法の猶予期間は30日である。

この学資保険には、基本給付型(basic benefit plan)と2重給付型(double benefit plan)の2種類が用意されている。

基本給付型には、保険料払込免除給付(premium waiver benefit)と教育給付(education benefit)が組み込まれており、2重給付型には、それらに加えて死亡給付(death benefit)と全面的永久的就業不能給付(total permanent disability benefit)が組み込まれている(下表)。

2重給付型に組み込まれている死亡給付は、保険期間中に被保険者が死亡した場合に受取人に死亡給付金が支払われ、全面的永久的就業不能給付は、被保険者が保険の有効中に、突然の怪我や病気により永久的就業不能のために収入を得るための業務を続けることができない場合に、保険料が一括払で支払われる。

基本給付型と2重給付型に組み込まれている教育給付は、保険料支払期間満了後、1年が経過するごとに、保険料の20%が給付金として支払われ、保険期間満了時に支払われる合計額は、支払われる保険料総額と同じになる。

保険料払込免除給付は、保険契約が有効中に被保険者が死亡した場合、または永久的就業不能(permanently disable)になった場合に、保険事故後の保険料支払に指定された日から保険料支払期間が終了する日までの間に支払われるべき保険料が免除され、保険契約が有効に継続し、保険契約の満期時に保険給付を受けることができる。
学資保険の種類と保障(給付)内容
これらの給付に加え、払済保険(paid-up policy)や契約者貸付(policy Loan)の制度も用意されている。契約者貸付では、解約払戻金(surrender value)の90%が借り入れの限度額である。

また、保険給付は非課税である。

免責事由(exclusions)は以下の事由である。

死亡給付については、次の理由で被保険者が死亡した場合は、死亡給付を受けられず、解約払戻金(surrender)のみとなる。
a.保険の効力発生日から1年以内の自殺
b.保険加入時に被保険者が告知(disclose)しなかった病気による、保険が有効になった日から1年以内の死亡

また、被保険者が次の原因により永久的就業不能になった場合、全面的永久的就業不能給付(permanent total disability benefit)を受給する権利はなく、解約払戻金(surrender)のみとなる。
a.計画的自己侵害(premeditated self-infliction)による永久的就業不能
b.自殺未遂(failed suicide)を原因とする永久的就業不能
c.麻薬(narcotic drugs)使用を原因とする永久的就業不能
d.危険薬物(dangerous drugs)の使用を原因とする永久的就業不能
e.被保険者の犯罪行為(commission of crime)を原因とする永久的就業不能
f. 保険加入時に被保険者が告知(disclose)しなかった病気を原因とする、保険が有効になった日から1年以内の永久的就業不能
 
6 Thiha Ko Ko,“Education life insurance launches in Myanmar” MYANMAR TIMES,2019年4月10日(https://www.mmtimes.com/news/education-life-insurance-launches-myanmar.html, 最終閲覧2019年7月10日)、“Myanmar:1st education-related life policy launched” ASIA INSURANCE REVIEW,2019年4月15日(https://www.asiainsurancereview.com/News/View-NewsLetter-Article/id/46400/Type/eDaily/Myanmar-1st-education-related-life-policy-launched/1/sid, 2019年7月9日最終閲覧)。
7 Capital Life Insurance Limited“Education Life Insurance”(https://capitallife-insurance.com/index.php/en/product-services/education-life-insurance, 最終閲覧2019年7月11日)
 

4――外資系保険会社の参入(認可)状況

4――外資系保険会社の参入(認可)状況

1|100%子会社を通じた参入
2019年4月5日にミャンマーの計画・財務省(Ministry of Finance & Planning)は、100%子会社を通じた生命保険事業に向けて事前認可(pre-licencing)を与えた外資系生保会社のリストを公表した8。公表された外資系生保は次の5社である。

AIAカンパニーリミテッド(AIA Company Limited)
チャブテンペスト再保険カンパニーリミテッド(Chubb Tempest Reinsurance Company, Limited)
第一生命保険株式会社(Dai-ich Life Insurance Company, Limited9
マニュライフ(Manufacturers Life Insurance Company)
プルデンシャル香港リミテッド(Prudential Hong Kong Limited)

これらの5社は、計画・財務省が規定するすべての事前認可(pre-licensing)条件に従って、100%完全子会社の事業開始日から生命保険事業の機能的な運営を確保するために必要なすべての措置を講じる必要があり、事前認可条件が満たされると、計画・財務省は外資系生命保険免許を付与する、とされている。

