2019年06月04日

市場の拡大が続くインドネシアの生保市場-インドネシアの生命保険市場(2017)-

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1――はじめに

昨年夏、スイス再保険会社が機関誌『sigma』上で公表した2017年の世界の保険料収入についての調査結果は、生命保険先進市場の保険料の伸び悩み・縮小と、中国を中心とする生命保険新興市場の保険料増加を浮き彫りにした。中国の生命保険料は対2016年で21.1%増、実に世界全体の生命保険料増加額の半分を中国が生み出し、中国一強の様相を呈するものであった。そうした中、中国を上回る26.7%増という強い勢いを見せ、気をはいたのがインドネシアである。

人口は世界第4位と市場規模は巨大。経済情勢は堅調で、中間層が増加しつつある。そのような肥沃な市場でありながら生命保険普及率はまだまだ低い。インドネシア生保市場のキャパシティ、魅力はわかりやすい。

インドネシア生保市場には、市場成長に関わり、成長の波に乗って、その果実にあやかろうと、各国から大手保険グループが積極的に市場参入してきている。わが国からも4生保グループ(日本、第一、明治安田、住友)、2損保グループ(東京海上、三井住友)がインドネシア生保市場に進出している。

インドネシアの生保市場については、ここ2年の間に、「インドネシアの生命保険市場-期待の生保新興市場インドネシアの状況- (2017年4月28日)1」、「成長が加速するインドネシアの生保市場-インドネシアの生命保険市場(2016)-(2018年4月17日)2」と、それぞれ、2015年、2016年の統計データを用いたレポートを、当「保険・年金フォーカス」に掲載してきた。これを継いで、本年も、計数数値を2017年に洗い直した更新版として本レポートを作成する。

主な統計の出所は、インドネシアの保険監督当局であるOJK (Otoritas Jasa Keuangan=金融サービス機構)から公表されている「Statistik Perasuransian 2017=Insurance Statistics 2017」である。

なおインドネシア生保市場における商品、販売、外資系生保会社の経営等に関するもう少し詳細なレポートとして、「成長するインドネシア生保市場と外資系生保の幸せな関係-市場活性化・高度化に貢献し覇権を達成-特色ある特約付きユニットリンク保険の販売-」(2017年06月22日付基礎研レポート3)もあわせてご覧いただければ幸いである。  

2――成長が加速するインドネシア生保市場

2――成長が加速するインドネシア生保市場

1|「人口1人あたり保険料」、「GDPに対する割合」で見たインドネシア生保市場の普及度合い
まずは先述の、スイス再保険が発表した世界の生命保険料に関するデータから、インドネシア生保業界の状況を見る。

生命保険料をドル換算したベースで、その国の生命保険料が世界全体の生命保険料の何パーセントにあたるか(世界シェア)及びそのシェアが世界第何位に位置するかの変遷を見ると、インドネシアの生保市場は、2000年には世界シェア0.05%、世界順位第38位であったが、2015年には、世界シェア0.43%、世界第29位、2016年は世界シェア0.58%、世界第26位、2017年には世界シェア0.73%、世界第24位へと、年をおうごとにランクアップしてきている。絶対的なシェアはまだ小さいが、特に近年の成長ぶりは顕著である。

次に普及度合いに着目して、ドル換算ベースの「人口1人あたり生命保険料」と「総生命保険料の対GDP割合」を見る(グラフ1)と、1999年の「人口1人あたり生命保険料」5.1ドル、「生命保険料の対GDP割合」0.8%が、2015年には42.7ドル、1.3%へ、2016年には58.6ドル、1.6%となって、2017年には73.0ドル、1.9%にまで上昇した。こちらの進展ぶりも堅調である。ただし、いまだ絶対的には低普及状態であるので、今後いっそうの成長が期待されている。また、この低い普及度合いと、この水準をスタート台にして、普及の速度が上がり始めた状態が、先進各国の生保会社を惹き付けるインドネシア生保市場の魅力となっている。
グラフ1 「人口1人あたり生命保険料」と「生命保険料の対GDP割合」の推移(ドルベース)
2|アセアン内でのインドネシア生命保険市場のポジション
 次の表1は、上記各指標につき、アセアンの他の主要国(シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム)とインドネシアを対比したものである。
表1 アセアン主要国の生命保険市場の状況
インドネシアは6ヵ国の中で最大の人口と順調な経済状況を背景に、全体ボリュームとしての総生命保険料ではシンガポールに次ぐ第2位につけている。2015年にはシンガポール、タイに次ぐ第3位であったが、2016年にタイを上回る規模に達し、2017年にはシンガポールに迫る規模に拡大した。人口差が大きいシンガポールを追い越すのも時間の問題となっている。

