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医師の需給バランス-医師の偏在は是正されるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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4――医師確保計画・医師偏在対策
1|医師多数の都道府県では、他の都道府県からの医師の確保は行わないこととされた
都道府県は、医療計画のなかで医師確保計画を定め定期的に見直すこととされている。計画において、医師少数の都道府県は、医師を増やすことを基本とする。その際、医師多数の都道府県から医師の確保を図ることが望ましいとされている。一方、医師多数の都道府県は、他の都道府県からの医師の確保は行わないこととされている。
2|医学部の地域枠・地元出身者枠は別枠方式しか認めないこととされた
大学の医学部で医師を養成するにあたり、どのように定員を設置するかが問題となる。具体的には、卒業後地元に定着する確率の高い地元出身者向けの地域枠・地元出身者枠をどのように設けるかである。2008年度から、臨時定員の増員が行われてきた。
臨時定員には、一般枠とは別枠で募集定員を設ける「別枠方式」と、一般枠と共通で選抜して選抜の前後で地域枠学生を募集する「手挙げ方式」がある。手挙げ方式では、地域枠が一般枠に流用され、医師偏在対策の効果が低いとされる。そこで、取りまとめでは、別枠方式しか認めないこととされた。
3|外来医療の偏在対策のため、外来医師偏在指標が設定された
地域包括ケアシステムを実現するために、地域の外来医療の充実は必要不可欠といえる。しかし、地域によっては、無床診療所が不足するなど医療の偏在がみられる。そこで、診療所医師数について、二次医療圏ごとの「外来医師偏在指標」が設定された5。
この指標の上位3分の1は、外来医師多数区域と設定され、都道府県のホームページに掲載するなど周知することとされた。指標化による情報の可視化を通じて、開業する医師の行動変容につながることが期待されている。
診療科ごとの医師偏在対策も必要とされる。取りまとめでは、診療科ごとに、将来必要な医師数の見通しを推計した。具体的には、18の診療科について、都道府県別に、必要医師数とそれを達成するための年間養成数を計算した。2016年の医師数を維持するためや、2024年、30年、36年の必要医師数を達成するための暫定版の推計数値が示された。これらの数値は、各都道府県における医師偏在対策や、専門医制度のシーリング6の検討などへの活用が期待されている。
また特に、周産期医療や小児医療では医師が長時間労働に陥りがちなことや、これらの医療を拡充する政策的な側面を踏まえて、産科・小児科について、全体の指標とは別に、「産科医師偏在指標」「小児科医師偏在指標」が設けられた。併せて、指標の暫定値(精査中)も公表された。
6 2018年4月より始まった新専門医制度では、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府、福岡県の5都府県で、原則として、各診療領域において、専攻医募集定員が過去5年間の専攻医採用実績の平均値を超えないように、採用数にシーリングを実施している。ただし、これまでの医師の増減等を踏まえ、外科、産婦人科、病理、臨床検査、総合診療科は除外されている。
医師少数区域等で勤務した医師を認定する制度が設けられた。制度の運用にあたり、医師少数区域等での業務内容、勤務期間、認定対象の勤務時期などが議論された。業務内容として、地域の患者への継続的な診療、在宅医療、地域ケア会議への参加などが示された。勤務期間は、1年以上の継続勤務が望ましいが最低限6ヵ月、原則として同一医療機関に週32時間以上7連続して勤務などとされた。勤務時期については、都道府県の医療計画で医師少数区域が定められる2020 年度以降とされた。
なお、認定取得のためのインセンティブについては、将来に向けた検討事項とされた。たとえば、地域医療支援病院等の管理者要件として、認定医師であることを加える。認定医師により質の高いプライマリ・ケアが提供される医療機関には、税制・補助金・融資・診療報酬の評価など、経済面での優遇を行う。などの検討を行う必要があるとされている。
7 育児・介護休業法の規定に基づき短時間勤務を行っている場合は、原則として週30 時間以上とされている。
5――おわりに (私見)
今回公表された指標は暫定値(精査中)であり、適宜見直されるものとみられる。今後も、引き続き、その動向と、医師偏在是正に向けた取り組みに注目していくこととしたい。
(2019年05月10日「基礎研レター」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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