2019年06月10日

欧州大手保険グループの生命保険事業の収益構造について-2018年決算数値等に基づく結果報告-

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3|Generali

(1)営業利益の構造
Generaliは、生命保険事業の営業利益(operating result)の構造を地域別に開示しており、以下の図表の通りとなっている。

2017年から2018年にかけて、グループ全体では、低金利の影響や減損の増加を受けて、「投資結果(Investment result)」は2,098百万ユーロから1,835百万ユーロに12.6%減少した一方で、「技術マージン(Technical margin)」のうちの「付加保険料&手数料5」は、イタリアにおけるユニットリンク商品からの手数料の増加等により、4,365百万ユーロから4.474百万ユーロに2.5%増加し、「技術的&その他結果(Technical & other result)」は、フランスの長寿リスクの影響の改善等により、1,065百万ユーロから1,345百万ユーロに26.3%増加した。一方で、「費用(Expenses)」は4,546百万ユーロから4,587百万ユーロに0.9%の増加に留まった。

各国・各地域別に見てみると、イタリアやフランスが引き続き投資結果に依存する収益構造であるのに対して、ドイツは投資結果が殆どなく、付加保険料&手数料や技術的&その他結果に依存した構造となっている。これに対して、中東欧等(オーストリア、中東欧、ロシア)は、投資結果及び付加保険料&手数料や技術的&その他結果の全ての項目から、相対的に高い収益が得られる構造となっている。
生命保険事業の収益構造(地域別)/生命保険事業の収益構造(主要国別)/生命保険事業の収益構造(主要国別)
なお、付加保険料&手数料の内訳は、以下の図表の通りとなっている。
付加保険料&手数料の内訳
 
5 ここでは、「収益マージン(Margin on revenues)」及び「ユニット/インデックス・リンク手数料(Unit/indexed linked fees)」の合計を「付加保険料&手数料」としている。
(2)投資利回りと保証利率の状況
2018年末の平均保証利率は1.38%であり、2010年の2.30%からの8年間で0.92%ポイント低下した。これに対して、投資利回りは2018年に3.10%で、2010年の4.30%からの8年間で1.20%ポイント低下した。その結果、両者の差額としてのスプレッドは1.72%と、この6年間で0.28%ポイント低下した。ただし、このスプレッドは2016年末に1.48%ポイントに低下した後、この2年間は上昇してきている。
生命保険事業における投資利回りと保険負債保証利率の推移
一方で、2018年の新契約の保証利率は0.12%であるのに対して、再投資リターンは2.01%となっており、両者の差額としてのスプレッドは1.89%となった。こちらの水準についても、2016年まで毎年低下してきていたが、2017年の横ばいの後、2018年は0.31%ポイント上昇している。
新契約保証利率と再投資利回りの推移
(3) デュレーション・マッチングの状況
Generaliの2018年末の債券のデュレーションは8.4年で、固定利付資産と負債とのデュレーション・ギャップは0.0年(資産と負債のデュレーションが同じ)となった。Generaliは、これまで資産のデュレーションの長期化を図ること等で、着実にデュレーション・ギャップの解消を図ってきていた。
資産と負債のデュレーション・ギャップ
4|Prudential
(1)営業利益の構造
Prudentialは、営業利益(operating profit)の構造を地域別に開示しており、以下の図表の通りとなっている。

グループ全体の「スプレッド収入(Spread income)」は、低金利環境下での利回り低下等により、毎年低下してきており、2018年は105bps(2017年 126bps、2016年 141bps、2015年 158bps)となった。これにより、スプレッド収入は2017年の1,122百万ポンドから19.9%減少((比較可能ベースでは、1,090百万ポンドから17.5%減少、以下同様)して、899百万ポンドとなった。

一方で、「手数料収入(Fee income)」は、2,609百万ポンドから2,711百万ポンドに3.9%増加(2,518百万ポンドから7.7%増加)し、「保険引受けマージン(Insurance margin)」が2,302百万ポンドから2,480百万ポンドに19%増加(2,223百万ポンドから11.6%増加)した。これらは高い資本効率商品へのシフト戦略の結果によるものである、としている。 「収益マージン(Margin on revenues)6」は、2,287百万ポンドから2,254百万ポンドに1.4%減少(2,210百万ポンドから2.0%増加)した。「費用(Expenses)」は4,243百万ポンドから4,225百万ポンドでほぼ横ばい(3,967百万ポンドから6.5%増加)した。
生命保険事業の営業利益の源泉の状況
地域別にみると、米国はスプレッド収入や手数料収入のマージンが高いものの、アジアは保険引受マージンが高いものとなっている。ただし、アジアは収入のマージン水準は高いものの、管理経費等の水準も高くなっている。

