2019年05月07日

【5月米FOMC】予想通り、政策金利を据え置き。当面の政策金利据え置き方針を確認

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き、金融政策ガイダンスの変更はなし

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が4月30-5月1日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を据え置いた。一方、技術的な要因から超過準備に付利する金利(IOER)水準を5bps(2.40%→2.35%)引き下げた。

今回発表された声明文で、景気の現状認識については、経済活動について上方修正される一方、インフレについては下方修正された。景気見通しや金融政策のガイダンス部分についての変更は無かった。今回の金融政策は全会一致で決定された。

なお、今回の会合では、FRBが保有するポートフォリオのあるべき年限構成についての議論を開始したほか、年末にかけて結論を出す計画が示された。

2.金融政策の評価:当面は様子見が継続。インフレ下振れに伴う利下げの可能性を否定

政策金利の据え置きは予想通り。景気の現状認識の変更についても当研究所の予想通りであった。

FOMC会合後の記者会見では、コアインフレ率が足元で政策目標を下回って低下している状況などを踏まえて、利下げの可能性を問う質問が多く出た。これに対して、パウエル議長は第1四半期にみられたコアインフレ率の低下は想定外としながらも、資産価格の下落に伴う運用管理手数料の低下や、アパレル価格の下落などの一時的な要因によるとした上で、現状で金融政策をどちらかの方向に変化させる強い証拠はないことに言及し、当面は政策金利を据え置く方針を強調した。

一方、今回の会合ではFF金利の実質的な上限であるIOER金利が引き下げられた。FRBによるバランスシート縮小などもあって、実効FF金利は足元で2.45%とIOER金利を上回る状況となっていた。FRBはIOER金利の引き下げによって、実効FF金利の低下を狙っているが、パウエル議長は今回の変更を技術的な調整としており、意図した金融政策スタンスの変更ではないことを強調した。

当研究所は、当面は政策金利の据え置きが持続するものの、今後は賃金上昇に伴うコアインフレ率の加速が見込まれることから、欧州や中国経済の大幅な減速や、資本市場の不安定化、などが顕在化しない前提で、引き続き次の政策金利変更は利下げではなく利上げとの予想を維持する。

もっとも、金融市場は既に年内の利下げを織り込んでいるほか、トランプ大統領が1%の利下げを要求するなど、政策金利引き上げのハードルは上がっており、FRBは難しい判断を迫られよう。

3.声明の概要

(金融政策の方針)
  • (雇用の最大化と物価の安定の政策)目標の達成を支援するために、委員会はFF金利の目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した(変更なし)
 
(フォワードガイダンス)
  • 世界経済・金融情勢、抑制されたインフレ圧力の観点から、これらの結果を支援するのに適切となる将来のFF金利の目標レンジ調整を委員会は忍耐強く判断する(変更なし)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
 
(景気判断)
  • 労働市場は引き続き力強く、経済活動は堅調なペースで拡大した(経済活動について、「第4四半期の堅調なペースからは鈍化した」”has slowed from its solid rate in the fourth quarter”から、「堅調なペースで拡大」“rose at a solid pace”に上方修正)
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(前回あった「2月の就業者数は、ほとんど変わらなかった」”Payroll employment was little changed in February“の記述を削除)
  • 家計消費と民間設備投資の伸びは第1四半期に鈍化した(前回あった「最近の指標は、、、示している」“Recent indicators point to”を削除し、小幅に表現変更)
  • 前年比でみたインフレの総合指標、および、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は低下し、2%を下回っている(前回の総合指標に加え、コア指標について「低下し、2%を下回って推移している」”have declined and are running below 2 percent”とし下方修正)
  • 総じて、市場が織り込む物価見通しはこの数ヵ月低位に留まっており、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(変更なし)
 
(景気見通し)
  • 委員会は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%で対照的な委員会の目標近辺でのインフレ率の推移、が最も蓋然性の高い結果であると引き続き判断している(変更なし)

4.会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。
 
  • パウエル議長の冒頭発言
    • 3月の前回会合から入手したデータは、概ね我々の予想に沿う内容だった。経済成長と雇用創出はいずれも想定を幾分上回った一方、インフレは幾分弱かった。総じて、経済は引き続き健全で、委員会は現在の政策スタンスが適切であると確信している。
    • 委員会は、緩和的な金融環境、高い雇用水準と雇用増加、賃金上昇、そして堅調な消費者および企業センチメント、を含む足元の堅調なファンダメンタルズが経済を後押しすると確信している。
    • 委員会は2%で対照的な物価目標の達成に全力を傾ける。想定通り、原油価格の下落に伴い今年年初にインフレ率の総合指標は低下した。しかしながら、コアインフレ率も3月に前年比で1.6%となるなど予想外に低下した。我々は何らかの一時的な要因が作用したことを疑っている。
    • 今年の年初には、中国や欧州を中心とした世界の低成長、破壊的なブレグジットの可能性、未解決の通商交渉を巡る不透明感など、数々の逆風が見通しにリスクをもたらした。これらすべての分野で不安は残っているものの、幾分リスクは和らいできた。委員会は、持続的な成長、堅調な労働市場、抑制された物価上昇圧力見通しと併せて、引き続き金融政策のさらなる調整を評価するのに忍耐強くいられると考えている。
    • 今日、我々はポートフォリオの長期的な年限構成について予備的な議論を行った。正常化の一環として、我々はあるべき年限構成について長期的に決定する必要がある。この件に関して解決する差し迫った必要性はないが、我々が最終的に到達したどのような決定も、十分な事前通知を行い、円滑に調整が可能な方法で実行されるだろう。
    • 我々は、金融政策ツールの一つである超過準備に付利する金利(IOER)水準について少し技術的な調整を加えた。これは金融政策の意図したスタンス変更を反映しない。
 
  • 主な質疑応答
    • (コアインフレ率は3ヵ月連続で低下し、2%を下回っているが、委員会が政策対応をするのに必要な水準はどこか)第1四半期に総合指数同様にコア指数が低下することは想定していなかった。我々はインフレ率が2%を継続して下回るか、もしくは上回ることを懸念する。もっとも、第1四半期のコア指数の予想外の低下は、運用管理手数料やアパレル価格の低下などに伴う一時的な要因と考えている。実際にダラス連銀の刈り込み平均値は2%となっており、それほど低下していない。
    • (市場は今年の利下げを織り込んでいるが、市場は効果的に先行していると考えるか、どのような経済状況になれば利下げするのか)我々は米国や世界経済、金融環境について深く調査し、政策について考えた。その上で現在の金融政策が適切であると強く考えている。我々は金融政策をどちらかの方向に変化させる強い証拠を掴んでいない。
    • (3月のFOMC議事録では、金融市場の安定に対するリスクについての憂慮がほとんど示されなかった。今回の会合でそのようなリスクについての議論はされたのか)我々はそれらについて議論した。一般事業会社の債務関連では少し懸念があるものの、全般的な金融市場の安定に関する脆弱性は高くないと言える。
    • (利下げしない理由として資産価格の水準があるのか)金融システム不安を通じて、長期的な金融政策の目標達成のリスクとなりうる場合には考慮する。ただし、金融システム不安に対する対応としては金融政策ではなく、資本や流動性、優れた金融監督、優れたストレステストなどで対応すべきである。
    • (大統領の利下げ要請発言の金融政策への影響は)我々は非政治的機関である。我々は政策決定において、短期的な政治的配慮を考慮しないし、議論もしない。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2019年05月07日「経済・金融フラッシュ」)

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