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- 企業不動産(CRE)戦略が本格化しない背景とは?
資本市場や会計制度の変化などを背景に、企業がCRE戦略に組織的に取り組む必要性が高まっており、我が国でも言葉として産業界に広まりつつあるが、残念ながら、適切なマネジメント体制の下で組織的に取り組む企業はまだ少ないと思われる。欧米の先進的なグローバル企業は、既にCRE戦略を実践している一方、我が国では大企業でも、組織的な取り組みが遅れているとみられる2。さらに中堅・中小企業では、CRE戦略の認知度自体がまだ低いのではないかと思われる。
それでは、日本企業がCRE戦略の本格的な実践になかなか至らないのは、どうしてだろうか?今回のコラムでは、その背景について考えてみたい。
1 筆者が執筆したCRE 戦略に関わる主要な論考(弊社媒体)については、弊社ホームページの筆者ページ「百嶋 徹のレポート」を参照されたい。
2 米ジョーンズ ラング ラサール(JLL)が2014年12月に実施した世界36か国の大企業に属するCRE業務の担当者(544 名が回答)へのアンケート調査(企業不動産(CRE)のグローバルトレンド 2015 年)が参考になる。同調査結果から、日本の大企業では、海外の大企業に比べCRE戦略の組織的な取り組みが相対的に遅れていることがうかがえる。
CREの経営資源としての重要性の認識
土地神話の崩壊以降、価格変動リスクを抱えるようになったCREについて、適切なマネジメント体制を構築することが必要になっているが、現在も多くの企業が、CREを戦略的な経営資源というより、担保資産として所有し、その結果有効活用されていないケースもみられるのではないだろうか。CRE戦略の認知度がまだ低い中小企業において、特にこのような傾向が強いとみられる。換金性の高い好立地のCREが企業価値向上に寄与しない状況を放置すると、固定資産税を払い続けなければならないことに加え、買収されるリスクすら高まりかねないことに注意が必要だ。
企業経営の短期志向
CRE戦略の本質的な目的は、単にコスト削減や不動産売却だけにとどまらず、従業員の能力や創造性を最大限に引き出しイノベーション創出につなげていくための創造的なオフィス、すなわち「クリエイティブオフィス」4を構築・運用したり、事業の選択と集中に基づく事業ポートフォリオ(資産構造)や資本構成(capitalization)の入れ替え・改善を加速するなど、中期的な経営戦略の遂行を不動産の視点からしっかりとサポートすることにある、と筆者は考えている。筆者は、このような戦略を「経営層の意思決定・戦略遂行に資する」という意味で「マネジメント・レイヤーのCRE戦略」と呼んでいる。
3 「我が国の大企業の多くが2005年前後を境に経営の短期志向に陥った」とする筆者の考え方については、拙稿「CSR(企業の社会的責任)再考」『ニッセイ基礎研REPORT』2009 年12月号、同「最近の企業不祥事を考える」ニッセイ基礎研究所『研究員の眼』2015年12月28日、同「社会的ミッション起点のCSR経営のすすめ」ニッセイ基礎研究所『基礎研レポート』2019年3月25日を参照されたい。
4 クリエイティブオフィスの考え方・在り方については、拙稿「クリエイティブオフィスのすすめ」ニッセイ基礎研究所『ニッセイ基礎研所報』Vol.62(2018 年6 月)を参照されたい。
収益貢献の定量把握は売却・賃貸用への転用・コスト削減に限られる
従って、CREへの意識は、前述の経営の短期志向の問題と相まって、どうしても利益貢献の定量把握できるコスト削減や売却へ向かってしまう。
自前主義
日本企業は、CREに限らず元々自前主義に陥りがちであり、未だCRE戦略に取り組む企業も少ないため、CRE業務でアウトソーシングを戦略的に活用するとの発想がなかなか拡がらない、と考えられる。一方、CRE戦略の海外先進事例では、戦略的なアウトソーシングが必ず行われている、と言っても過言ではない。
5 先進的なグローバル企業のCRE戦略には、(1)CREマネジメントの一元化に加え、(2)外部ベンダーの戦略的活用、(3)創造的なワークプレイスおよびワークスタイルの重視、という3つの共通点が見られ、筆者は、これらをCRE 戦略を実践するための「三種の神器」と呼んでいる。
「CRE戦略=不動産売却」という誤解
前述の通り、海外の先進的なグローバル企業は、既にCRE戦略を実践している一方、我が国企業では、大企業ですら組織的な取組が遅れている。我が国企業は、グローバル競争の土俵に立つためにも、本コラムで指摘した問題点を一刻も早く解消し、CRE戦略に着手することが求められる。
(2019年03月29日「研究員の眼」)
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社会研究部 上席研究員
百嶋 徹 (ひゃくしま とおる)
研究・専門分野
企業経営、産業競争力、産業政策、イノベーション、企業不動産(CRE)、オフィス戦略、AI・IOT・自動運転、スマートシティ、CSR・ESG経営
03-3512-1797
- 【職歴】
1985年 株式会社野村総合研究所入社
1995年 野村アセットマネジメント株式会社出向
1998年 ニッセイ基礎研究所入社 産業調査部
2001年 社会研究部門
2013年7月より現職
・明治大学経営学部 特別招聘教授(2014年度~2016年度)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
・(財)産業研究所・企業経営研究会委員(2007年)
・麗澤大学企業倫理研究センター・企業不動産研究会委員(2007年)
・国土交通省・合理的なCRE戦略の推進に関する研究会(CRE研究会) ワーキンググループ委員(2007年)
・公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会CREマネジメント研究部会委員(2013年~)
【受賞】
・日経金融新聞(現・日経ヴェリタス)及びInstitutional Investor誌 アナリストランキング 素材産業部門 第1位
(1994年発表)
・第1回 日本ファシリティマネジメント大賞 奨励賞受賞(単行本『CRE(企業不動産)戦略と企業経営』)
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