欧州では、保有年金ポートフォリオのランオフの影響やRothesay Lifeへの年金ポートフォリオの再保険の効果等から、スプレッド収入が4割程度減少した。一方で、英国における新しい生命表の採用に伴う長寿前提の変更に伴い、441百万ポンドのプラス効果があったことで、営業利益全体では32.2%(比較可能ベース、以下同様)増加した。

米国では、低金利や金利スワップにおけるLIBOR増加の影響等により、スプレッド収入が19.6%減少した。

アジアでは、相対的に高い構成比のリスクベースの商品の保有契約が継続的に成長していることから、保険引受マージンは14.5%増加し、収益マージンも4.2%増加した。
生命保険事業の営業利益の源泉の状況(為替横ばいベース) 地域別
 
6 主として、保険料から新契約費や管理経費をカバーするために控除される金額等
(2)保険負債のデュレーションの分布
Prudentialは、金利リスクへの対応のため、資産と負債のマッチング管理を行っているとしている。

保険負債のデュレーションの分布の地域別の状況は、以下の図表の通りとなっている。

各市場の商品の差異から、保険負債のデュレーションの分布の状況も地域毎に大きく異なっており、変額年金の分離勘定のウェイトの高い米国は、短期のデュレーションの契約が多く、有配当契約が中心の英国を主とした欧州は、やや長期の契約が多くなっている、これに対して、アジアは、長期の契約の割合が高くなっている。
生命保険事業の負債のデュレーション別分布(地域別)
5Aviva
(1)営業利益の構造
Avivaは、生命保険事業の営業利益(operating profit)の構造を地域別に開示しており、以下の図表の通りとなっている。

2017年から2018年にかけて、グループ全体では、「新契約収入(New business income)」が1,455百万ポンドから1,381百万ポンドに5.1%減少したものの、「保険引受マージン(Underwriting margin)」が580百万ポンドから681百万ポンドに17.4%と大きく増加したことを要因として、全体でも営業利益が2,852百万ポンドから2,999百万ポンドに5.2%増加した。また、「投資リターン(Investment return)」は2,722百万ポンドから2,770百万ポンドに1.8%増加した。「費用(Expenses)」は2,336百万ポンドから2,398百万ポンドに2.7%増加した。なお、「その他」には、DAC(繰延新契約費)、モデルや前提の変更、一時的な項目等が含まれるが、2018年は、(Prudentialと同様に)英国における長寿死亡率の変更がプラスに働いた。

地域別の特徴としては、アジアにおける投資リターンのウェイトが、英国や欧州(英国以外)に比べてかなり低くなっていることが挙げられる。
生命保険事業の収益構造(地域別)
Avivaは、新契約からの収益、保険引受マージン及び投資リターンの内訳も開示している。

これによれば、2018年の新契約からの収益は、新契約収入1,381百万ポンドに対して、新契約費が977百万ポンドとなり、差引き404百万ポンドの黒字となったが、保障商品の契約規模の低迷により、2017年の465百万ポンドからは13%減少した。
新契約からの収益の状況
保険引受マージンの中では死亡率・罹患率によるものが6割から7割程度を占めているが、これは営業利益全体では1割から2割程度となっている。2017年から2018年にかけては、英国では、保険金支払請求経験率の改善と年金経験率の改善により、大幅に増加したものの、欧州(英国以外)では、イタリアの死亡率上昇及びスペイン事業の売却の影響で減少、アジアでは中国におけるマージンの改善で増加した。
保険引受マージンの内訳
また、資産残高の増加等に伴い、ユニットリンク・マージンが投資リターン全体の約6割を占めている。

「ユニットリンク・マージン」については、管理資産残高が増加しているものの、高マージンの商品から低マージンの商品への商品構成のシフト等もあり、2017年から2018年にかけてはほぼ横ばいに留まった。「有配当」については、スペイン事業の売却の影響を受けて、欧州(英国以外)で減少した。一方で、「株主資産の期待リターン」が主としてALM行動の影響により、大きく増加した。

なお、地域別にみると、Avivaにおいても、アジアの投資リターン率は、英国やその他の欧州の水準に比べて高くなっているが、絶対額はいまだ全体の1割弱に留まっている。
投資リターンの内訳
(2)保証利率の状況
Avivaは継続する低金利下で影響を受ける可能性があるフランスとイタリアの有配当契約の平均保証利率の状況を公表しているが、資産利回りとのスプレッドは高い水準を確保している。
生命保険事業の保証利率の状況(2018年)
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中村 亮一

研究・専門分野

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