これらの5社に関する計画・財務省の公表は、以前には最大3社の外国企業のみが保険市場に参入できると述べていたので、驚きをもって報じられた10

なお、2019年4月5日に発表された100%子会社を通じた生命保険事業参入の認可に係わる公表は、2019年3月29日になされる予定であったが、選考手続きが継続中のため4月5日に公表を延期すると計画・財務省は3月29日に発表していた11
 
8 ミャンマー計画・財務省“ANNOUNCEMENT OF PREFERRED APPLICANTS FOREIGN LIFE INSURANCE BUSINESS IN MYANMAR TO BE OPERATED BY A FOREIGN INSURER THROUGH A 100% WHOLLY-OWNED SUBSIDIARY”2019年4月5日 (https://www.mopf.gov.mm/sites/default/files/upload_pdf/2019/04/Announcement%20(Eng).pdf, 2019年7月9最終閲覧)。
9 第一生命株式会社は、ミャンマー準備会社設立および本認可(Full License)取得を前提に事業開始に向けた必要な手続きを行う予定であるとしている(第一生命保険「ミャンマーにおける生命保険事業仮認可(In-Principle Approval)の取得ならびに準備会社設立に伴う2019 年4月5日付組織改編および人事異動」2019年4月5日 (https://www.dai-ichi-life.co.jp/company/news/pdf/2019_003.pdf, 2019年7月16日最終閲覧))。
10 NIKKEI ASIAN REVIEW“Myanmar opens insurance market to Prudential, Dai-ichi and others”2019年4月6日(https://asia.nikkei.com/Economy/Myanmar-opens-insurance-market-to-Prudential-Dai-ichi-and-others, 2019年7月14日最終閲覧)
11 ミャンマー計画・財務省 “RESCHEDULING OF FORMAL ANNOUNCEMENT OF PREFERRED APPLICANTS FOR THE REQUEST FOR PROPOSAL TO APPLY FOR A LICENCE FOR LIFE INSURANCE BUSINESS IN MYANMAR TO BE OPERATED BY A FOREIGN INSURER THROUGH A 100% WHOLLY-OWNED SUBSIDIARY” 2019年3月29日(https://www.mopf.gov.mm/sites/default/files/upload_pdf/2019/03/Announcement%20(ENG).pdf, 2019年7月9最終閲覧)
2|日本の保険会社の合弁事業による参入
ミャンマーの計画・財務省は、前述の100%子会社を通じた生命保険事業参入の認可に係わる公表の延期の発表とあわせて、申請していたものの、100%子会社を通じた生命保険事業参入が認められなかった会社に対しては、国内保険会社との合弁事業意向表明書の提出期限を2019年5月3日まで延期すると発表した12

こうした中で、国内の生命保険会社では日本生命保険、太陽生命保険が、損害保険会社では東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン日本興亜がミャンマーにおける保険事業に同国保険会社と合弁事業で参入する旨公表している13

日本生命保険は、ミャンマーの有力財閥の一つであるシュエタングループ傘下のグランド・ガーディアン・インシュアランス・ホールディング(Grand Guardian Insurance Holdings Public Company Limited)(以下、「GGIH」。)との間で生命保険合弁会社設立に関する基本的枠組を合意し、2019年4月26日にミャンマー金融当局に意向設立表明書を提出し、受理されたと発表している14。その後、GGIHおよびGGIH傘下の生命保険会社であるグランド・ガーディアン・ライフ・インシュアランス(Grand Guardian Life Insurance Company Limited)(以下、「GGLI」。)との間で、GGLIの株式を取得することに合意し、2019年6月21日にミャンマー金融当局へ認可申請書を提出したと発表している。GGLIの株式の35%を保有し、GGLIは「グランド・ガーディアン・ニッポンライフ・インシュアランス」に社名を変更する予定であるとしている15

太陽生命保険は、ミャンマーの生命保険会社であるCapital Life Insurance Limited(以下、キャピタル・ライフ社)との資本・業務提携に向け、キャピタル・ライフ社と共同で計画・財務省に意向表明書を提出したと発表している16

東京海上ホールディングスは、傘下の東京海上日動火災保険が、GGIHの子会社であるミャンマーの損害保険会社Grand Guardian General Insurance株式の35%取得を通じて参入するため、GGIHと現地当局に対して合弁会社設立に関する認可申請を行うことで合意したと発表している17

