- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 人口動態 >
- データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~
データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~
基礎研REPORT(冊子版)6月号

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1―はじめに-マクロ政策とミクロ政策は必ずしも一致しない
各エリアが達成したいのは、「自らのエリアで生まれる子ども数の増加」であることは異論がないだろう。では、最終目標のエリア出生数の増減は、何によって決まるのだろうか。エリア出生数は次式で計算される。
A<エリアの母親候補の数>×B<出生率>=エリアで生まれる子どもの数
Aは、出生率の定義から15~49歳の女性である。これは「既婚女性出生率」ではなく、未婚女性も含む全女性出生率である。注目点は、エリア子ども数決定要因は出生率一択ではなく、出生率に加え、エリア女性人口も影響していることである。日本全体の話であれば、移民前提でなければ、出生率上昇政策でよい。しかし、国内の1エリアの話となると政策が異なってくる。
自治体間では、比較的簡単に人口移動が生じる。「エリア間移民」の影響をAに関して考慮する必要があり、エリア少子化を考える際は、女性の流出入は必須の議論となるのである。以下、簡単に例示してみたい。
2016年の47都道府県にあける最低出生率は東京都1.24、最高出生率は沖縄県の1.95であったので、次の2つのパターンを考えてみたい。
α)A2万人確保・B1.24(全国最低出生率)とする政策
β)A1万人確保・B1.95(全国最高出生率)とする政策
子ども数は、α)2万人×1.24=2.48万人、β)1.95万人となり、出生率で0.71という大差でも、出生数ではα)が多くなる。エリア少子化対策としては、この2パターンでは、高出生率維持政策よりも、母数A大量確保政策に軍配が上がる。エリアの子どもの減少には、A母親候補の数とB出生率の2指標が絡んでおり、出生数の増加を目指すならば、AB双方を検証しなければならないことがわかるだろう。
2―2つの決定要因の影響力
A エリア母親候補数
-エリアに母親候補女性が住みたいかどうか
B 出生率
-婚姻、妊娠出産、育児等に関する諸要因
Aは、新幹線等交通利便性向上、男女高学歴化(4年制大学進学率5割)、奨学/学生ローンアクセス簡易化、学校法人間学生争奪戦、エリア特性依存度の低い第3次産業の発展、IT化による情報収集力向上などから、若い男女の越境が年々容易になってきている。さらにBは、非常に繊細な多くの変数が絡んでくるため、政策操作における配慮が必要な項目が多岐にわたり容易ではない一方、Aは1日で大変動も可能である。東日本大震災以降、福島からAの流出が生じた結果、その子ども将来人口推計は2015年の類似子ども人口エリア7県の中で、30年後減少率が最も高くなる見通しである。
3―女性逃避エリアに子ども人口の未来なし
A<エリアの母親候補の数>×B<出生率>=エリアで生まれる子どもの数
で計算される。この式には男性は含まれない。「男性がいなければ妊娠しない」という議論は間違いないが、筆者のレポート、「初婚・再婚別にみた「年の差婚の今」」(上)(下)で示したように、日本の男女の未婚割合には生涯を通して大きな格差があり、50歳時点で女性の約7人に1人が婚歴がないのに対して、男性は約4人に1人も婚歴がない。この差は、再婚男性が初婚女性を何度も獲得する「タイムラグ式一夫多妻制化」が背景にある。つまり、単に親候補となる年齢層の男女同数をエリア誘致すればよい、ましてや、男性誘致産業政策を行えば人口問題は解決、という話ではない。男性は人口再生産の主役にはなりえず、男性誘致政策が一時の打ち上げ花火的な人口増加と税収アップをエリアにもたらしたとしても、未婚化の著しい男性人口の増加は、かえって孤独死・介護問題といった近年顕在化している現象をエリアにて加速しかねない。結局、どれだけ若い女性を誘致できるかどうかが、エリア出生数の未来を決めるのである。
4―おわりに
これは国際問題で考えればわかりやすい。ある国Xから大量に女性流出が他国へ生じている中で、「X国は出生率が非常に高く、女性に優しい、子育てしたい国」との解釈は難しい。その国の方針を受け入れられる女性だけが残り、フル回転で出産していることになる。この状況でその国の人口の未来が明るいと感じる人はいないだろう。
全国からの女性を集める東京都の子ども人口は、この20年程度増加の一途であり、また、将来的にも2045年/2015年人口が100%超との人口増加の推計である。「沈まぬ東京人口」を支えているのは、他でもない全国各地から流入を続ける地方で生まれ育った若い女性たちなのである。
(2019年06月07日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1878
- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/24 | 若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
2025/03/07 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 基礎研マンスリー |
2025/02/05 | 【地方創生・人口動態データ速報】2024年 社会減(国内移動純減)都道府県ワーストランキング-日本人と外国人の合計で移動純減は40エリア- | 天野 馨南子 | 基礎研レター |
2025/01/16 | 若い世代が結婚・子育てに望ましいと思う制度1位は?-理想の夫婦像激変時代の人材確保対策を知る | 天野 馨南子 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月25日
今週のレポート・コラムまとめ【3/18-3/24発行分】 -
2025年03月24日
なぜ「ひとり焼肉」と言うのに、「ひとりコンビニ」とは言わないのだろうか-「おひとりさま」消費に関する一考察 -
2025年03月24日
若い世代が求めている「出会い方」とは?-20代人口集中が強まる東京都の若者の声を知る -
2025年03月24日
中国:25年1~3月期の成長率予測-前期から減速。目標達成に向け、政策効果でまずまずの出だしに -
2025年03月24日
パワーカップル世帯の動向-2024年で45万世帯に増加、うち7割は子のいるパワーファミリー
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
データで見る「エリア出生率比較」政策の落とし穴~超少子化社会データ解説-エリアKGI / KPIは「出生率」ではなく「子ども人口実数」~のレポート Topへ