一方、国民各層への生命保険普及度合いを示す「人口1人あたり生命保険料」、「生命保険料の対GDP割合」ではまだまだで、第4位と出遅れている。上位3国(シンガポール、マレーシア、タイ)との差はいまだ大きく、最近の好調な普及状況が続いてもこれら先行国に追いつくまでにはまだ数年はかかりそうである。
 

3――インドネシア生保市場の現状

3――インドネシア生保市場の現状

ここから後は、スイス再保険のデータと異なり、インドネシアの通貨であるルピアベースで作成されているOJK発表のデータを使って2017年の状態を見ていく。

ちなみに2019年5月18日現在の為替レートを使ってルピアを日本円換算すると、1兆ルピア=約76.2.億円、1億ルピア=約76.2万円である。
1|生命保険料収入は過去最大の水準
次のグラフ2は、2006年から2017年まで12年間の、インドネシア生保市場における生命保険料収入の金額を棒グラフ、その対前年の伸び率を折れ線グラフで表したものである。

インドネシアの生命保険料収入は2006年から2012年まで対前年比2桁の高い伸び率で増加し、2006年の27.5兆ルピアが2012年にはその4倍弱の107.94兆ルピアに拡大したが、2013年に対前年4.9%増とブレーキがかかり、2014年にはマイナス0.3% に落ち込んだ。

しかし2015年には、対前年19.7%増と再び勢いをとりもどし、2013年、2014年の低成長を挽回するとともに、一気に過去最高の135兆1300億ルピアを達成した。

その後は二桁の増勢が続き、2016年には167兆2,000億ルピア、2017年には194兆4,000億ルピア(約1兆5,164億円)に拡大した。
グラフ2 生命保険料収入の推移(ルピアベース)
2|主力保険商品
 インドネシア生命保険市場では個人年金等、年金商品はいまだ未発達で、販売実績はほとんどない。主力商品は、伝統的な養老保険(満期時に支払われる満期保険金と死亡があった場合に支払われる死亡保険金が同額の保険商品)と外資が持ち込んだユニットリンク(変額)保険である。ユニットリンク保険は、投資対象とする資産の価格変動やユニット価格の変動にあわせて保険積立金の額が変動する保険商品で、欧州の生保市場では主力的な商品となっている。2017年末現在、インドネシアに生保会社が61社あるが、その内38社がユニットリンク保険を販売している。インドネシアにおけるユニットリンク保険の特徴は、主たる契約であるユニットリンク保険契約に付加される特約として同時販売される保障がそれなりに大きな死亡保障や医療保障であることである。
 グラフ3 インドネシア生命保険市場の商品(2017年)
(1)初年度収入保険料で見た新契約販売の商品別構成(個人保険・団体保険総合)
グラフ3の左側は、2017年にどの商品がどの程度販売されたかを、新規販売された契約からの初年度保険料の商品別構成比として表したものである。

これを見ると、養老保険が53.2%と一番多く、次がユニットリンク保険の29.2%で、両者をあわせた貯蓄性・投資性商品の販売割合が82.4%を占めている。

保障性商品である定期保険(10.5%)、医療保険(4.7%)の比率は小さい。
 
(2)既存契約・新契約全契約からの収入保険料で見た保有契約の商品別構成(個人保険・団体保険総合)   
グラフ3の右側は、新契約だけでなく既存の契約を含む全ての契約から収入される生命保険料を、その源にある商品別に分類したグラフである。

こちらのグラフでは、ユニットリンク保険が過半の56.5%を占め、養老保険が29.9%で続く。両者をあわせた投資性・貯蓄性商品の比率は86.4%にもなる。

保障性商品である定期保険(7.8%)、医療保険(3.8%)は、初年度収入保険料におけるよりもさらに存在感が小さくなる。
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松岡 博司

研究・専門分野

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