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オーソライズド・ジェネリックの拡大-後発薬市場の活性化は進むか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
本稿では、AGをはじめとした後発医薬品の動向について、みていくこととしたい。
2――後発薬使用割合と調剤医療費の推移
3――オーソライズド・ジェネリック
1|AGは、新薬メーカーが後発薬市場を囲い込むための手段
新薬メーカーにとって、後発医薬品への置き換えは、新薬である長期収載品の販売減を意味し、収益減につながる。そこで、新薬メーカーは、オーソライズド・ジェネリック(AG)という対抗策を打ち出している。
AGは、新薬の特許期間中に、新薬メーカーが関連会社を通じて新薬と有効成分が同じ医薬品を、新薬よりも価格の安いAGとして発売し、市場に浸透させるものである。AGの製造会社は、先発医薬品の特許期間中、新薬メーカーにロイヤリティーを支払う。
仮に、後発薬メーカーが先発医薬品の特許期間中にAGを発売しようとしても、新薬メーカーへのロイヤリティー支払いにより、利益を出すことは困難となる。したがって、後発薬メーカーとしては、先発医薬品の特許切れを待つしかない。しかし、先発医薬品の特許期間後に、後発医薬品を発売しても、AGと価格面で大きな差はない。このため、市場への浸透は見込みにくい。
即ち、AGは、新薬メーカーが先手を打って後発薬市場を自社グループで囲い込む戦略といえる。また、AGは、製造特許を引き継いでいるため、医薬品の安全性や有効性について、患者や医師の懸念点が少なく採用されやすい。こうしたことから、近年、AGの市場投入は拡大している。
4――近年のAGを巡る動き
1|後発薬発売と同時に、AGを発売するケースがある
AGは、通常、新薬の特許が切れる前に、先手を打って市場に投入して、後発薬市場を囲い込むことを狙っている。ところが、先発医薬品のブランド力が高い場合には、これを活かして、後発医薬品と同時期まで発売をずらしても競争力を保つことができるケースが出てきている。2017年6月に、持田製薬販売は、子宮内膜症治療薬ディナゲストのAGを、9つの一般の後発医薬品と同時に発売した。このAGは一般の後発医薬品と薬価が同じであったこともあり、先発薬を含めた全体の数量シェアで7割を超え、同社の事業の柱に成長したといわれている 1。
1 「薬事ハンドブック2019」(じほう)等より。
それに加えて、すでに後発医薬品が市場に参入して、一定期間が経過した後にAGを投入する「後追いAG」も相次いでいる。これは、先発医薬品のブランド力を活かして、後発薬市場での市場シェアを巻き返そうとするもの。この巻き返しにより、大きくシェアを奪い返す事例も出現している。1999年に大鵬薬品が発売した抗がん薬ティーエスワンには、2013年に沢井製薬と日本化薬が後発医薬品を発売した。その後も、更に数社が後発医薬品を発売した。これに対して、2017年に大鵬薬品の子会社である岡山大鵬薬品が、AGを発売した。このAGは、後発医薬品内の8割以上のシェアを獲得した模様1。
また、自社グループにとどまらずに、他社に契約金を支払ってAGで参入する動きもある。具体的には、後発品関連会社を持たない新薬メーカーに対して、特許が切れた製品をAGとして引き受ける動きである。2017年9月に、第一三共エスファはアストラゼネカと契約して、脂質異常症治療薬クレストールのAGを発売した2。2019年には、同様に3つの抗がん薬で、AGを発売する予定とされている。
2 「薬事ハンドブック2018」(じほう)等より。
5――アメリカでの後発薬を巡る問題
1|リバース・ペイメントがカルテルとみなされて、問題となっている
新薬メーカーが、後発医薬品の参入を遅らせるために、有効成分などの特許が満了した後に、その他の関連特許の存続を理由に、敢えて後発薬メーカーに対して特許侵害訴訟を提起するケースがある。そして、訴訟の和解の局面では、新薬メーカーが後発薬メーカーに多額の和解金を支払う。新薬メーカーは新薬の販売を続けることで、和解金の支払いを上回るメリットを享受することが可能となる。
これは、後発医薬品の参入を遅らせるための行動であり、メーカー間の競争回避行為(カルテル)とみなされる。通常の特許侵害訴訟では、後発薬メーカーが和解金を支払うが、このケースでは新薬メーカーが支払う。このように金銭の流れが逆であるため、「リバース・ペイメント」と呼ばれている。
新薬の特許が切れる前に、医薬品の効能等を少しだけ改良した新特許を取得する。その上で、既存の新薬の販売を停止し、新特許の新薬を発売することで、既存の新薬に対する後発医薬品の参入を阻止するケースがあった。これは、製品を交替させるため「プロダクト・ホッピング」と呼ばれている。
2000年代に起こった有名な事件として、カプセル薬として販売していた医薬品の特許を、タブレット薬(錠剤)として取得し直すことで、後発医薬品の参入を阻止しようとしたケースが知られている3。こうした動きに対して、反トラスト法(アメリカの競争法)違反との裁判所の判断が下っている。
現在の日本では、ただちにリバース・ペイメントやプロダクト・ホッピングが出現する状況は考えにくいとみられる。ただし、今後、医薬品メーカーの間で、後発薬市場のシェア競争が激化していけば、こうした弊害が生じる懸念も拭いきれない。
3 この事件の対象となった脂質異常症治療薬の名前をとって、Tricor事件と呼ばれている。
6――AGの薬価ルール
AGが一般的な後発医薬品よりも早い時期に新規収載されると、両者間で新規収載時の薬価が乖離する。2018年の薬価制度抜本改革では、薬価改定時にAGの価格を後発品の実勢価格まで引き下げることとされた4。これにより、内用薬のAGの薬価は薬価改定時に、①AGの実勢価格までの引下げと、②AGと後発医薬品の価格差分の引下げ、の2つの引下げが行われる。
この薬価ルールは、AGを取り扱う医薬品メーカーにとって、販売数量が変わらなければ、売上げの大きな減少要因となる。一方、薬価改定後のAGと後発医薬品の価格差がなくなることで、AGの市場シェアが高まり販売数量が伸びれば、売上げを維持・拡大する可能性もある。
4 AGと一般的な後発医薬品の新規収載の間に薬価調査が行われると、既に販売されているAGのみが調査の対象となり、その実勢価格が薬価に反映される。このため、一般的な後発医薬品は、薬価改定後にAGの実勢価格に薬価が引き上げられてしまう。2018年の薬価制度抜本改革では、これを是正して、AGの価格を後発品の実勢価格まで引き下げることとされた。
7――おわりに (私見)
アメリカで発生しているリバース・ペイメントやプロダクト・ホッピングのような事例を他山の石として、AGによる医薬品市場の健全な発展を目指していくことが必要と考えられる。
(2019年05月17日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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