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韓国でも外国人労働者が増加傾向―外国人労働者増加のきっかけとなった雇用許可制の現状と課題を探る―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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1) 雇用許可制の基本概念
雇用許可制が導入される前に、企業は外国人産業研修生制度を利用し、制限的に外国人産業研修生を受け入れることにより、人材不足を少しは解消することができたものの、2003年6月の臨時国会で外国人労働者の雇用などに関する法律が成立し、2004年8月17日から雇用許可制が施行されることにより、より幅広く、そして合法的に外国人労働者を雇用することが可能になった。
雇用許可制は、慢性的な労働力不足に苦しんでいる中小企業が政府から外国人雇用の許可を受け、合法的に外国人労働者を労働者として雇用する制度である。外国人労働者を合法的・透明的に管理し、労働力不足の問題を解決することが目的であるものの、すべての企業が利用できる制度ではなく、外国人労働者をいつまでも雇用できる制度でもない。
雇用許可制は、純粋外国人労働者の雇用を許可する一般雇用許可制(E-9)と韓国系外国人(在外同胞)を対象とした特例雇用許可制(訪問就業制:H-2)に区分される。一般雇用許可制の対象国は、フィリピン、タイ、インドネシア、ベトナム、モンゴル、ウズベキスタン、カンボジア、パキスタン、中国、バングラデシュ、キルギス、ネパール、ミャンマー、スリランカ、東ティモール、ラオスの16カ国であり、韓国政府は16カ国政府との間でMOU2を締結し、毎年、決める外国人労働者の受け入れ人数枠に合わせて外国人労働者を受け入れている。図表6は、雇用許可制による2018年度新規外国人労働者割当計画を示している。
2 了解覚書(Memorandum of Understanding):行政機関等の組織間の合意事項を記した文書であるものの、法的拘束力はない。
雇用許可制は基本的に次のような基本原則に基づいて運営されている。
1.単純労務分野限定の原則
雇用許可制では、雇用できる外国人労働者を非専門就業(E-9)と訪問就業(H-2)に限定し、就業できる業種を製造業、建設業、サービス業、農畜産業、水産業のうち、単純労務分野に制限している。
2.労働市場補完の原則
雇用許可制は、内国人の雇用を保護するために労働市場補完性の原則を適用している。この原則は外国人労働者の雇用が韓国の労働市場に否定的な影響を与えてはならないという趣旨に基づき、足りない労働力は高齢者、女性等国内の人財を優先的に活用し、補充的に外国人労働者を活用するようにしている。この原則はドイツの外国人雇用許可制と類似である。つまり、ドイツの場合も国内労働市場でドイツ人労働者の雇用ができない場合のみ外国人の雇用を許容している。
3.需要主導的制度(demand driven system)の原則
雇用許可制は、需要主導的制度(demand driven system)を原則としており、企業が自由に外国人労働者を選択することを保障している。企業は雇用が許可された範囲(人数)内で外国人労働者の雇用を申し込むことが可能であり、事前に求職者(外国人労働者)の経歴、写真などの人的事項を確認することができる。企業は企業が提示した労働条件を受け入れた外国人労働者から選別し、雇用契約を締結する。
4.選定や導入手続の透明性の原則
外国人労働者の選定や導入手続きを透明にし、外国人労働者の送出過程で発生する不正行為や副作用を最大限抑制しようとしている。そのために外国人労働者の導入過程で民間機関の介入を排除しており、送出国と了解覚書(MOU)を締結して外国人労働者の選抜条件、方法、機関、相互間の権利義務事項などを規定している。韓国国内でも外国人労働者の紹介や就業斡旋などは、雇用労働部(以前は労働部)の雇用支援センターが担当するなど、公的機関が外国人労働者の受け入れ関連業務を担当することにより、プロセスの透明化と不正の減少を図っている。
5.定住化防止の原則
外国人労働者を短期にローテーションさせることにより定住化を防止している。外国人労働者の就職許容期間(雇用期間)は3年に制限しており、使用者が継続雇用を希望する場合に限って1年10ヶ月までの雇用延長を許可している。
6.差別禁止及び均等処遇の原則
合法的に就業した外国人労働者に対する不当な差別を禁止すると同時に、国内の労働関連法を同等に適用し、外国人労働者の権益を保護することを原則にしている。つまり、外国人労働者も内国人と同様に、労働関連法が適用され、労災保険、雇用保険、国民年金、健康保険、最低賃金、労働三権が利用できるなど基本的な権益が保障されている。
(2019年03月27日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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