2019年05月10日

キャッシュレス化はなぜ進まないー日本の消費者は現金が好きか?

基礎研REPORT(冊子版)5月号

経済研究部 専務理事 エグゼクティブ・フェロー   櫨(はじ) 浩一

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1―日本の消費者は現金が好きか?

日本のキャッシュレス決済の割合は家計消費の20%程度で、9割を超える韓国や、4~7割程度の他の先進諸国と比べて低い。経済規模に対する現金流通量の比率が諸外国に比べて高く、日本の消費者は現金が好きでキャッシュレス化には後ろ向きだと言われることも多い。
 
しかし、金融庁の調査では日本では個人の給与受取口座からの出金の5割以上が口座振替や振込によって行われていて、現金で引き出されたお金は半分以下だ。キャッシュレス化の国際比較に利用されることが多い国際決済銀行(BIS)のデータはキャッシュレス取引の一部分だけであるため、実際よりも日本のキャッシュレス化の程度を低めに見せている可能性がある。銀行のATMで現金を引き出しても、自動引き落としを利用している他の口座に資金を移し換えているだけということも多いので、5割以上という数字の与える印象以上に日本の消費者はキャッシュレスで暮らしているのではないか。
 
実際、身の回りでも日常生活で現金を利用することは少なくなっている。鉄道の駅で現金で切符を買っている人の姿を見かけることは少なくなった。筆者も仕事で遠距離を移動する際には乗車券や特急券を購入するが、現金ではなくクレジットカードで支払うことがほとんどだ。日本では一円、十円といった少額の硬貨は流通残高の減少が続いていて、少額の取引で硬貨が使われなくなっている。一万円や五千円といった高額紙幣は流通残高が増えているのだが、支払に使われるのではなく、タンス預金として保蔵されている。家の修繕や家電製品の購入など高額の支払いを現金で行うということは少なく、日本の消費者が現金払いにこだわっているというわけではなさそうだ。

2―決済手段が多すぎる?

キャッシュレス決済が遅れていると言われる日本だが、比較的早い時期から公衆電話や鉄道のプリペイドカードなど、個別の分野ごとにキャッシュレス化の動きがあった。1990年頃には電気ガス水道など公共料金や固定資産税、新聞代などの支払いで銀行口座からの自動引き落としが利用されていた。
 
日本でキャッシュレス化が進まないのは、消費者にキャッシュレスの仕組みが浸透していないからではなく、逆に仕組みが多すぎるからではないか。キャッシュレス決済が可能なカードやスマートフォンのアプリを一つも持っていないという人は少数派で、ほとんどの人は複数持っているだろう。日本銀行の調査によれば、2017年度末時点で一人当たりの平均で8.53枚のキャッシュレス決済用のカードを保有している。日本の消費者はキャッシュレス決済の手段を利用していないのではなくて、むしろたくさんの種類を利用しているというべきだ。

3―政府の出番

スマートフォンや携帯電話を使ったモバイル決済は、先進国よりも新興国や途上国で急速に拡がるケースが目立つ。先進国では既存のサービスが充実しているため、新しい手段がよほど優れたものでないと利用のメリットがないからだ。
 
決済手段は、「利用者数が多ければ多いほど個々の利用者にとっての利便性が高くなる」、という性質があり、少数の決済方法に多くの利用者がまとまる方が消費者にとっても販売店にとっても望ましい。日本でキャッシュレス決済が普及しないのは、仕組みが乱立しているためにどこでも使えるという利便性が低いことも大きい。一枚のカードでどこでも支払ができるというわけにはいかず、どうしても現金を持ち歩く必要があるということも消費者が現金の利用を止められない理由だろう。政府と産官学が共同でQRコード決済の統一規格を作ると報道されている。日本ではQRコード決済は、PayPay、d払い、楽天ペイ、LINEペイなどを筆頭に多数の決済システムが乱立し、誤請求が発生する危険性も指摘されていたので、規格が統一されることは消費者からの信頼を高めるという意味でも歓迎すべきことだ。
 
キャッシュレス決済を利用することに対して停電の際の対応など消費者は様々な不安を持っているが、政府が適切な規制や規格の設定、非常時の対応策を示すなどすることでこうした不安に応えていくことは利用促進になるはずだ。
 
経済学の教科書は、単純に規制を緩和して民間企業の競争に任せることが最善ではない場合の一つとして、「利用者数が多ければ多いほど個々の利用者にとっての利便性が高くなる」場合をあげている。キャッシュレス決済の促進については、適切な規制を行ったり規格の設定を促進したりするなど、政府が果たしうる役割は大きいだろう。
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経済研究部   専務理事 エグゼクティブ・フェロー

櫨(はじ) 浩一 (はじ こういち)

研究・専門分野
マクロ経済・経済政策

(2019年05月10日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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