SOMPOホールディングスは、傘下の損害保険ジャパン日本興亜とミャンマーの損害保険会社であるAYA Myanmar General Insuranceが、現地当局に対して合弁会社設立に関する意向表明書を2019年4月25日に提出し、合弁会社設立候補会社として選定されたことを発表している18

これらの保険会社のほか、明治安田生命保険、MS&ADインシュアランスグループホールディングスも合弁事業により参入すると報じられている19
 
12 ミャンマー計画・財務省 “RESCHEDULING OF FORMAL ANNOUNCEMENT OF PREFERRED APPLICANTS FOR THE REQUEST FOR PROPOSAL TO APPLY FOR A LICENCE FOR LIFE INSURANCE BUSINESS IN MYANMAR TO BE OPERATED BY A FOREIGN INSURER THROUGH A 100% WHOLLY-OWNED SUBSIDIARY”・ 前掲注11)
13 日本生命保険「ミャンマーにおける生命保険合弁会社設立の意向表明書提出について」2019年4月26日(https://www.nissay.co.jp/news/2019/pdf/20190426.pdf,2019年7月4日最終閲覧)、太陽生命保険「太陽生命、ミャンマー生命保険市場における合弁事業開始に向けた意向表明書を提出」2019年4月26日 (https://www.taiyo-seimei.co.jp/company/notice/download/press_article/2019/20190426.pdf, 2019年7月4日最終閲覧)、東京海上ホールディングス「ミャンマーにおける損害保険合弁会社設立の認可申請について」2019年4月26日 (https://www.tokiomarinehd.com/release_topics/release/dhgn2a000000jj55-att/20190426_j.pdf, 2019年7月4日最終閲覧)、SOMPOホールディングス「ミャンマーにおける損害保険合弁会社設立の候補者会社選定」2019年5月20日(https://www.sompo-hd.com/~/media/hd/files/news/2019/20190520_1.pdf, 2019年7月1日最終閲覧)。
14 日本生命保険「ミャンマーにおける生命保険合弁会社設立の意向表明書提出について」・前掲注13)
15 日本生命保険「グランド・ガーディアン・ライフ・インシュアランス社への出資について」2019年6月21日(https://www.nissay.co.jp/news/2019/pdf/20190621.pdf, 2019年7月3日最終閲覧))
16 太陽生命保険「太陽生命、ミャンマー生命保険市場における合弁事業開始に向けた意向表明書を提出」・前掲注13)
17 東京海上ホールディングス「ミャンマーにおける損害保険合弁会社設立の認可申請について」・前掲注13)
18 SOMPOホールディングス「ミャンマーにおける損害保険合弁会社設立の候補者会社選定」・前掲注13)
19 牛込俊介・新田裕一・中村雄貴「生損保6社、ミャンマーへ」日本経済新聞2019 4月26日朝刊12版9面、新田裕一「日系保険、ミャンマー参入」日本経済新聞2019 年5月22日朝刊12版8面。
 

5――損害保険料率算出機構がミャンマー初の自動車保険引受データの収集に協力

5――損害保険料率算出機構がミャンマー初の自動車保険引受データの収集に協力

損害保険料率算出機構は、ミャンマー初の自動車保険引受データの収集に協力したことを発表している20。同機構によれば、ミャンマーは、自動車・二輪車の登録台数が増加するなど、経済発展が進む一方で、自動車保険の料率検証等に必要不可欠な業界横断的データ収集態勢がこれまで整備されておらず、実態が把握されてこなかった。そのため、自動車保険商品の補償内容等を定める約款や、マレーシアのタリフ(保険料率表)を参考にしたとされる保険料率について、長年にわたって検証・見直しが実施されていなかった。今後、収集したデータに基づく保険料率の検証・見直しが期待できる。
 
20 損害保険料率算出機構「ミャンマー初の自動車保険引受データの収集に協力」2019年6月24日(https://www.giroj.or.jp/news/2019/20190624.html, 2019年7月10日最終閲覧)
 

6――最後に

6――最後に

ミャンマーは経済発展が期待される中で、保険の普及率は低いとされている。保険市場では2013年に民間保険会社が営業を開始し、日本も含めて多くの外資系保険会社からの参入が見込まれている。今後もミャンマーの保険事情について、注視していきたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

小林 直人

研究・専門分野

(2019年07月16日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【ミャンマーの保険事情】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

ミャンマーの保険事情のレポート Topへ