2019年05月20日

QE速報:1-3月期の実質GDPは前期比0.5%(年率2.1%)-予想を大きく上回る高成長も、表面上の数字より内容は悪い

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎

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●1-3月期は前期比年率2.1%と2四半期連続のプラス成長

本日(5/20)発表された2019年1-3月期の実質GDP(1次速報値)は、前期比0.5%(前期比年率2.1%)と2四半期連続のプラス成長となった(当研究所予測4月26日:前期比▲0.0%、年率▲0.2%)。

中国をはじめとした海外経済の減速を背景に輸出は前期比▲2.4%の減少となったが、輸入が前期比▲4.6%と輸出以上に落ち込んだため、外需寄与度は前期比0.4%(年率1.6%)と4四半期ぶりに成長率の押し上げ要因となった。一方、国内需要は、2018年度補正予算の執行が本格化した公的固定資本形成(前期比1.5%)、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が一部で見られた住宅投資(前期比1.1%)が増加したが、国内需要の二本柱である民間消費(前期比▲0.1%)、設備投資(同▲0.3%)が減少したため、前期比0.1%とほぼ横ばいにとどまった。
 
名目GDPは前期比0.8%(前期比年率3.3%)と2四半期連続の増加となり、実質の伸びを上回った。GDPデフレーターは前期比0.3%(10-12月期:同0.1%)、前年比0.2%(10-12月期:同▲0.3%)であった。国内需要デフレーターは前期比▲0.1%の低下となったが、輸入デフレーター(前期比▲3.5%)が輸出デフレーター(同▲1.1%)以上に低下したことがGDPデフレーターを押し上げた。
 
2019年1-3月期の1次速報と同時に基礎統計の改定や季節調整のかけ直しなどから過去の成長率も遡及改定され、実質GDP成長率(前期比年率)は2018年4-6月期(1.9%→2.2%)が上方修正される一方、7-9月期(▲2.4%→▲2.5%)、10-12月期(1.9%→1.6%)は下方修正された。

この結果、2018年度の実質GDP成長率は0.6%(2017年度は1.9%)、名目GDP成長率は0.5%(2017年度は2.0%)となり、実質、名目ともに前年度から大きく減速した。実質GDP成長率に対する寄与度を内外需別にみると、民間消費、設備投資などの国内需要は0.7%と底堅さを維持したが、輸出の伸びが大きく鈍化し外需が▲0.1%と5年ぶりのマイナス寄与となった。
需要項目別結果
<需要項目別の動き>
民間消費は前期比▲0.1%と2四半期ぶりに減少した。

雇用所得環境は改善を続けているが、景気の先行き不透明感の高まりや食料品の相次ぐ値上げなどに伴う消費者マインドの悪化が消費を抑制したとみられる。

実質家計消費の内訳を形態別にみると、食料などの非耐久財は前期比1.2%の増加となったが、自動車、テレビなどの耐久財(前期比▲2.2%)、被服・履物、家具などの半耐久財(前期比▲3.7%)、外食、旅行などのサービス(前期比▲0.1%)が減少した。
 
雇用者報酬は名目・前年比1.1%(10-12月期:同3.1%)、実質・前年比0.8%(10-12月期:同2.3%)となり、名目、実質ともに前期から伸びが大きく低下した。

雇用者報酬の推計に用いられる「毎月勤労統計」(厚生労働省)の現金給与総額は、サンプルの部分入れ替えによって2019年1月分から伸び率が大きく低下している。厚生労働省は部分入れ替え前後の新旧事業所の断層は現金給与総額で▲0.9%と公表しているが、この断層を調整しても2019年1月の現金給与総額の伸び(断層調整前:前年比▲0.6%→断層調整後:前年比0.3%)は2018年12月(前年比1.5%)から大きく低下する。

内閣府は雇用者報酬を推計する際にサンプル入れ替えに伴う断層を調整しているが、これだけではサンプル入れ替えによる下方バイアスが除去しきれていない可能性が高い。2019年1-3月期の雇用者報酬の伸びが実態として大きく低下したとは判断できない。
 
住宅投資は前期比1.1%と3四半期連続で増加した。新設住宅着工戸数(季節調整済・年率換算値)は2018年1-3月期の89.7万戸から4-6月期に96.6万戸へと大幅に増加した後、90万戸台半ばの推移が続いている。利用関係別には、相続税対策需要の一巡から貸家は弱い動きが続いているが、持家、分譲住宅が持ち直している。

住宅は2019年3月末までに契約すれば、引き渡しが10月以降でも現行の8%の消費税率が適用される。このため、2018年度末にかけて一定程度の駆け込み需要が発生したとみられるが、前回の増税時に前倒しで購入した世帯が多かったこともあり、その規模は限定的にとどまった模様だ。
 
設備投資は前期比▲0.3%と2四半期ぶりに減少した。人手不足対応の省力化投資、都市再開発関連投資などによって非製造業は底堅い動きが続いているが、輸出の減少を主因とした企業収益の悪化を受けて2018年度末にかけて製造業の投資抑制姿勢が強まった。
 
公的固定資本形成は、2018年度補正予算の執行に伴い前期比1.5%と5四半期ぶりの増加となった。政府は、2018年度第1次補正予算に続き、2018年度の第2次補正予算で公共事業関係費を大幅に積み増したほか、2019年度の当初予算でも公共事業関係費を2018年度当初予算比で9,310億円増(うち、臨時・特別の措置が8,503億円)、前年比15.6%の大幅増加とした。このため、2019年度入り後も公的固定資本形成は増加を続ける可能性が高い。
 
外需寄与度は前期比0.4%と4四半期ぶりプラスとなった。中国をはじめとした海外経済の減速、グローバルなIT需要の減退を背景に財貨・サービスの輸出が前期比▲2.4%の減少となったが、国内需要の低迷や前期の高い伸びの反動から、財貨・サービスの輸入が前期比▲4.6%と輸出以上に落ち込んだことから、外需は成長率の押し上げ要因となった。
(先行きの日本経済は低空飛行が続く見込み)
2019年1-3月期は市場予想を大きく上回る高成長となったが、その主因は国内需要の低迷を受けて輸入が大きく落ち込み外需が成長率を押し上げたこと(前期比年率1.6%)、最終需要の弱さを反映し民間在庫変動(寄与度)が前期比年率0.5%のプラスとなったことであり、内容は悪い。
実質GDP成長率の内外需寄与度 2017年中に景気のけん引役となっていた輸出は2018年入り後に減速し、2018年度末にかけて大きく減少した。一方、国内需要は2019年1-3月期にはほぼ横ばいにとどまったが、均してみれば一定の底堅さを維持している。このことは、実質GDP成長率に対する内外需別の寄与度を前年同期比でみると2018年7-9月期以降、外需のマイナスを内需のプラスがカバーする形となっていることでも確認できる。

海外経済の減速、グローバルなIT関連需要の調整を背景に、輸出は当面低調な推移が続くことが予想される。現時点では、ITサイクルの好転などから2019年後半には持ち直しに向かうことを見込んでいるが、輸出の回復が後ずれすれば、輸出の減少に伴う企業収益の悪化が今のところ一定の底堅さを維持している国内需要に波及することにより、日本経済が全体として悪化に向かう可能性が高くなる。その場合には、2018年秋頃をピークとした景気後退局面入りしていることが決定的となるだろう。
 
 

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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

経歴
  • ・ 1992年:日本生命保険相互会社
    ・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
    ・ 2019年8月より現職

    ・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
    ・ 2018年~ 統計委員会専門委員

(2019年05月20日「Weekly エコノミスト・レター」)

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