2019年03月28日

平成の労働市場を振り返る~働き方はどのように変わったのか~

経済研究部 経済調査部長   斎藤 太郎

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3――雇用の非正規化による労働市場への影響

1雇用者数増加の中心は非正規雇用
平成30年間の就業者数の増加は主として女性、高齢者によるものであった。次に雇用形態別の推移を見ていく。平成30年間で雇用者数4(役員を除く)は1464万人増加(4132万人→5596万人)したが、その9割以上がパート・アルバイト、契約社員、派遣社員などの非正規雇用の増加によるものである。非正規雇用が1364万人増加(755万人→2120万人)したのに対して、正規雇用の増加幅は99万人(3377万人→3476万人)にすぎない。

男性の正規雇用はこの数年間は増加しているものの、30年間の累計では▲29万人の減少となる一方、非正規雇用が459万人の増加となっている。女性は正規、非正規ともに増加しているが、非正規雇用の増加幅(905万人)が正規雇用の増加幅(128万人)を大きく上回っている(図表11)。平成が始まる頃には20%以下だった非正規雇用比率はほぼ一貫して上昇し続けている。2000年頃までは女性が非正規雇用の中心だったが、1990年代後半以降は経済の長期停滞、グローバル化を背景に企業の人件費抑制姿勢が高まったこともあり、男性の非正規雇用が急増した。アベノミクスが始まった2013年以降は正規雇用が増加し、非正規雇用比率の上昇に歯止めがかかる兆しもみられたが、2018年は再び非正規雇用が大幅に増加し、非正規雇用比率は37.9%と過去最高水準を更新した(図表12)。
図表11 雇用形態別雇用者数の推移(平成30年間)/図表12 非正規雇用比率の推移
図表13 男女別・年齢階級別非正規雇用比率の変化(平成30年間) もともと非正規で働く人の割合が高い女性、高齢者がより多く働くようになっているため、労働市場全体の非正規雇用比率が上昇することは必然ともいえるが、男女、年齢階級別にみても全ての層で非正規雇用比率が上昇している(図表13)。特に15~24歳の若年層の上昇が著しいが、これはパート・アルバイトなど非正規で働く学生の割合が高まっているためである。平成の30年間で男性の非正規雇用比率は14.1%ポイント(8.1%→22.2%)、女性の非正規雇用比率は21.0%ポイント(35.1%→56.1%)上昇した。
図表14 非正規社員の雇用理由 雇用の非正規化が進んできた背景には、企業側、労働者側それぞれの要因がある。

厚生労働省の「就業形態の多様化に関する総合実態調査」(2014年)によれば、非正規社員を雇用している理由として最も多いのは「賃金の節約のため(38.6%)」で、それに続くのが「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため(32.9%)」、「即戦力・能力のある人材を確保するため(30.7%)」、「専門的業務に対応するため(28.4%)」となっている(図表14)。この調査からは、企業が非正規雇用を増やしているのは、(1)人件費の削減、(2)専門人材、即戦力の確保、が主な理由となっていることが分かる。
図表15 非正規社員が現在の就業形態を選択した理由 一方、労働者側の要因としては、ライフスタイルや就業に対する価値観が多様化し、非正規の雇用形態を希望する労働者が増えていることが挙げられる。非正規社員を選んだ理由としては、「正社員として働ける会社がなかったから(18.1%)」とやむをえず非正規社員として働いている人もいるが、それは多数派ではない。最も多い理由は「自分の都合のよい時間に働けるから(37.9%)」で、それに続くのが「家計の補助、学費等を得たいから(30.6%)」、「家庭の事情(育児・介護等)と両立しやすいから(25.4%)」となっており、自発的に非正規雇用を選択したことを窺わせる回答も多い(図表15)。
図表16 非正規雇用の理由(割合) また、「労働力調査(詳細集計)」によれば、現在の雇用形態を選択した理由として「正規の職員・従業員の仕事がないから」を挙げる不本意型の非正規労働者の割合は2013年1-3月期の18.6%から2018年10-12月期には11.3%へと低下している5。逆に、「自分の都合のよい時間に働きたいから」という理由で自ら非正規を選択した労働者の割合は2013年1-3月期の22.4%から2018年10-12月期には28.9%へと上昇している(図表16)。女性や高齢者がより多く働くようになる中では、時間や場所を限定して働く人が増えることは自然なことともいえる。自ら望んで非正規で働く人が増えることを悲観的に捉える必要はないだろう。
ただし、男女、年齢階級によって非正規の雇用形態を選択した理由にはばらつきがあることには注意が必要だ。女性は「自分の都合のよい時間に働きたいから」、「家計の補助・学費等を得たいから」、「家事・育児・介護等と両立しやすいから」という理由が多く、「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由は少ない。一方、男性は若年層(15~24歳)、高齢層(65歳以上)では「自分の都合のよい時間に働きたいから」という理由が最も多いが、25~64歳では「正規の職員・従業員の仕事がないから」という理由が最も多い(図表17、18)。男性については働き盛りの年齢層を中心に不本意型の非正規雇用が多いとみることができる。不本意型の非正規雇用を減少させることが重要な政策課題といえるだろう。
図表17 非正規の雇用形態についている理由(男性)/図表18 非正規の雇用形態についている理由(女性)
 
4 雇用者=就業者-(自営業主+家族従業者)
5 「労働力調査(詳細集計)」で現在の雇用形態を選択した理由が調査されるようになったのは2013年1-3月期からである。
2非正規化による労働時間への影響
日本の労働時間は国際的に長いことで知られてきたが、長期的にみれば減少傾向が続いている。厚生労働省の「毎月勤労統計」を用いて、労働者一人当たりの年間総労働時間を確認すると、1970年代から80年代にかけて2000時間を大きく上回る水準で推移していたが、1980年代末から1990年代初めにかけて水準を大きく切り下げ、1990年代前半には2000時間を割り込んだ。これは、改正労働基準法の施行によって法定労働時間が週48時間から40時間へと段階的に引き下げられ、週休2日制が定着してきた影響が大きい。年間総労働時間はその後も減少を続け、1990年代後半には1800時間台、2000年代後半以降は1700時間台となっている(図表19)。平成30年間で年間総労働時間は▲384時間減少した(減少率は▲18.4%)。
図表19 年間総労働時間の推移 ただし、労働時間を就業形態別にみると、正社員を中心とする一般労働者の総労働時間は「毎月勤労統計」で就業形態別の労働時間の調査が開始された1993年以降、2000時間前後でほぼ一定となっている。一人当たりの労働時間が減少を続けているのは、労働者全体に占めるパートタイム労働者などの短時間労働者の割合が高まっていることに加え、パートタイム労働者の労働時間が減少しているためである。1993年から2018年までの25年間で一般労働者の総労働時間は▲2.6%しか減っていないが、パートタイム労働者の総労働時間は▲13.7%減っている。
図表20 雇用形態別年間収入(2018年) 3非正規化による賃金への影響
相対的に賃金水準の低い非正規雇用の割合が高まることは、労働者一人当たりの平均賃金を押し下げる要因となる。「労働力調査(詳細集計)」では、雇用形態別、年収階級別の雇用者数が調査されている。これを基に雇用形態別の平均年収(2018年)を試算すると、正社員の472万円に対して、嘱託296万円、契約社員267万円、派遣社員200万円、パート・アルバイト120万円となった6(図表20)。正社員に対する非正社員の賃金水準は嘱託で63%、契約社員で57%、派遣社員で42%、パート・アルバイトで25%である。なお、年収ベースでの比較であるため、時給の格差に加え、非正社員は正社員に比べて労働時間、労働日数が少ないこと、ボーナスが支給されない者が多いこと、などの影響が含まれている。
厚生労働省の「毎月勤労統計」を用いて、平成30年間の賃金動向を振り返ってみると、平成初期の1991年までは前年比で4%台の高い伸びとなっていたが、バブル崩壊とともに賃金上昇率は大きく低下し、1990年代後半からは賃金上昇率がマイナスとなることが常態化するようになった。2014年以降は5年連続で賃金が上昇しているが、1990年代半ばまでと比べれば伸びは低い。賃金上昇率を「労働者賃金上昇率要因7」と「非正規雇用比率要因」に要因分解すると、労働者賃金上昇率要因は景気回復期にはプラスになることが多いが、ほとんどの年で非正規雇用比率の上昇が平均賃金の押し下げとなっていることが分かる(図表21)。
図表21 賃金上昇率の要因分解/図表22 平成30年間の賃金上昇率の要因分解
平成30年間で労働者一人当たりの平均賃金は9.8%上昇(年平均0.3%)したが、労働者賃金上昇率要因の28.1%(年平均0.9%)に対し、非正規雇用比率要因が▲18.3%(年平均▲0.6%)となっている(図表22)。なお、一人当たり賃金のピークは1997年であり直近の水準はそれに比べると▲10%以上低い。雇用者数は大幅に増加しているものの、一人当たり賃金は依然として伸び悩みが続いている。
 
6 200~299万円は250万円、300~399万円は350万円というように、それぞれの所得階級の中間値をとって計算しているため、結果は幅をもって見る必要がある。
7 労働者賃金上昇率要因は、雇用形態別の賃金上昇率を前年の労働者構成比で加重平均することによって求められる。ただし、ここでは「労働力調査」の雇用形態別年間収入と労働者構成比を用いて求めた非正規雇用比率要因を「毎月勤労統計」の賃金上昇率(現金給与総額)から引いたものを労働者賃金上昇率要因とした。
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経済研究部   経済調査部長

斎藤 太郎 (さいとう たろう)

研究・専門分野
日本経済、雇用

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